3-26 最強の魔王
塔の崩落から何とか無事着地―――したのは良いんだが、事態が好転する気配は無い。
赤髪は着地してから、ずっと俺の方が動き出すのを待っているのか動かずジッとしている。
ただ、それは決して俺を警戒しての行動ではない。「次はどんな悪足掻きするんだ?」とニヤニヤしているだけだ。
この赤髪……マジで強い!
どれくらい強いって、信じられないくらい強い。
赤髪自身の言う事が本当だとしたら、コイツの1割の力がアドバンスの3割増の強さ。って事は、コイツが本気を出したらアドバンスの10倍以上強いって事になる。
……え? どんだけよって話し。
俺が散々苦労して、ダブルノックアウトな展開でギリギリ倒せたアドバンスの10倍て!? 10倍てアンタ!!
同じ魔王なのに、力に差が有り過ぎやしませんかねぇ!?
“ピンからキリまで”って言ったって、限度があんだろうが! 普通良いとこ倍くらいじゃないんかい!?
しかも、この数字はあくまで赤髪が「魔法やスキルを使わない素の状態」での話。つまり―――コイツの強さの上限はもっともっと上に有るって事……。
いや、いやいや、本当にちょっと待ってくれよ……。
もしかして、残りの11人の魔王もこんな強さとかじゃないよね? アドバンス1人だけが極端に弱くて、他は皆赤髪くらいの強さを当たり前に振り回すとかだったら、もう本当にどうしようもねえぞコレ……!
「どうした? コッチはまだ体が温まっても居ないんだ、もう少し遊ばせてくれよ」
あれだけやって、体温まってすら居ないってか……? コイツにとっては俺の全力は準備運動以下ってか?
……悔しいが、まあ、そりゃあそうだろう……。
先程見せた赤髪の“2割”のスピードとパワー。それに俺は、まったく対応出来なかった。
パンチを避けれたのは、本当に運が良かっただけだ。
もし少しでも食らって居れば、肉片になって瓦礫と一緒に辺りに散らばって居た事だろう。
【魔王】の特性にくっ付いているスキル【ダブルハート】が有るから、1度は蘇れる……とかそういう話ではない。
蘇ったところで、どう太刀打ちすりゃ良いのよって話。
逃げようにも、相手は俺の数倍速く動ける。
隠れたって野郎の鋭い第六感からは逃れられない。
じゃあ、戦うか?
いや、それが1番無茶な選択肢だろ。
2割の時点で既に付いて行けてないのに、まだまだ上が残ってるんだぞ? どう戦ったって勝てる見込みねえよ。
俺が攻める事に踏み出せずに居ると、横から声が飛んで来た。
「剣の勇者―――!!」
アザリアだった。
青褪めた顔で、【仮想体】と赤髪を見比べて、自分を奮い立たせるように両手が赤くなる程強く極光の杖を握っている。
「いくら貴方でも、最強の魔王との一騎打ちは無茶です! 私も、か、加勢します!」
いや、加勢は良いけど声震えてんじゃん……。
ってか、待って? 今「最強の魔王」って言ったよね? え? 何? コイツが最強なの?
驚くよりもまず安心してしまった。いや、だって、これ以上の化物が居ないって事だし。
声を張り上げたアザリアに、赤髪がジロっと視線を向ける。それ以上の事をされた訳ではないのに、アザリアは「ヒッ……」と小さな悲鳴をあげて一歩後ずさる。
……おいおい、あのアザリアが完全にビビってるぜ。
「あれが今代の杖の勇者か? 魔力波動が小さ過ぎて何も見えねぇ……。勇者も随分と質が落ちたものだな、正直がっかりだ。ここ最近魔王が代を重ねるごとに弱くなるのは、相手の勇者が雑魚だからだな。まったく、もう少し頑張ってほしいもんだ……」
何やら好き勝手言って溜息を吐く。
そんな隙だらけな姿だが、俺が攻撃の気配を見せた瞬間に右手がピクッと反応して動き出そうとしていた。
隙だらけなのは見せかけで、実際は全然スイッチがオフになってないって事かよ……。
「杖の勇者がもう少し使い物になるのなら混ぜてやっても良かったが、あんな雑魚にうろつかれたら邪魔で仕方無いし、外野が囀ってるのも五月蠅くて敵わん」
言うとゆっくりを手を構える。
手の中で黒い光が燃えるように輝く。
魔法を発動する時の予兆―――!?
「おい、場所を移すぞ」
俺が何か返事をするより早く、赤髪が魔法を発動する。
「【転移魔法】」
視界がグルンッと一回転し、コーヒーに垂らされたミルクのように、今まで見えていた景色の中にまったく別の景色が溶けて混ざる。
グニャッとした気持ち悪い景色が1秒で通り過ぎ、次に視界がクリアになった時には―――荒野のど真ん中に俺と赤髪の2人だけが立っていた(あと仮想体も)。
瞬間移動―――!?
ゲームじゃ散々「ルー●」とか「そらをと●」でパッと移動していたが、実際に自分がやると凄いビビるな。
『【テレポート】
カテゴリー:魔法
属性:転移
威力:-
範囲:E
1度でも自分が行った事ある場所ならば瞬時に移動する事の出来る魔法。
消費魔力が非常に高く、魔力が足りない場合は発動がキャンセルされる』
お、収集出来てる。
これは嬉しい!
これからは労せずに町から町へ移動でき―――……いや、俺が知ってる町ってクルガの町と王都くらいじゃん……微妙に有難味が薄い。こんな事なら、もっと色んな場所歩き回っとけば良かったな……。
いや、いやいや、こんな事に喜んでる場合じゃねえよ!
今は目の前の大きな問題に集中だ!
転移魔法を発動し終えた赤髪は、静かに手を降ろし俺に視線を向ける。
何か言おうとしたが、別の何かに気付いて「あ、そう言えば」と口を開ける。
「今の魔法は場所を移動する為の物なので、貴様への『異能は使わない』には該当しない物とする」
何、その微妙な律義さ……。
このまま戦闘を再開しても、俺に勝ち目は無い。
とにかく、考える時間が欲しい! 少しでも―――何か、野郎を切り崩せる何かを。この場を切り抜けられる何かを―――考える時間が!
「(お前、本当に最強の魔王なのか……?)」
「ここ30年は“魔王同士の戦いを禁じる”なんて馬鹿なルールが出来たせいで、他の奴等と直接戦った事はねえが―――少なくても俺様と1対1で勝てる奴は居ねえな」
……マジか。って事は、コイツはガチの最強って事じゃねえか!?
魔王の中で最強って事は、当然この世界に敵は無いって事で……それは、つまり
――― コイツが、この世界のラスボスって意味だ。
ちょっと待って。
ラスボスが出て来るの早過ぎない?
ちょっと顔見せする程度ならともかく、こんなガッツリ戦いに来るのはタイミングとして早過ぎない?
魔王が半分くらい倒されたら、ようやく「ふっふっふ、やるようだな勇者よ」とか言いながら出て来るもんじゃないのラスボスって?
なんで魔王1人倒した直後に、こんなクソヤバいのが出て来てんのさ!!
「エトランゼとデイトナはこの30年で何かしらの隠し玉だか奥の手だか身に着けたっぽい雰囲気だが、それは俺様も同じだからな」
何やら独り言を呟いてニヤリと笑う。
何事かは分からないが、絶対俺や人間達にとっては良くない話だろう。
「さて、話は終わりにして続きと行こうか」
ヤベェ……何も思い付いてない!
……いや、待てよ? 今手に入れたばかりの転移魔法で逃げれば良いんじゃん?
俺がどこに跳んだかなんてすぐには分からないだろうし、野郎が俺を探し出すまでの間に何か対策が思い付くかもだし。
と言う訳で―――
【転移魔法】
……。
………。
…………。
……あれ? 何も起こらないんですけど……?
ふと気付くと、ログが流れていた。
『魔力が不足している為、魔法:【テレポート】の発動はキャンセルされました』
は?
魔力……え? 魔力!? これってMPって事だよね!? エネルギー不足って事だよね!?
え? ちょっと待って?
俺、【魔王】の特性付けて魔力超強化されてんですけど? しかも特性の効果で魔法の発動時のエネルギーの支払い10分の1なんスけど? 今日は碌にMPを消費するような行動してねえし、魔法だって数えるくらいしか撃ってない……のに。
これで魔力足りねえって……え? 何? 転移魔法ってどんだけ消費MP高いの!? 馬鹿じゃないの!? 本当に馬鹿じゃないの!?
「どうした? まさかとは思うが、転移術式を発動しようして失敗したのか?」
その“まさか”じゃボケぇ!!
クソッ! 赤髪が当たり前のように発動していたから、俺も行けるかと思ったがダメだった……。
そりゃそうだよねぇ、アッチは地上最強の魔王でラスボス。コッチはただの猫に毛が生えた程度の存在だ。
保有してるMP量だって、桁が1つ2つ違うに決まってる。




