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3-23 猫vs最強

 赤髪がポケットから手を抜く。

 先程まで、【仮想体】との戦闘では一切手を使わなかったのに……どうやら、“本気モード”と言う事らしい。

 さっきまでの【仮想体】越しに向き合って居た時は違う。

 コイツのヤバい感じが、直接俺の神経を撫でて行くような錯覚……。

 今までの殺気が風のように吹き付けて来るような感じだったとすれば、今の殺気はナイフで貫いて来る鋭い感じ……。


「さあ、構えろ! 貴様の底の底まで力を絞り出せ!!」


 構えろ……と言われても、猫だから構えもへったくれもねえんだけど……。

 一応即座に動き出せる様に4本の足に力を込める。

 一方、俺に「構えろ」と言った赤髪自身は、両腕をダランと下げて警戒も緊張も無い棒立ち姿のまま俺を眺めている。

 もしかしたら、まだ会話で解決が……


「(あのさ―――)」

「うるせぇ、さっさと構えろ。殺すぞ」


 ですよね。

 無理だコレ。戦闘回避無理な奴だ。強制戦闘イベントだコレ。

 魔王となんて戦わずに済むのならそれに越した事はない。

 アドバンスを倒したのだって、俺が望んで挑んだ訳じゃない。偶然エンカウントしてしまったから、覚悟を決めた……って、それだけの話だ。

 確かにあの時俺は、俺の平穏な暮らしを護る為ならば魔王だろうが何だろうが食い殺すと決めた―――けど、それは「降りかかる火の粉を払う」って意味で、「自分から炎の中に突っ込んで行きます」って事じゃない。

 …………はぁ……。

 この赤髪の登場は、どう考えても「降りかかる火の粉」だ。であれば、払わない訳には行かない。

 異世界に来てから何度目か分からない覚悟―――。


――― やってやる!


 赤髪がどの程度強いのかは未だ測り切れていないが、少なくても同格の魔王の1人を倒してるんだ。やってやれない事は無い―――筈だ!

 後ろ向きになりそうになる自分の心を必死に鼓舞する。

 覚悟を決めた事を雰囲気か気配で察したのか、赤髪が静かに動き出す。


「用意出来たか? それならば始めるぞ?」


 ゆっくり動いた―――ように見える。

 それなのに、実際は“加速”の過程をコマ送りされたように、気付くと目の前に迫っている。


「ふッ―――!」


 “コマ送り”の速度のまま、拳を振り被る。


 速い―――けど、舐めんな!!


 息を止めて【アクセルブレス】発動。

 スピードの緩くなった拳を横に跳んで避け、着地の前にポイズンエッジを投擲―――まずは小手調べ!

 この攻撃が素直に通るなら、そのまま毒が付与される。

 これを捌くようならば、コチラも攻め方を考えなければならない。


「その攻撃は知っている」


 まるで、俺が収集箱(コレクトボックス)から武器を投射する事が分かって居たように首を振って避ける。

 反応が早い―――って言うより、今のは俺の攻撃を先読みしてたって動きだな?


「魔神の攻撃はもっと早く、もっと鋭かったぞ?」


 クソッ、マジンか……。

 俺と同じ能力……()しくは似たような能力の使い手だったマジンとの戦闘経験は、そのまま俺相手でも通用してしまう。

 ましてや、そのマジンが俺より数段上の強さだったと言うのなら、コイツにとって俺は戦いやすい事この上ないだろう。

 赤髪に回避されて、明後日の方向に飛んで行こうとするポイズンエッジを回収。と、同時に着地し、加速を維持したまま距離を取る。


「逃げるのか?」


 まさか。

 逃げられるのなら逃げても良いが、それをお前が許してくれそうにないからな!

 スローになった世界で、赤髪がゆっくりと離れた俺を追って足を動かそうとする。

 先手を打って、動きを潰す―――!

 魔法を発動。


 【シャドウランサー】


 追尾性能と速度重視の魔法、これならそう簡単には避けられねえぜ?

 俺の手元で闇が寄り集まり、音も無く高速で槍のような形状になって赤髪に伸びる。

 赤髪は魔法の発動に対して反応して居ない。

 直撃―――と思った瞬間。


――― バチュンッ


 赤髪の体に触れる直前、魔法が見えない壁にでも当たったかのように弾け飛ぶ。


「……ミ?」


 ……は?

 思わず変な声が出て、呼吸をしてしまう。

 加速状態が終わり、世界が元通りのスピードを取り戻す。

 なんだ、今の―――? 魔法防御……? いや、もっと別の―――


「(魔法無効(マジックキャンセル)か!?)」


 俺の言葉に、赤髪が呆れた顔をして半分笑いの混じった溜息を漏らす。


「貴様相手にそんな物使うかよ」

「(じゃ、じゃあ今、なんで魔法が……!?)」

「ぁあ? そんなもん決まってるだろうが。貴様の魔法が弱過ぎて、俺様が垂れ流しにして居る魔力を貫けてねえんだよ」

「(……嘘ですよね?)」


 いや、だって、コイツの言ってる事が本当なら、俺の魔法は何の防御もしてないのに弾かれたって事だぜ?

 俺の発動する魔法は、【魔王】の特性を装備した事に飛躍的に威力がアップしている。

 それに先程放った【シャドウランサー】は暗黒属性。【魔王】の特性に付与されている属性ブーストの効果を受けてるから、威力は更に上昇している―――筈なのに……。


「ふん、俺様が嘘なんぞ言う物かよ。嘘なんて物は、弱者が己を護る為に吐き出す物だ。絶対強者たる俺様にはまったく必要ない」


 何言ってんだコイツ……と言うツッコミは横に置いておく。

 だが、確かに赤髪は嘘を言っているようには見えない。

 ……マジか? 冗談にしたって笑えない。

 【シャドウランサー】以上の威力が出せる魔法は手元に有る……けど、さっきの【エクスプロード】のダメージが無かったのが同じ理由だとすると、コイツの防御力は半端じゃなく高いって事になる。

 しかも、コイツが意識的に何かしている訳じゃなく、意識、無意識に関係無くニュートラルな状態で勝手に防御しているってんだからたちが悪い。

 天術なら通るか……?

 いや、正直無理な気がする……。【審判の雷(ジャッジメントボルト)】ならワンチャン有るかもしれないが、もし通用しなかったら洒落にならないので、ぶっちゃけ試すのが怖い。


「呆けている場合か?」


 わざわざ俺に注意の一言を入れてから踏み込んで来る。

 散歩をする様な軽い足取り、しかしやはり俺の目にはコマ送りのように映る。一歩で進む速度と距離が明らかに異常だ。

 トントンっとたった3歩で距離を詰められ、俺を踏み潰そうと足を振り上げる。


 速い―――けど、対応出来ない程じゃねえ!


 浅くなった呼吸を無理矢理整え、大きく息を吸って……止める。

 加速の発動と共に後ろに跳び、ギリギリのタイミングで赤髪の振り下ろされた足を擦り抜ける。

 冷静になれ俺……!

 魔法が効かない事は紛れも無い事実。

 だったら、そこ以外で攻める!

 そう言えば先程手に入れたばかりの物があったのを思い出す。そのまま投射に移ろうとして、先程アッサリと避けられた事を思い出す。

 ただ武器を投げれば良いってもんじゃない。コイツに当てる為にはもう一捻りしなきゃダメだ。

 って訳で………鉄のナイフを投射!


「ふむ?」


 予想通り、ヒョイッと避けられる。

 だが、避けた事で体勢が少し崩れる。

 そのどてっ腹目掛けて、ファイアソードを投射!


「む」


 当たる! と思った瞬間、箸でも掴むように刀身を掴んで止められた。

 たった数m先から放たれた音速を越えて迫る剣を、アッサリと掴みやがった……!?

 マジで化物かよこの赤髪……!?

 いや、でも、本命はそこじゃねえから!


 本命は―――赤髪のすぐ後ろ。


 鎧も何も身に着けて居ない【仮想体】。

 誰にも見えず、誰にも触れる事の出来ないある種の最強の存在。その透明な体に“それ”を持たせ、赤髪の後頭部に叩き付ける!

 

「む……?」


 狙い違わず後頭部にヒットし、器が割れて緑色の液体が赤い髪と顔を濡らす。

 ざまぁッ!! アドバンスにトドメ刺した攻撃パターンだ、流石にこんな戦い方はマジンとやらもやらなかっただろう!


「これは……」


 さっき“拷問部屋”で見つけた麻痺薬です。

 体の自由を奪われて、地べたを這いつくばりやがれ。



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