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出会い(剣聖編)

いよいよマルスの登場です。


俺は間違っていない。これしかない。ウェンディを守るんだ。

俺の心は決まっていた。

後悔はしない。

たとえ、俺がこの場で命を落としたとしても、ウェンディが生き残ることが重要だ。


この森に不死者アンデッドがいることは想定外だったが、十分予想はできたはずだ。

俺の不注意でウェンディを危険にさらしてしまった。


「ウェンディは守って見せる。」

俺は自然と口に出していた。

注意深く、あたりを見回す。動きの遅い連中だ。まだ追いついてはいなかった。

緊張のためか、のどがひどく乾いていた。


こんな時あの人はどう思っていたんだろう。

自然とあの本に出ている魔術師のことを考えていた。



もうボロボロで、ところどころ紙が破けているが、貴重な、貴重な村の財産。

村長の家に代々おかれているその本を、俺は幼いころから読み聞かされていた。


封印の魔術師


その本の題名だった。

それは、この村の初代村長が書き記したとされる実話ということだった。

仲間のために、世界のためにその身を犠牲にしてまで、悪い悪霊を封印したという魔術師。


その決断と勇気に俺は憧れを抱いていた。


しかし、俺には魔法の才能はなかった。

村長である母さんの素質を受け継ぐこともできなかった。


当たり前だ。

孤児だった俺を引き取ってくれただけだから。


ただ、戦士だった父さんに鍛えられて、筋がいいとほめられた気がする。

それから鍛錬は欠かしたことがない。


そして、ウェンディが生まれた。


ウェンディは母さんの素質を受け継ぎ、次の村長候補にすでに選ばれていた。


しかし、ウェンディは素質があるが、いまだに信仰系魔法を使えたことはなかった。

なにが、そうさせているのかわからないが、母さんによると気持ちの問題ということだった。

すでに呪文は覚えていたのだが、完成を見ることはなかった。

だから、こんなところで失うわけにはいかなかった。


「ウェンディは村の希望。そして俺のかけがえのない妹だ。守って見せる。さあ、かかってこい。不死者アンデッドたち!」

俺は自身を奮い立たせるために、大声で叫んでいた。

それは、奴らをここに引き付けるためのものだ。


あの魔術師はこういう気分だったのだろうか?

そのことが、気になっていた。


「うん。妹を守るために、その身を盾にするか。なかなかどうして、ロマンじゃないか。」

頭の上から声がした。


その声の主は、高い木の上から軽々と舞い降りていた。

まるで木の葉が舞うような、華麗な身のこなしだった。


俺は思わず見とれてしまった。


生ける死体(ゾンビ)がだいたい30体くらいだ。どうする?」

軽い口調で聞いてきた少年は、俺より少し上に見えたが、ほぼ同じ年に思えた。


「もちろん戦う。ここで逃げたら、ウェンディが危なくなる。」

俺は即答していた。


「まあ、あっちにも生ける死体(ゾンビ)はむかってるぜ。でも、まあ向こうは何とかなるだろう。なんだか頼もしいのが近くにいる。」

少年はまるで見ているかのように話していた。

よほど間抜けな顔をしていたのだろう。

少年は俺に名乗ってきた。

「俺はマルス。冒険者だ。お前の名は?」

初対面でなかなかの口調だが、不思議と嫌な感じはなかった。


「俺はヤン。お願いだ。力を貸してほしい。」

俺は自分一人で何とかするつもりだったが、マルスと名乗った少年をみて、途端その気が失せてしまった。


何となくだが、この少年のすごさが分かった。

もはや、ただの人ではない。英雄と呼ばれる人たちはきっとこんな感じなのだと思ってしまった。


「やだよ。ヤン。さっき自分で何とかするつもりだっただろ?いきなり甘えるなよな。」


前言撤回。

英雄はこんな人でなしじゃないはずだ。

そう信じたい。


「いや、そうだけど・・・。君は援軍に来たわけじゃないの?」

助けてくれないのなら、何しに来た?


しかも、妹の方にも不死者アンデッドが向かっている。

頼もしいのがいるって言ったけど、あてになるのかわからない。


「ここを早く始末して、妹のところに行きたいんだ。だから、手を貸してほしい。」

俺は、その理由を告げて、助力を申し出た。

これなら、うんと言うだろう。


「だから、だめだって。おまえさ。いつも誰かが助けてくれると思ったら大間違いだぜ。戦い方は教えてやる。だから自分で戦ってみろ。やりもしないであきらめて人に頼るなんて、ロマンがないじゃないか。それは、単なる甘えだぜ。」

辛辣な物言いだった。

しかし、言っていることに間違いはない。

俺は知らず知らずに依存していたことが恥ずかしかった。


「わかったよ。その代り、戦い方を教えてくれるんだね。」

俺は確認を取っていた。


「ああ。まあ、晩飯でどうだ?」

・・・・有料だった。


「わかったよ。とびきりうまいのごちそうしてやる。ウェンディの料理はすごいんだぜ。」

もう目の前に生ける死体(ゾンビ)やってきた。

悠長に話している場合じゃなかった。

俺は手製の槍を構えて、慎重に先頭の生ける死体(ゾンビ)に意識を向けていた。


その時だった。

「バカ。戦場では常に周りの状況を把握するんだ。先頭の奴だけ見てたら、右からのにやられるぜ。奴らも、早い遅いがあるんだ。それをまず見極めろ。お前に最短で来るのが一番早いとは限らんぜ。」

頭をたたかれ、意識を右に向けられていた。

いつの間にかやってきた生ける死体(ゾンビ)がすぐそこにいた。


「くそ。」

何とか後退しつつ、槍で生ける死体(ゾンビ)の腕を切り落としていた。


「やった。」

そう言った瞬間また叩かれた。


「バカか。腕落としたって、前進は止まらないぜ。奴らは噛みつきだってあるんだ。動けなくするか、頭を切り落とすかに専念だ。無理ならこかせ。そうすれば一度に襲われない。それと、戦場は刻一刻と変化する。自分よりも多い人数を相手にする場合、立ち位置も重要だ。」

そう言って首をつかまれて、木の横まで引きずられた。


「ここなら、左から来たやつも前に来るだろ。そうすれば、一度に対応する数が減る。実際に倒していかないと数は減らないが、こういう動きの鈍いやつらは、確実に戦える位置を探りながら戦うんだ。ほら、右のが来たぜ。」

そう言ってマルスは石をぶつけていた。


何の変哲もない石をただ投げただけだったが、生ける死体(ゾンビ)は頭を吹き飛ばされていた。


「こういう飛び道具もありだけどな。」

ニヤリと笑うマルスを見て、本当に教えるだけで、自分は戦わないのだと思った。


「よし、じゃあどんどん教えてくれ。」

俺はマルスにそう宣言した。


「ああ、いいぜ。その代り。朝飯もつけろよ。」

またしても有料だった。


そして俺は理解した。この素晴らしい指導を、御飯だけで受けられる幸せを。



お兄ちゃんの方は大丈夫ですね。次は妹の話です。

はい。デルバー先生のご登場です。

6/28 1時に予約しました。

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