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未来からの生還者  作者: 香月湊
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選挙のない世界

 一週間もすると、だんだんとシューティングゲームにも慣れてきた。

 というより、どうやら俺の反射神経は未来基準でも異常に速く正確らしい。


 俺はこの時点で、全市民の上位10%のスコアをたたき出していた。

 「こんなにすごかったら、スカウトが来ちゃうかもね」と看護師さんが言う。

 もうかれこれ一週間の間、結構親身になって俺の世話をしてくれている。


 「スカウトって?」

 俺がそう尋ねると、彼女はこの世界の仕組みについて、ざっと概略を教えてくれた。


 どうやら、この世界には、政治家というものがいないらしい。

 そればかりでなく、多数決という手法をとることももうないという。


 そもそも、この世界では、AIがある程度のレベルまで実用化されている。

 そこで、自然な流れとして、人間よりも優れているAIが政治家の代わりをやればいいのではないか、ということになった。


 ただ、そういうことをすると困ったことが出てくる。

 およそ近代国家である以上、どの国でも民主主義を採用していた。


 民主主義というのは、要するに市民が自分たちのことを自ら決めるということだ。

 AIに任せてしまったら民主主義と矛盾することになる。

 民主主義の末期には、選挙は形ばかりで、実際には選挙とは全く異なる力学で政治家が政治をしていたが、そのときにも、必ず投票というものが必要だった。

 民主主義である以上、政治家が決めているのではなくて、市民が決めているという建前をどこかに残さないといけない。

 どんなに内容空疎な選挙で、誰に投票しても一緒だったとしても、選挙が必要だったのだ。


 AIに任せたら、人間が自分で決めていることにならないので民主主義という前提が崩れてしまう。

 だから、AIはあくまでも補助者であって、人間が決めたことを効率的にこなすという役割以上の役割は与えてはいけない、ということがルール化された。


 そして、次第に多数決という考え方もなくなっていった。


 そもそも、多数決の多数であることと、「正しい」ことには本来関係ないことである。


 かつてナチスドイツは、国民の9割以上の支持率を得ていた。

 国民の全員が間違った考え方を持っていれば、多数決が出す答えも間違ったものになる。

 多数決だから正しい、という考え方はそもそも間違った考え方なのだ。


 そしてAIが存在するので、ある意見や方針が明らかに間違っている、という点については誰でも知ることができるようになっていた。

 そうすると、市民の選択なんて、どれが正しいか、という問題ではなく、単なる好みの問題に過ぎなくなってくるのである。


 AIが実用化されてから最初に大きな問題となったのが、人口爆発に対する対処だった。


 増えすぎた人口に対してどうやって対処するのか。


 AIがはじき出した答えはこうだった。地球に住むことを選択するのであれば、子供を自由に作ることは認めるべきではなく、宇宙開発をして開拓をしていくのであれば子供は自由に作ればよいだろう、と。


 その結果、地球市民は、宇宙開拓派と地球残留派に分かれた。

 それはどちらが正しいとかそういうことではなく、どちらを選択するか、というだけの話だった。

 別に、投票をする必要もなければ、多数決で多数の意見を採用しなければいけないわけではない。


 ただ、自分が行きたい方にいけばいいだけ。


 このように、自分が選択した方針に従ってグループが形成され、自分と同じ考えの仲間がクラスタを作って、そこで集団を作って行動をしていく。

 それで社会はうまく回るじゃないか、そういうことになった。


 少なくとも、この方法をとるようになってから、テロや戦争は起きていない。

 多数決は、必然的に少数者を生み、その少数者が自分たちの意見を不当にないがしろにされ、不満を持つというのが、ほとんどのテロや戦争の原因だった。

 それがなくなることによって、紛争は極端に少なくなったという。

 

 「スカウト」というのは、どうやらこのクラスタへの加入勧誘のことを指しているようだった。

 自分のクラスタに優秀な奴がいた方がいい、という考えは残っているらしかった。


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