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3-27 力の差

「(っつか、一応聞いておきたいんだけどさぁ?)」

「なんだ?」

「(ここ何処さ?)」


 見渡す限り、どこまでも続く荒野。

 こんな場所知らないし、聞いた事も無い。

 少なくてもクルガの町周辺じゃない事だけは確かだ。


「ふむ……どこだったかな?」


 おい!? テメェが連れて来たのに無責任過ぎない!? 俺が帰る時どうすんじゃい!?


「確かヴァングリッツの国のどこかだったと思うが……忘れた」


 大雑把って言うか適当過ぎないかこの人……? いや、人じゃねえや魔王だ。

 ヴァングリッツって何さ? 何かの名前か?


「まあ、ここなら多少地形変えても文句は言われないから気にするな。俺様がヴァングリッツを始めとした餓鬼共の為に骨を折ってやってるんだから、文句なんて言ったらぶち殺すしな」


 良く分かんないけど、コイツが理不尽だって事だけは分かる。

 そして、そのヴァングリッツ(?)とか言う何かが振り回されてる可哀想な奴だってのも。


「さあ、そんな世間話は終わりにして、再開と行こうぜ!」


 ああ、クソ! コッチは全然この場を切り抜ける手を考え付いてねえっつうのに!

 とにかく―――コイツの“2割”に対応しなきゃ話にならねえ!

 

 【ディフェンシブ】

 【パワーエクステンド】


 天術で防御力と筋力を強化。

 旭日の剣装備時の追加効果で天術の効果はプラス補正されるから、付け焼き刃にしたってそこそこ期待できる。


「そうだ、それで良い。貴様の力を絞り出すってのは、そう言う事さ」


 ついでにもう一手!


 【ブレイクストリングス】


 弱体化魔法―――コイツが入ってくれれば、戦いが大分楽になる!

 が、先程の【シャドウランサー】の時と同じように、赤髪の体から20cm手前の空間で魔法の光がバシュンッと弾け飛んで四散する。

 チッ……ダメか!

 攻撃魔法だけじゃなく、弱体化魔法も無効化されるってか。

 ……しゃーない。

 MP消費激しいから出来ればやりたくなかったけど―――アザリア、お前の天術借りるぞ……!


 【サンクチュアリ】


 光―――。

 俺を中心をしてドーム状に光が広がり、周囲1km程を包む。


「これは……杖の勇者の使う究極天術か? ハハハッ、良い! 良いぞ! これでこそ魔神の卵だ!!」


 【サンクチュアリ】の効果の1番の“売り”は「効果範囲内の魔法を無効化する」だ。そこは間違いない。

 けど―――今回期待したのはそこではない。

 そもそも、コッチが魔法封じなんてしなくても、赤髪は自分で魔法を使わない縛りプレイしてくれてるし。大体、魔王相手じゃ魔法を完全に封じられないってアドバンスが証明してしまったしね

 俺が【サンクチュアリ】を使ったのはもう1つの効果


『【サンクチュアリ】

 カテゴリー:天術

 属性:超神聖/支援

 威力:-

 範囲:AAA

 効果範囲内で発動する魔法を全て無効化。

 効果範囲内に居る発動者が味方と認識する全ての対象者に能力値プラス補正。発動者が敵と認識する全ての対象者に能力値マイナス補正』


 自身への支援(バフ)効果と相手への弱体化(デバフ)効果。

 普通の弱体化魔法ならともかく、アザリアの“取って置き”のコイツならどうよ?


「む?」


 赤髪が自身の体に微かな異変を感じたのか、手を握ったり開いたりする。

 ヨシ! 弱体化が通った!!

 っつうか、これが通ってくれなかったら本当にどうしようかと思った!!

 それに―――思った程【サンクチュアリ】の発動で消耗して無いな? 超神聖属性の天術だから、旭日の剣で消費2分の1にしてるってのもあるけど……やっぱり俺のMP総量が上がってるからか。………その俺ですら発動出来なかったって【テレポート】は本当、どれだけ支払いさせられるんだよ…。


「良いぜ、良いぜ、これでこそだ!」


 ギラリッ、と言う擬音が良く似合う視線を俺に投げて来る。

 ぶっちゃけ怖いんですけど……。

 とか内心ビビって居る間に赤髪が足を踏み出す。


――― ドンッ


 凄まじい踏み込みのパワーにより、周囲3mの地面が跳ね上がって軽い振動が俺の元まで届く。

 次の瞬間、空間を飛び越えたと錯覚する程の加速―――!?

 やっぱり、速い……けど、コッチの強化と野郎の弱体化の相乗効果で、さっきに比べれば格段にましだ!

 加速無しでも、ギリギリ目で追える。


 ヨシ!


 左から回り込むように走って来る姿は見えている。

 反対側に軽くステップしながら、接近して来るタイミングを計る。

 1、2の、あっ、ワンテンポ速い…!

 突っ込んで来るのをカウンターで一当てしてやろうと思ったのに、急な減速でタイミングがずれる。

 コッチの狙いが読まれてたか……!

 こんの野郎がッ!! アホ程能力差有るんだから、何も考えずに突っ込んで来いよ!


「2割の力しか使わんが、別に貴様を舐めてかかって居る訳ではないぞ」

「(ああ、そうかい!!)」


 やけくそ気味に答えを返しつつ、距離を開けながら収集箱(コレクトボックス)の中から手当たり次第に物を投げる。

 石、泥、チャクラム、残飯、その他諸々。

 気分的には、未来から来た青い狸がテンパった時にポケットから色々出すような、あんな感じだ。

 赤髪は、それを(わずら)わしそうに避ける。


「なんだ? 俺様の力にビビって狂ったか?」


 ツマラナそうに赤髪が足を止める―――それを待ってた!

 一瞬の隙、一瞬の油断。

 アドバンスの青竜刀“冥哭”を撃ち出す―――!

 顔面直撃コースと完璧なタイミング。


「ぉっと」


 ―――だったのに、余裕で首振って回避しやがった!?

 長い後ろ髪を数本切って明後日の方向へ飛んで行く冥哭を回収。

 ……いや、でも、髪が切れたな? 髪だって当然肉体の一部って判定の筈。って事は、少なくてもダメージは通るって事か。

 魔法は無効にされるけど、武器でなら行けるか……? とは言え、素直に食らってくれる訳じゃないし、生半可な攻撃力の武器じゃ多分ダメだ。と、すると、ダメージが入る可能性が有るのは旭日の剣と冥哭の2つだけだな。


「はっ、油断を誘って攻撃とは、随分な真似をするじゃないか?」

「(もしかして、怒りました?)」


 結構内心バクバクです。

 だって、もし「ブチキレた!!」と10割の力で向かって来たら、どう考えたってその瞬間に俺の運命は終わる。

 が、そんな俺の不安に反して、赤髪は心底嬉しそうにニィっと笑う


「いや、それで良い! 戦いには卑怯も何も無い。持てる手を全て尽くし、最後に立っていた強者こそが正しい!」


 流石弱肉強食がモットーの魔族の筆頭……言う事が正に魔王だわ。

 呆れる程に分かりやすい。

 次の手を考える1秒にも満たないその時間、それを縫うように赤髪の足がヒュッと空気を切る。

 何だ? と思うよりも早く―――土砂が津波のように俺に襲いかかった。

 音速を越えた土と石と砂の弾幕!?


「ミャ?」


 は?

 赤髪が地面を蹴り上げたのだと気付いたのは、土砂が俺の1m手前まで迫った時だった。

 避け―――れない!?

 せめて、受けろ!!

 防御に回ろうとするが時間が足りない。

 息を止めて【アクセルブレス】発動。

 壁のように迫って来る土砂の速度が若干ゆっくりになる。

 この隙に―――深淵のマントを引っ張り出して(くる)まる。

 次の瞬間、マントに叩きつけられる無数の衝撃。だが、その衝撃はマントの表面で殺されて、内側の俺の所までは欠片も届かない。


 あっぶな……!

 マジで速過ぎて何されたか分からなかった!?

 一手一手が混じり気のない即死攻撃……!


 ………いや、まあ、子猫の体だと大抵の敵の攻撃は即死攻撃になるんだけどさ……。



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