1-7 エンカウント
5分程費やしてハズレガチャのダメージから立ち直った。
……いや、あれよ? ハズレとは言え、何かしら役に立つ可能性はありますし。ええ。別に負け惜しみじゃないよ? ええ、本当に。「猫に使えない能力はガチャに入れんな…!」とか別に怒って無いですよ、まったく、ちっとも。
はぁ…。
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
とりあえず、死体漁りの続きだ…。自分で言っといてなんだが、死体漁りって言うと凄い凹むな…。
っと…その前にログを確認する。
スキルの入手で肉体能力にボーナスがかかってない?
あっ、もしかしてアイテムじゃないからか? あくまでアイテムの収集にのみボーナスが付きますって感じなのかしら? だとしたら、スキルの収集は優先度ちょっと低いなぁ…そもそも形が無い物をどうやって収集すれば良いのかも分かんないし。
さて、話を戻そう。
死体の男にゴメンなさいしながら、左腕につけていた木の盾に触れる。
『【ウッドシールド Lv.2】
カテゴリー:防具
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
皮鎧もそうだったけど、微妙にレベルついてるな? 防具のレベルは、単純に性能が良いとか出来が良いとか、そんな感じの事で良いのか?
まあ、どうせ猫の体じゃ使い道ねえから関係ないけど。
さてさて、他には…と。
木陰に大きめの革袋が落ちているのに気付く。
この人の持ち物かな? まあ、なんの準備も無くこんな森に入って来たとは思えないし、多分そうだろう。
革袋の口を何とか緩めて中を確認する。
まず出て来たのは、
『【アイアンナイフ Lv.2】
カテゴリー:武器
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:1/10』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
おっ、武器カテゴリーのアイテム初ゲット!
まともに使えないが、1つくらい武器が手元にあっても良いだろう。まあ、主に精神的な安心の意味で…。
ん? ログがまだ流れてる? まさか、またボーナス?
『条件≪3つのカテゴリーのアイテムをコレクトする≫を満たした為、収集箱内のアイテムの情報をより詳細に表示できるようになりました』
お? これは、良いんでない?
手始めに木材の情報を開いてみる。
『【木材 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:2/30
状態:湿気ている
加工:無し
木製の材料。物の作成、合成に使用可。
火を起こす燃料としても使用出来るが、使用後は木材としては使用できない。
Lv.評価は、形、大きさ、加工の有無によって上下する』
ふむふむ。
なんか“状態”とか“加工”とか確認出来るようになってるな? それに簡単な説明書きが加えられてる。
って、レベルの評価ってそう言うところでされてんのね。
なんか新しい発見があるかもだし、まあ、寝る前にでも一通りのアイテムの説明書きを読んでおくか。
……でも、アイテム入れる度に詳細情報をこんだけ長々と出されると鬱陶しいな…? 普段は簡易表示で良いや。
よし、作業続行。
革袋に頭を突っ込んで更に奥を探る。
………どうでも良いけど、革袋の中って、尋常じゃないくらいくっさいな…。
お? これはもしかして?
『【干し肉 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:F
所持数:1/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
に・く・だ!?
武器よりも防具よりもスキルよりも嬉しい食べ物ですよ!! しかも、肉! 肉食の猫には倍掛けで嬉しい!!
死体は腐臭させてたけど、干し肉は革袋に入ってたお陰で雨ざらしの野ざらしは免れていた。だから、まだ食えそうだ。
おまけに、残飯として処理されないって事は、まだ口をつけていないって事だ。
ありがたやありがたや、今日の晩飯が今から楽しみだ!
あとは、水筒代わりの水の入った革袋……ただ、中身の水はもうアウトだな。中身は地面に捨てて革袋だけ貰って行こう。
『【革袋 Lv.1】
カテゴリー:素材
サイズ:小
レアリティ:F
所持数:2/30』
『新しいアイテムがコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
回収出来るのはこんなもんか。
死んだ人への弔いの意味でも、貰った(奪った)道具は全部大切に使おう、うん。
最後にもう1度南無南無と頭を下げて黙祷をする。
歩きだそうとしたが、視界が通らなくなる程暗くなっている事に気付く。
流石にもう暗いな…。これ以上動き回るのはリスクが大き過ぎる。死体の腐臭を警戒して動物は近付いて来ないだろうし、今日はここら辺で寝るか。
* * *
夜が明けて……。
腐臭の中で目覚める朝って、とってもアレですよね? ええ本当に。ちょっと泣きそうになっちゃった。
まあ、でも、この臭いのお陰で昨夜は何かが近付いて来る事もなかった。いや、俺が気付かなかっただけで近付いて来ていたのかもしれないけども……少なくても途中で起きる事はなくグッスリ眠れた。
ガッツリ眠れたお陰で今日は元気いっぱい。
あと昨夜の夕飯と、今朝の朝飯の干し肉超うめぇ!
肉食動物ですもの、やっぱり肉食べないとね? しかもデザート付とか、微妙に豪勢じゃない?
干し肉はそれ程大きくないけど、子猫の腹の容量ならチビチビ食えば一週間は持つ。収集箱に入れておけばダメになる心配も無いし。
……ただ、食いかけが「残飯」として保存されるのだけは微妙な気分だけどな…。
ま、いいや……今日も元気に歩こうかね。
死体に向かってペコっとお辞儀をしてから小川に戻り、川下に向かって歩き出す。
猫生活3日目だし、そろそろ何かしらの変化があると良いんだが…。
人里に辿り着くとか、街道に出るとか、生きている人に会うとかさ。
あとは、レアリティの高いアイテムが手に入るとか? Aランクとか贅沢は言わないから、Fより上のアイテムが欲しい…。流石に最低ランクのアイテムしか持ってないとか【収集家】の名が泣くわ。
川沿いを歩くのもいい加減慣れて来た。
暇潰しに手頃なサイズの石を拾って収集箱に放り込む。
石が所持限界の30個になる頃には、2時間程経過していた。
初日は2時間も歩けばバテバテになったけど、10回以上の身体能力ボーナスを貰ったお陰で今では結構ピンピンしている。やっぱり身体能力強化は偉大だなぁ。引き続きアイテム収集頑張ろう。
順調だった。
食料と水が確保出来て、貰った異能力がちゃんと機能して、猫の体にも慣れて来た。
行き先が分からない事への不安はあるが、この調子なら「きっとなんとかなるだろう」と、良くも悪くも楽観的で居られた。
人間の時であれば、鼻歌の1つでも歌っていたかもしれない。それくらいに上機嫌な俺だった。
ただ―――
調子の良い時程、不幸と言うのは襲って来るようで…。
「ミッ!!!!?」
ヒッ―――!?
思わず悲鳴をあげてしまった。
何故なら―――何故なら、そこに居たから。
絶対に出会いたくない相手。
絶対に避けて通らなければならない相手。
木の陰から伸びた首。その先には黒い毛に覆われた、ガマ口のような大きな口。
――― 魔物!!
伸びた首だけが木の陰から姿を見せ、俺の事をジッと見ていた。
蛇に睨まれた蛙。
恐怖で体が硬直する。
伸びた首を追って、木の陰から大型犬のような体がゆっくりと出て来る。
一気に距離を詰めて襲いかかって来ない。奴は知っているからだ。
俺がビビって動けないと。
たとえ逃げたとしても容易に捕まえられると。
やばい! マジでヤバいって!! これ、死ぬかもしれん……!




