地方都市ダヤ
ダヤの街で用事を済ませます。
「ここは、このあたりでも中心的な街なのだろう?」
思わず疑問を口にしていた。
「さあな、なんにせよ、不死者騒動が起こっているんだ、街の様子が変化したとも考えられる。まあ、俺に関係のないことだし、デルバーにもどうすることもできんだろう。なら、あまり考えるなよ。」
マルスは冒険者組合に最終的な依頼の調整のために、いったんこの街によることを提案していた。
もともとわしはこの街によるつもりはなかった。
しかし、カレンの村にいろいろおいてきたので、その補充をするために立ち寄っただけだ。
マルスの意見はそういうことだった。
しかし、この寂れようは異様だった。
昼間だというのに、通りに人がいない。
そして、街にはいる門でのやり取り。
何かあったと考えるべきだった。
しかし、今は優先順位が違うし、そもそもわしには関係がないかもしれない。
マルスの言い分はもっともだ。
しかし、これが兄弟子が仕業だとすると、わしだけは無関係とは言えない。
なんにせよ、魔術師というのは業が深い。
知りたいと思ったら、それまでだった。
「お嬢さんや。何かあったのかの?わしは宮廷魔術師デルバーじゃ。情報をいただきたい。」
冒険者組合でマルスが別の受付と話しているときに、わしは情報を集めることにした。
向こうの方で、マルスの呆れ顔が見えたが、気にしないことにした。
「まあ、本来冒険者でない方に情報を漏らすのはいけないことですが、宮廷魔術師デルバー様。あなたは不死者関連の情報依頼をされているますので、調査報告の一環としてお伝えしてもいいですか?」
受付嬢は資料に目をやりながら、わしに確認を求めていた。
「まあ、報酬に見合いそうなら、そうする。」
わしはまた報酬代金が上乗せされた気がしてならなかった。
「はい。私の報告にさせていただきます。」
受付嬢はうれしそうに答えていた。
そうか。この娘に報酬の一部が転がり込むということか・・・・。
まあ、聞きたいと思ったのはわしだから、仕方がなかった。
「この街に、比較的強力な不死者がやってきたんです。いつもは、屍食鬼や骸骨兵士といった程度なんですが、木乃伊男が現れたんです。それで、街の有力者が逃げちゃって。それからこの街は統制がきかない街になりました。警備隊長が頑張ってますが、街の不安は広がる一方です。」
受付嬢はため息をついていた。
「それで、近くの村の状態は?」
わしは一応確認していた。
「この街がこんな有様では、近くの村を見る余裕がないみたいですね。警備隊長も巡回を減らして、街の警備に重点を置き始めたようです。まあ、こんないい方はまずいかもしれませんが、周りの村は見捨てられたということでしょうか・・・。冒険者組合でも冒険者を集めていますが、もともとこのあたりまで来る冒険者が少なくて、今一組の冒険者が付近の村を回ってくれています。」
仕方がないことだが、やるせない感じがした。
カレンの村にゴーレムを置いてきて正解だった。
それでも困難に会うかもしれない。
一度であって知り合ったのだ。自分のできることをしていこう。
そう思っていた。
「お嬢さん。わしの依頼を追加じゃ。ここから南にカレンという村があるのを知っておるな。そこまで巡回の冒険者を回してほしい。正式な依頼として受けてもらいたい。」
わしは真剣に求めていた。
「デルバー。よほどあの子の料理が気に入ったんだな。」
後ろからやってきたマルスがやたら笑顔で告げてきた。
「しかし、らしくないな。デルバー。あの村で何かあったか?そんなお人よしじゃなかったはずだが?それに出発前に、やけに村中を歩き回っていたな。」
ニヤつくマルスの顔が気に障る。
しかし、同時にその言葉で、自分自身の行動が変化していることに驚いていた。
村にはできる限りのことをしていた。
そもそも何でそうする気になったのかもわからなかった。
何なんだろうこの感覚。
わしは何を求めている?
良くわからない感覚に突き動かされていくように、自然と行動し、今度は依頼までしていた。
「どうでもよかろう?おぬしこそ、バカのようにくらっとったではないか。」
わしは自分でもわからない気持ちを説明できないため、ごまかすことにした。
「ごまかしたって無駄だぜ、デルバー。お前の気持ちはわかってる。あの味は絶品だ。帰ったらまた寄ろう。」
何か勘違いしているが、まあそういうことにしておこう。
「ふん。勝手にせい。」
わしは依頼用紙に必要な項目を記入しておいた。
依頼主・・・。
「おぬしも依頼主じゃ。」
わしは、わしとマルスの連名で、この依頼を締結していた。
「おいおい。勝手に。まあいいけど。金は腐るほどあるしな。」
笑顔のマルスだった。
それから各々必要なものを取りそろえていった。
致命的に物がなかったが、何とか手に入れることができたのは、組合に来た冒険者のおかげだった。
さりげなく、頼んでみたが、やはりマルスは抜群の知名度でその威力を発揮していた。
「お主、毎回あんなことをしておるのか?」
あきれてものが言えん。あれは頼みと言えるのだろうか。
「まさか。非常事態だ。まあ、非常事態ってのは、よくあることだが。」
平気で肯定していた。
「まあ、いいわ。必要なことは結果を出すことだからの。」
決意をもって、そう告げた。
「大事の前の小事というんだ。覚えておいて損はないぞ?」
マルスが訳の分からないことを話していた。
なんだそれは?
言葉の意味はわかるが、その言い回しは初めて言聞いた。
「大事の前の小事・・・・。」
物事の優先度、その重要度を指し示す言葉か・・・・・。
おもしろい。
この13歳は時折妙な言葉をつかってくる。そしてその言葉の意味は、その言葉に自然とわかるというものだった。
「マルスはこの世界の住人じゃないようじゃな。」
気軽にそう話しかけていた。
しかし、マルスはなぜか驚きの表情を見せていた。
「まあ、それだけ俺がすごいというのだと理解しておくよ。」
何か隠しているようだが、そのこと自体は詮索しても仕方がない。
何を隠していたとしても、マルスがマルスであることには変わりがない。
「まあ、そういうことにしておいてやろう。マルスはマルスだしの。」
マルスの背中をたたきながら、わしは門の外に歩き出していた。
「ああ、俺は俺だよ。」
さっそうと追い越して、わしの前を歩く姿は、堂々として英気にあふれたものだった。
そして、その背中はわしに安心感を抱かせていた。
いよいよ出発です。