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未来からの生還者  作者: 香月湊
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目標をセンターに入れてスイッチ

しがない派遣社員だった俺は、ある日突然、いつだか分からない未来の世界へすっ飛ばされる。そこは、すべての市民が生体に埋め込まれたコンピュータ(サブセット)で超能力を発揮しながら、不思議なルールでその秩序を保つ異世界だった。

 目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ...


 某エヴァで有名なセリフだ。

 ただ、このセリフはテレビの中のものではなくて、自分がいま頭の中で発しているものだ。


 目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ...


 いきなりこんな風に物語が始まるとおかしな奴と思われるかも知れないけど、俺はいま未来というところに来てしまったようだ。


 バック・トゥ・ザ・フューチャーや、ちょっと昔でいうとアシモフの「宇宙の小石」とか、いろんな物語で時間を飛び越える話があるけど、今はどうやって未来に来たかの話は置いておく。


 とりあえず、俺はある日突然、ものすごい先の未来に吹っ飛ばされて、街中で保護された。

 いきなり仕事や家族との関係を断絶されたわけだけど、特に未練はなかった。

 仕事は派遣で電話のオペレーターをやっていたけど、いつまでたっても同じ仕事の繰り返しで、いい加減嫌になっていたところだ。

 独身だったし、両親とは年に1、2回会う程度。会っても大した会話があるわけでもなく、数回に1度はどうでもいい理由でケンカをして、またしばらく電話もしないということの繰り返しだった。

 どうせ一生でも、通算あと十数回程度会うくらいの関係性しかなかったわけで。


 で、俺は街中をうろうろしていたわけだが、そうしたらいきなり未来警察っぽい人たちが走ってきて、車に乗せられた。

 俺がいた時代の紺色の制服ではなく、白っぽいツヤツヤした服で、不思議と全員サングラスだがゴーグルだかみたいなものを付けていたけど、なぜだか見てすぐに警察だと分かった。

 多分こういう制度は万国、いや全時代共通なんだろうと思った。


 そこで保護されていたら全く話が通じなかったが、言っていることをまとめると、どうやら、この時代では、人間には「基本的市民権」なるものが平等に与えられているそうで、市民の基本的装備というものが国から配布されるらしかった。

 どうやら俺がそれを何も身に着けていなくて、しかも時代劇に出てくるような恰好 ―いや、俺の時代ではフツーの背広姿なのだが― なので、その「基本的装備」とやらを今すぐ与えると言われた、らしいと俺は理解した。


それがどういうものか尋ねると、要するに、脳の中に超小型のコンピューターらしきものを移植するということらしかった。

 まあこの説明もクソ長い専門用語のオンパレードで、俺が、「要するに頭にコンピュータ―を埋め込むってことか」と問い返したら否定しなかったので自動的にそう理解しただけだが。


 とりあえず、それがないとこの世界ではサル以下で、仕事もできないし必要な情報も何も得られないということだったので、受け入れざるを得なかったわけだが。


 そして手術が終わって目を覚ましたら、仰天した。目の前に変な文字が浮かんでいたのだ。


 真っ白い部屋の中で、簡易ベッドの中で横たわり、白衣をきた看護婦らしい人に簡単な説明を聞いた。

 要するにこれは、頭の中に埋め込まれたPCの起動画面が、網膜に直接投影されている状態ということだった。

 網膜の仕組み上、基本的に目をつぶっているときには映像は消えてしまうらしいが、俺のいた世界で言うところの、グーグルグラスみたいなものだと理解した。

 このPCは情報の記憶やCPUの処理スピードはごく最小限で、何かのプログラムを走らせるときには、インターネットでつながっているサーバーに処理を要求し、その結果が返ってくるという仕組みらしい。

 要するに、割と低速だけどインターネットにつながっているパソコンが頭の中に入り込んだ状態、と説明すれば分かりやすいだろうか。


 じゃあマウスはどうするのかというと、目の前にぼんやりと赤っぽい球のようなものが浮かんでいて、これがマウスカーソルの代わりらしい。

 マウスカーソルは、慣れると消すこともできるらしく、要するにクリックしたいものに意識の点を合わせて、頭の中で「クリックする」と考えると、それでクリックして操作ができるらしい。

 このカーソル以外にも文字を入力したり、その他色々なことが脳波で直接できるらしいのだが、最初のうちは(今の法律だと基本的に22歳を超えると市民の全員が義務的にこの手術を受けるらしい)、このカーソルの使い方を体得しながら、徐々に脳波でパソコンを動かす練習をするということだった。


 で、俺はとりあえず脳波でカーソルを使う方法に慣れることにした。

 看護婦さんが、練習用ソフトがあるというので起動すると、シューティングゲームだった。

 カーソルを合わせて、タイミングよくレーザーを発射し、飛んでくる隕石を打ち落とすタイプのもの。


 んで、俺はここ数日、このゲームに没頭している。


 我ながら、なんだかよく理由も分からずに未来に来てしまってよくパニックにもならずにこんなことやってるよなと呆れながらも、まあ俺の未来生活最初の一週間はこんな感じでスタートした。


(つづく)


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