表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/424

3-20 レッドエンカウント

 塔の中へ侵入―――いや、侵入つっても、堂々と玄関から入ったんだけど。

 魔王の居城っつうから、もっとおどろおどろしいのかと思っていたけど、結構綺麗だな……とりあえず玄関先は。

 魔族達も、流石に魔王の家は綺麗にするらしい。

 クンクンっと鼻を澄ます。

 “嫌な臭い”はしないな? って事は、敵性存在は居ないって事か。

 いや……でも、なんだろう? 確かに“嫌な臭い”はしないけど、何か……嫌な予感がする。「今すぐ回れ右して帰れ」と俺の中の何かが囁いている。

 ……まあ、大丈夫だろう。

 敵の臭いはしないし、何か(トラップ)があったとしても、今の俺のスペックなら大抵の事には対処できる自信がある。

 何とかなるなる。


 【仮想体】の肩に揺られて塔の上へ向かう。


 1階から3階は特に目ぼしい物は無し。

 どうやら魔族連中の居住スペースらしく、部屋の中は台風が去った後のような有様になっていた。

 そんなゴミ捨て場を漁る気にはならず(どうせレアアイテムも無さそうだし)、そこら辺は全て放置して更に上に向かう。


 4,5階は……何やら拷問部屋っぽいのとか、見るからにヤバい空気を漂わせてる部屋とか。

 ぶっちゃけ入るのに勇気が居る部屋ばかりだったが、それなりの物が手に入った。


『【鎖 Lv.4】

 カテゴリー:素材

 サイズ:大

 レアリティ:E

 所持数:5/30』


『【鉄杭 Lv.2】

 カテゴリー:素材

 サイズ:中

 レアリティ:E

 所持数:1/30』


『【首輪 Lv.2】

 カテゴリー:素材

 サイズ:小

 レアリティ:E

 所持数:2/30』


『【吸血針 Lv.8】

 カテゴリー:武器

 サイズ:小

 レアリティ:D

 所持数:1/10』


『【処刑鎌 Lv.22】

 カテゴリー:武器

 サイズ:大

 レアリティ:D

 所持数:1/10』


『【麻痺薬 Lv.3】

 カテゴリー:素材

 サイズ:小

 レアリティ:E

 所持数:1/30』


『新しいアイテムコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』


 拷問具っぽい物のオンパレード。

 使い道が有るかどうかはともかく、まあ、持って置いて損は無いよね?

 いやー、そう言えばアドバンスとの戦いが終わってから、まともにアイテム集めてなかったから、この……何て言うの? アイテム欄が埋まって行く嬉しい感じが妙に久々に感じる。

 アイテム一杯の嬉しさでテンションが上がる。

 俺って、こんな根っからの収集家(コレクター)でしたっけ? 猫に生まれ変わってから、俺も色々変わったなぁ……と心の中で苦笑する。


 更に上を目指す―――。


 6階、“ウエディングケーキ”の1番上の段に差し掛かった辺り。

 急に廊下に絨毯がひかれ、明らかに雰囲気が変わった。

 多分、ここから先が“魔王の空間”だ。まあ、その魔王は俺がぶち殺してしまったんだが……。

 本来なら、この上の方でアドバンスが勇者が来るのを待ち構えて居て「ふははは、よく来たな勇者よ!」とかベタなセリフを吐いて戦闘を始めるんだろう。実際は森の中での遭遇戦で死んだけど。

 ……よくよく考えると、あんな偶発的な遭遇戦で死ぬってアイツ本当にアホだな……。あれで肩書魔王って、大丈夫かよこの世界の他の魔王は……。


 などと、良く分からない心配をしながら色んな部屋を調べるが、碌な物が無い。

 ふざけんな! 魔王なら、侵入して来た奴の為にレアアイテムの3つや4つ置いておけよ! アホかあの蜥蜴野郎、そんなだから猫にぶっ殺されるんだよ。

 プンスカしながら登ると、風の流れが強くなる。

 最上階が近いのかもしれない。

 入り口で感じた嫌な予感を思い出し、少しだけ警戒して上の階に【バードアイ】で視界を飛ばす。


 上の階は屋上だった。

 いや、正確には屋上ではないんだろうが、上の階が抜け落ちたせいで屋上になってしまった……ッて感じ。だって、部屋中に床石っぽい瓦礫がゴロゴロしてるし。天井を見上げれば、中途半端に残った天井が見えるし。

 まあ―――そこは、どうでも良いんだ。屋上だろうが、そうじゃなかろうが……。

 問題なのは、そこに、1人の魔族が居た事だ。

 瓦礫が埋め尽くす屋上のど真ん中で、壊れかけた木の椅子に、授業中のヤンキーのように、ダラッとした座り方をしている。


 額には折れた3本の角。異形っぽさはそれだけで、手も足も見えている部分は人間にしか見えない。

 ボサボサの長い赤い髪を後ろで一纏めにし、ボロボロの服を着ているその姿は、とてもではないが“お偉いさん”には見えない。

 ぶっちゃけ、浮浪者が塔の中に迷い込んだんじゃないかと思ったくらいだ。

 でも、浮浪者が屋上で椅子に座って居る訳も無い………って事は、この赤髪は何者で、何をしてるんだろうか?

 あれ? そう言えば、魔族が居るのにどうして“嫌な臭い”がしないんだ?

 可能性は2つ。

 1つ、この赤髪が本当は魔族じゃない。

 2つ、コイツが俺の警戒センサーに引っ掛からない程の雑魚。

 どっちだ……? と考えていると、赤髪がスッと目を開けて迷い無く俺を指差す。


 ………は?


 指差したって言っても、そこに俺は居ない。

 今赤髪の目の前に有るのは、【バードアイ】で飛ばした俺の視覚だけだ。

 別の何かを指さしたのかと振り返ろうとすると、赤髪が気だるそうに口を開いた。


「お前だよ、お前」


 ……!? コイツ、俺を知覚してる!?


「そう、下の階から覗き見してるお前だよ」


 ……コッチの居る場所までバレてる……!?

 なんだ、この赤髪……?

 危険を教えてくれる“嫌な臭い”は確かにしない。それなのに、俺の中の何かが「ヤバい」と言っている気がする。


「殺されたくないなら10秒以内に上がって来い」


 言い終わると手を下げて目を瞑り、静かに1、2とカウント始めた。

 10秒間だけの待つ姿勢……と言う事らしい。

 どうする? 行くか?

 少し迷ってから階段を上がる。


 別に上に行ったからといって戦闘になるとは限らないし、とりあえず相手の話だけでも聞いてみよう。

 もしかしたら、何か有用な話とか聞けるかもしれないし。

 何より、俺の直感が言っている……


――― コイツからは逃げられない、と。


 階段の上には扉が1つ。

 本来は部屋に入る為の扉なのだろうが、今は屋上に出る為の外扉って事か。

 ……相手の正体が分からないし、一応警戒して【仮想体】だけで行かせよう。

 俺自身は扉の陰に隠れ、更に【隠形】で気配を断つ。

 準備が完了したら、10秒ギリギリで扉を開けて【仮想体】が屋上に出る。


「10。ギリギリだがセーフだ」


 赤髪が目を開けて【仮想体】に視線を向ける。

 何かを探るような1秒の間……そして。


「お前……いや、まあ良いか。たまにはこう言うのも面白いかもしれん」


 独りで何か呟いてから椅子から立ち上がる。


「旭日の剣を持っているって事は、お前が今代の剣の勇者って事で良いのか?」


 正直に答えて良い物かと迷っていると、勝手に話を進め出した。


「別に答えなくても良いぜ。お前が剣の勇者本人なのか、それとも旭日の剣を預かっているだけの代理なのか、俺様にはどっちでも良い事だ。俺様にとって重要なのは、お前が暇潰しになる程度に強いか否かだ」


 暇潰し……って、何言ってんだコイツ?


「さあ、じゃあ始めるか―――っと、その前にコッチの話をしておかねえとか……面倒臭ぇが、まあこの役を引き受けちまったから仕方ねえ。良いか金鎧、俺様が懇切丁寧に話してやるからよく聞けよ?」


 ……この赤髪なんで一々偉そうなん?

 もう1度椅子に座り直し、腕を組んで足を組む。とてもではないが、人に話を聞かせようって姿勢には見えないが、これが一応コイツなりの“話す姿勢”らしい。


「まず、俺様は魔王の1人だ」


 ……ッ!? コイツが魔王!? おいっ、うっそでしょ!? 魔王とエンカウントするなんて、冗談半分に聞いていた話がマジになったってか!?


「本来なら名乗るところだが、お前にはその価値がねえ。まあ、俺様の名前が知りければ相応の価値を見せろって事だ。で、ここからが本題」


 よく聞けよ? とでも言うように指差す。


「剣の勇者によってアドレアスの餓鬼が討たれ、それに若い魔王達が怯えちまってな? 仕方無く俺様が直々に様子を見に来た訳だ」


 “直々に”……って事は、コイツもしかして、魔王の中で上の地位に居る奴なのか? 見た目は浮浪者なのに……。いや、でもさっき【バードアイ】を知覚されたし、実力は相当な物なのかも。


「俺様としては、剣の勇者が生きていようが死んでいようがどっちでも良いんだが……まあ、それは可愛い餓鬼共の為なんでね」


 ……可愛い餓鬼共……? どう考えても、コイツが何かの為に行動を起こす善人には見えないんだが。

 絶対、コイツは自分の目的の為に来ただろ。まあ、それが何かは知らないけど。


「さて、話は終わりだ」


 立ち上がり、後ろ足でコンッと椅子を蹴ると―――音も無く椅子が文字通りの粉々……粉になって辺りに散らばった。


「お前が剣の勇者ならば力を見せろ。代理ならば居場所を言え」


 悪寒―――。

 今まで、確かに何も感じなかった“嫌な臭い”が辺りに充満する。

 感じた事の無い程の強烈な“ヤバい臭い”。

 寒気を感じて足が震える。

 無意識に毛が逆立つ。

 ……ああ、クソっ、そう言う事かよ! 俺が臭いを感じない3つ目の可能性―――相手がそれを隠蔽する事の出来る強者。


「沈黙は、戦いを受けると言う事で良いのか? ならば、始めようか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ