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3-24 最強の力

 下の階で失敬してきた緑色の薬品―――


『【麻痺薬 Lv.3】

 カテゴリー:素材

 サイズ:小

 レアリティ:E

 所持数:1/30

 エルキナ草の花から取れる毒素を抽出した物。

 速攻性が高く、皮膚に触れただけで数秒で麻痺毒が回る。ただし、持続性、致死性は共に低く、この薬品によって死ぬ事はほぼ無い。麻痺を受けたとしても5分もかからず毒素は血中で溶けて無害化される』


 と言う訳です。

 相手を殺す為に使うのではなく、短い時間苦しめる為に使う薬品。

 何より“速攻性が高い”ってのが良い。戦いの中で振り回すには持ってこいな1品ですな。

 そして、赤髪はもろにこの薬品を頭から被った。

 つまり―――地面に沈みやがれ!!


「(油断大敵……ってね)」


 ドヤッと言ってみた。

 しかし……赤髪は倒れなかった。


「ああ、くそっ! 髪がベトベトして気持ち悪ぃじゃねえか……!」


 何事も無かったように、長い髪を絞って薬品を床に撒いている。

 麻痺を食らっている様子はまったく……ない。


「(え? もしかして、効いてない……?)」

「ぁん? 何がだ? もしかして、この液体の麻痺毒の事か? だったら無駄だぞ。俺様の究極の肉体は、大抵の状態異常は勝手に無効にしちまうからな」


 えぇぇぇぇぇえ!? いや、そりゃ、ゲームのボスでは状態異常無効とかざらに有りますけども……。現実でそれはアリなのぉ!?

 俺の取って置きの一手だったんですけど! そんな簡単に防がれるとか、コイツ本当に何なの!?


「ま、それはともかく―――」


 絞り切って若干パサパサになった髪をバサッと背に戻し、呆れた目を俺に向ける。


「貴様……信じられんくらいに弱いな?」


 は? 何突然ディスってきてんの?

 まあ、確かにコイツは強い。魔王の中でどのくらいの位置かは分からないが、少なくてもアドバンスより強いのは確実。

 単純なパワーとスピードに関しては、体感だがアドバンスの3割増くらいだと思う。

 強いし速いが、パワーアップした俺が対応出来ないレベルじゃない。

 余裕の態度を見るからに、もう少し上が有りそうだが、それだって高が知れている。

 少なくてもコイツは俺が戦えない相手ではない。


「このままでは簡単に殺してしまうな……? よし、ハンデだ。俺様は貴様相手に、魔法とスキルを始めとした人間共が“異能”と呼ぶ一切の能力を使わない」

「(は? ハンデとか言ってられる余裕あんのかテメェ……?)」


 俺の返答が心底可笑しいのか、「ククっ」と喉を鳴らす様な笑い声を漏らす。


「いやいや、まさか俺様と貴様との実力差が分からない程だったとは……。なるほど、これはいつもの調子で戦い始めなかったのは正解だったな?」

「(どう言う意味だ?)」

「いつものように7割の力で戦い始めて居たら、貴様は今頃肉片1つ残って居なかっただろうな、って話だ」


 言いながら、首や手を回して準備運動する。

 まるで―――今までの戦いが、それ以下の運動だったと言うように。


「様子見に1割の力で戦った(・・・・・・・・)のは正解だったな? 流石俺様、行動に無駄が無い」


 ………え? 1割?

 まだ余力を残しているのは分かって居た―――けど、1割? いや、いやいやいやいや、それはねえだろ! だって、今見せた実力で既にアドバンスの3割増の強さなんだぞ!?


「まあ、流石に貴様も1割には付いてこれるようだし、ここからは―――2割の力で行くぞ?」


 フッと笑い、足を少し開いて腰を落とす。

 顔の前と腰の辺りで両腕を緩く握る。

 俺との戦闘で始めて見せる、構える姿。


「さあ、ちゃんと対応しろよ?」


 次の瞬間、ドンッと赤髪の周囲の空気が爆発し、床に足型とそこから伸びる放射状のひびを残して―――姿が消えた!?

 いや、居る!!


――― 目の前に!


 瞬きをする事すら許さない超スピード。

 先程まで見せていた速度が、本当の意味で「子猫とじゃれ合う」程度の力だったと理解する。


 倍の速度―――!!


 息が止まる。

 自分では完全に無意識の加速。

 周囲の世界が遅くなった事で、先程まで見えて居なかった、赤髪が拳を振り被る姿を猫の動体視力が捉える。

 さっきまで追えてた動きが、加速を使わないと捉えられねえ!!?


 避けろッ!!!!


 死に物狂いのジャンプでその場を飛び退く。

 尻尾の先に、振られた拳の余波を感じながらギリギリのタイミングで回避!

 空中を舞いながらホッと一息吐き、【アクセルブレス】が解除される。

 次の瞬間


――― 塔が崩壊した。


 俺が避けた事で空振(からぶ)った赤髪の拳。

 その拳の威力が、まるで杭打ち機のように床を貫通し、最上階から1階までを容易く抜いて支柱や壁を粉々に破砕した。


 倍のパワー……!?


 支柱と壁が壊れた事で自重を支え切れなくなり、残って居た“塔の骨組み”が勝手に崩壊する。


「ミャッ!?」


 うぉッ!?

 瓦礫の雨と共に体が重力に引っ張られて地面に落下を始める。


「この塔、脆過ぎると思わないか?」


 俺と同じように落下しながら、呆れたように赤髪が言う。

 いや、別に脆くは無いだろう。

 コッチの建築技術がどの程度かは詳しく知らないが、少なくても上って来る時に見た限りでは手抜き工事でも違法建築でも無かったと思う。

 それを、こんな簡単に粉砕するお前のパワーが異常なだけだ!!


「さあて、貴様は地面まで生きてる事が出来るかな?」


 蔑むように、それでいて楽しそうに言い、近くを落下していた瓦礫を掴み、俺に向かって投げる―――。

 空中で踏ん張る事も出来ず、姿勢制御もままならないと言うのに、赤髪は当たり前のように“投げる動作”をする。更に、その動作の勢いで体を一回転させて、元の姿勢に戻す。

 種族的に空を飛べる訳でも、何かしらの異能を使って浮遊している訳でもない。ただコイツは、こんな異常な状態での戦闘に慣れている。それも、地面に立っている時と遜色なく肉体稼働が出来るくらいに。

 ……クソ化物が!! 落下中くらい休憩させろやッ!!?

 俺達同様に落下していた【仮想体】を一旦収集箱に戻し、素早く俺の前に立たせる。


「(上等、だァ!!!)」


 飛んで来た巨大な瓦礫を、黄金の鎧に身を包んだ【仮想体】が旭日の剣で両断する。


「はっはっは、やるやる。で、次はどうするんだ?」


 瓦礫の弾丸は1つではない。絶え間なく、大小問わず投げ続けられている。

 対してコチラは【仮想体】が空中で剣を振った反動で無駄にクルクルと回転している。俺は野郎のように空中で姿勢制御するような技術は持って居ない。こんな事なら、大学の卒業旅行で誘われたスカイダイビングでもやっとけば良かった!!

 だからと言って対処不能―――な訳ねえだろうが!

 【仮想体】を再び戻し、コンマ1秒の間も置かずに再び創り出す。

 これで、体勢がリセットされて元通りになる。


「ほう、面白い人形の使い方をするな」


 赤髪の感心の言葉を無視して、2つ目の瓦礫を【仮想体】で粉砕し、即座に収集箱に戻して、出して、で姿勢をリセットさせて3つ目、4つ目と処理させる。

 地面に着くまでの時間は残り1秒無い。

 地に足が付けば、またあの化物みたいなスピードを振り回される。そうなったら、今度は対処できる自信が無い。

 だったら、空中戦で決めに行くしかない。

 受け身になるな! 手を出さなきゃダメだ!


――― 勝負!


 【仮想体】が5つ目の瓦礫を処理し、姿勢制御が出来なくなったところを今までと同じ手順で収集箱に戻す。

 6つ目、7つ目と瓦礫が迫る、が―――【仮想体】は目の前に出さない。

 黄金の鎧が出現したのは、赤髪の背後!


「む?」


 赤髪は当然、俺が同じように瓦礫を【仮想体】を使って処理すると思っていた筈だ。

 だからこその奇襲。

 俺に迫って居た瓦礫はどうするのか?

 決まっている。


 収集箱に放り込むんだよ!!


 俺に届いた途端に瓦礫が収集箱に放り込まれて消える。


 『【石材 Lv.32】

 カテゴリー:素材

 サイズ:大

 レアリティ:F

 所持数:29/30』


 この方法を使えば始めっから瓦礫は怖くなかった。

 ただ問題として、石系は元々所持数限界近くまで入れている為、連続で来られると収集箱に入れられなくと言う事。

 まあ、けど、お陰で良い奇襲に繋がったけどな!


 どれだけ空中での姿勢制御が優れて居ようが、地に足が付いている状態でのスピードが出せる訳じゃねえだろうが!

 間髪いれずに旭日の剣で赤髪の首を狙いに行く! が―――


「良い一手だ」


 赤髪が“空間を殴る”。

 すると、拳圧で赤髪の体が大きく後ろに吹き飛んで、迫って居た旭日の剣を(かわ)す。

 上手い―――っつうか、そんなんアリかよ!?


 文句を言っている間に地面が目の前。

 息を止めて【アクセルブレス】を発動。重力や落下のエネルギーを全て無効にして静かに着地。

 少し遅れて赤髪も地面に降り立つ。

 あれだけの高さから落ちて来たと言うのに、まるで当たり前のように全身のバネだけで落下の衝撃を殺してノーダメージ。

 マジで化物かよこの野郎……!


 赤髪の真似をして【仮想体】も着地してみたが、ドズンッと爆音をたててすっ転んだだけだった。

 まあ……ダメージは無いんですけどね……。



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