ラトヒへの道
いよいよラトヒに向けて出発しました。
「森の中というのは、もっとこう、生命に満ち溢れたところを言うのだがの・・・。」
思わずうなってしまうほど、その定義が当てはまらないところとなっていた。
むしろ生命がないもので満ち溢れておった。
「まあ、想定外のこともあるさ。大体、ここまでどれだけの数葬ったかかぞえたか?」
マルスの言い分ももっともだった。
しかし、マルスよ。わしを甘く見ては困るな。
「ふむ。1603じゃ。」
数えとったんじゃからの。
「デルバーもう、数えられないほど耄碌したのか?それはお前の数字だ。おれは3333だからな。」
なんじゃ、おぬしの数字じゃったか。
「ふん。おぬしが先に倒してしまうから、わしの出番がないわい。」
全く驚異的なものだった。剣の一振り、剣圧だけで、屍食鬼や骸骨兵士それに生ける死体などはあっという間に本来の姿に戻っていた。
ダヤの街を出て、森に入ってから、休む間もなく不死者の群れに襲われていた。
しかし、これだけ倒したのだから、街の方は安泰だろう。問題は、もう一つの森、その先にある村のことだった。
わしの心配を見抜いたのか、マルスが語りかけてきた。
「まあ、実際今から向かっても一緒だ。ならば信じていくしかない。もとを閉じれば、あとは何とかするだろう。おまえもあれを置いてきたんだ。俺たちは俺たちのすべきことをする。村は村で対応する。そのためにできることはしたはずだ。」
マルスの言うことはもっともだった。
今から転進しても、これだけの数がまた押し寄せてきたら意味がない。一刻も早くもとをただす必要があった。
「そうじゃの。信じるか。おぬしの言葉とも思えんが。」
マルスにしては、他人の力をあてにしていた。
「違うな。俺は他人の力を信じているんじゃない。俺は俺の力を信じている。俺のすべきことをしていれば、きっと何とかなると信じているんだ。村は、お前が何とかするために力を尽くしていた。俺がやったことはヤンに戦い方を教えただけだ。」
マルスの言葉は辛辣だった。
「それでも、おぬしはヤンに期待したのであろう?あそこの飯を食いに行くというとったではないか。」
わしは思わぬ展開に、驚きを禁じ得なかった。
「まあ、全くというわけじゃない。ただ、基本的にあの村がどうなろうと、俺の知ったことじゃないんだ。おれは、あの親子にだけ生き残る方法を、可能性を与えただけだ。村じゃない。」
平然と線引きをする男だと思った。
自分にとって必要なものと、そうでないものを線引きする。そういう感覚を持っていた。
「それでもあの母親は村長だ。村のために何かするだろう?それは考えなかったのか?」
わしは疑問に思っていた。なぜそこまで割り切れるのか。
それは本当に疑問だった。
「それは、母親が決めることだ。俺じゃない。俺はヤン親子といったぞ?大体、人の決定にいちいち口をはさめるわけないだろう。俺がどう思っても、母親が決断したらそうなるんだ。人の自由意思をなめるなデルバー。」
もはや何も言うことができなかった。
マルスの考えは正しい。正しいだけに納得がいかない部分があった。
「お前が言いたいことはわかる。しかし、そうするためには、見続けないといけない。俺はそこまでお人よしじゃない。それに、俺にはすべきことがある。その瞬間気に入ったものは俺の手で何とかできるまではする。そのものがそのあと困らないようにも手助けする。でも、あとは、そのものが決めるんだ。俺じゃない。」
前を歩きながら饒舌に語っていた。
「大体、仮に俺があの村を救うために動いたとして、その先は?俺はそこまであの村に責任を持てない。あの母親は子供たちを村の外に出したがっていた。それはすなわち、あの村を自分の代で終わらせるということだ。そういう意思が働いている。ならば、そうするのも一つの方法じゃないか?」
戦いながら、話していた。まるで、自分自身に言い聞かせているようだった。
そうか、そういうことか。
わしは何となくわかってしまった。
「おぬしが底抜けにお人よしだということがよくわかったわ。」
笑顔でわしは不死者の頭だけを燃やしていた。
この男。照れくさいのだ。
自分が救ったなどと言いたくないのだ。
自分がすべきことをすると言いながら、積極的に不死者の群れに突入している。
ヤンに戦い方を教えただけと言いながら、ヤンに自分の魔法の剣を与えていたし、予備の武器もあの村においてきている。
母親が決めることと言いながら、物品を提供してくれた冒険者たちにさりげなくうまい料理がある村があると教えている。
実にかわいいやつだ。
「なっ。お前、何か盛大に勘違いしてないか?俺はマルス。俺以外の何者もどうなろうが関係ないぞ。」
白々しく言い訳をしている。
ほれ、お前の耳は真っ赤になっておる。
今目の前に出ると盛大に面白いものがみれるのだろうの。
まあ、それは勘弁してやるか。大人びたことを言う割に、子供だな。
「ほっほっほ。まあ、そういうことにしておくか。ちょっと右寄りに進路を変えながら進むとするかの。」
ラトヒまでもう少し。多少寄り道しても大丈夫だ。
そう、カレンの村方面から入ったとしても、大してかわりなかった。
「まったく、何を勘違いしてるんだか・・・。」
そう言って言葉通りの進路を取るマルスの背中は、素直でかわいらしいものじゃった。
デルバーとマルス。お互いを知っていきます。