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兄妹

まだ主人公が出てきません。あと少しお待ちください。

「ねえ、お兄ちゃん、なんだか変な感じがする・・・・・。」

周囲を見渡しながら、兄の背中に隠れるように、少女は声まで潜めていた。


「ははは。ウェンディは臆病だな。この森は安全だって。父さんと母さんが頑張っている分、お手伝いするって決めただろ?もう少しだから、我慢しろよ。」

兄は自分の作業を辞めずに、妹の不安を笑い飛ばしていた。


「ここの薬草は、成長がいいんだ。不死者アンデッドも、この森では見かけないから、安心だよ。それに、俺だってずっと剣術を習ってるんだ。大丈夫。大丈夫。」

まるで自分に言い聞かせるように、少年はつぶやいていた。


「でも・・・・。本当になんか変だよ。さっきから、鳥の泣き声もしない。それに、なんだかこう、胸が締め付けられるような、そんな感覚がするの・・・・。」

少女は自分の胸に手をやり、不安を握りつぶすかのように、服をきつく握りしめていた。


「・・・・・・・・。」

あたりを見回した少年は、妹の言うことに、心当たりがあった。


自分たちの村に、しっかりと伝えられる伝承。

森にはいる者に、最初に教えられる、言い伝えがあった。


森の声が聞こえなくなったときは、何をおいてもにげること。


少年は今まで森の声を聞いたことなどないと考えていた。

だから、森の声が聞こえないというのは、少年にとってはいつものことだった。


しかし、今初めて、少年は理解した。


遠くから聞こえる鳥のさえずり、どこかで鳴いている虫の音。

生きるものが生きていくうえで生じる、そう言った音が今は全く聞こえなかった。


「まさ・・か・・。」

少年は自分の手が震えていることに気が付いていた。

それは人が持つ、危険を回避する能力に他ならなかった。


恐怖心。

それに駆られた少年は、妹の手を取って、駆け出していた。


「あっ。」

小さな悲鳴が上がっていた。


突然のことで、妹はころんでしまった。

少年は妹を助けようと、後ろを振り返ったその時だった。


草をかき分けるようにして、ゆっくりと進んでくるものがあった。

かつては人だったその姿は、見るも無残な姿となっていた。


生ける死体(ゾンビ)!!」

少年は反射的にそう叫んで、再び妹の手をとり、その体を引っ張り上げていた。


そして、わき目も振らずに、逃げようとした。


そう、森にはいる者の言い伝えを守るように。


「まって、お兄ちゃん。痛い。」

ほんの少しの距離を走っただけだった。

しかし、ウェンディの訴えを無視できるほど、少年は愚かではなかった。


「もしかして、足を怪我したのか・・・・」

少年は足をさする妹を見て、瞬時に理解していた。


そして手近にあった小枝を4つ、足首の外側と内側に置くと、手早く添え木として布で固定していった。


「どうだ?歩けるか?」

短く聞いた少年の視線は、さっきいた場所に注がれていた。


「うん。いたいけど・・・なんとか。でも、走れないよ。お兄ちゃん。」

か細い声で、自分の状態を告げた妹の頭を、少年は優しくなでていた。


「大丈夫だ。ウェンディはこのままゆっくりと歩いて帰るんだ。あとは、俺がアイツらを引き留めておく。」

護身用の短剣を、そばに落ちていた長い棒に結び付け、少年は勇敢に宣言していた。


「だめだよ、お兄ちゃん。あんなにいるんだよ?勝てっこない。一緒に逃げよ?私、頑張るから。頑張って走るから。ねえ。」

涙目で訴える妹の頭を、少年は2度軽く叩いた。


「なら、ウェンディが助けを呼んできてくれよ。お前が走るのと、俺が歩くのと大差ないしな。大丈夫。無茶はしない。危なくなったら逃げるから。それまで先にいっているんだ。」

少年は妹を立ち上がらせ、背中を押して送り出した。


「行くんだ。俺がうまく逃げるために、まずお前が先に逃げるんだ。そして、誰かにあったら、必ず助けを求めるんだぞ。」

もはや妹の姿を見ることなく、少年は森の奥、元来た方向を凝視していた。


「・・・・・。きっと、助けを呼んでくるから。無茶はダメだよ。」

妹は、痛む足を引きずって、懸命に歩き出していた。


「そうだ、それでいい。ウェンディ。それでいいんだ。」

少年は笑っていた。


その笑みは、自嘲でも、精神の崩壊でもなく、自分の選択が間違っていないという自信の表れのようであった。


次は2時に予約します。

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