ウェンディの決意
ヤンは頑張っています。
いつ果てるともわからない戦いが続いていた。
塚人の群れは、ヤンの作戦と剣の前に、次々とその数を減らしていた。
優勢に戦っているかのようだった。
その戦いに、礼拝堂に避難していた人々が声援を送っていた。
ヤンはその声援をうけ、より一層塚人に対して攻撃を仕掛けていた。
最初はゴーレムの攻撃をかいくぐってきた塚人を撃退するだけだった。
しかし、ヤンは待つことにしびれを切らしたかのように、ゴーレムの幅を少し開けていた。
これにより、塚人は間を抜けてくることが多くなっていた。
最初は1体がようやく来るか来ないか、そういうものだった。
そして1体ずつ、やってくるようになった。
ヤンは、これでかなりの塚人を消滅することに成功していた。
繰り返し、繰り返し、塚人を灰にしていった。
それでも、数は減らなかった。
ゴーレムが派手に吹き飛ばしているものの、その数は一向に減っていなかった。
まだ、黄色い光はゴーレムの先でたくさん光っていた。
それでも、人々の声援を受けたヤンは、自分の力を最大限に発揮して、ゴーレムと並んで剣を振るうようになっていた。
「お兄ちゃん・・・・。マルス様の教えと違う・・・・。」
ウェンディのつぶやきは、ヤンの行動変化を物語っていた。
それまで受け身だったが、ヤンは突如攻勢に出ていた。
「お兄ちゃんの手を治さなきゃ。」
ウェンディはヤンの行動変化の原因が分かっているようだった。
ゆっくりと立ち上がったその時に、ヤンの体に塚人の攻撃がかすっていた。
剣を落とし、痙攣して崩れるヤン。
ウェンディはあわてて駆け寄っていた。
「ゴーレムさん。近づけさせないで!」
ウェンディはゴーレムに命令する方法は知らなかった。
しかし、ウェンディの命令をそのままゴーレムは実行していた。
再び間を狭めたゴーレムは、巨大な壁となって、塚人を押し返していた。
「どうしよう。わたし、麻痺はまだ治せない・・・・・。」
ウェンディはヤンの状態を見て麻痺だとわかっていた。
しかし、ウェンディの使用できる魔法は、解邪と軽症治癒しかなかった。
ゴーレムは塚人を押し返してはいるが、数は減らせない。
麻痺を治せるお母さんは、昏睡したままだ。
塚人を倒せるヤンは麻痺してしまった。
「どうしよう・・・。どうしよう・・・・。わたし、何もできない。」
ウェンディの瞳に涙があふれていた。
とめどなくあふれる涙は、ヤンの顔に注がれていた。
「に・・・・げ・・・・・・」
麻痺した体で必死にその言葉を言おうとする兄の姿を見て、ウェンディは思い出していた。
「あの時みたいに、助けが来るなんて思っちゃだめだ。今おじ様も戦ってる。マルス様の言うように、最後の最後は自分の力だけなんだ。」
決意の言葉と共に、そっとヤンを地面におろす。
そして塚人にむかって歩き出した。
そのお守りを握りしめて。
ウェンディの頭の中にお守りをもらった時の言葉がよみがえっていた。
「本当に自分の力を必要となった場合、このお守りに願うがいい。このお守りはお前さんの力を何倍にも高めてくれるじゃろ。ただし、その力を目にすれば、お前さんを恐れるようになるやもしれん。ゆめゆめ忘れるなよ。」
「おじ様。今がその時だと思います。私に力を。」
「神よ。その加護のもと、この世に迷えし魂を導きたまえ。解邪」
少女の祈りの言葉が終わるとともに、少女のお守りが宙に舞い上がっていた。
ゆっくりと舞い上がるそのお守りは、やがて光となって周囲を覆い尽くしていた。
その時、その光に反応するかのように、村全体を巨大な魔法陣が覆っていた。
お守りは光をいったん吸収すると、一気に光の爆発となって村から森へ、その力を展開していった。
そして静寂が訪れていた。
「おい、大丈夫か?」
ウェンディは聞き覚えのない声でおこされていた。
「おにいちゃん・・・麻痺・・・おかあさん・・・」
やっとそれだけを告げることができていた。
「ああ、あれは君のお兄さんか。大丈夫。仲間が今麻痺を解除しているところだ。向こうの昏睡はお母さんだね。大丈夫だ。」
優しく告げるその声に安堵して、ウェンディはまた意識を手放していた。
ウェンディのお守りと村に描いた魔法陣の相乗効果でディスペルは強さとエリア拡大されて展開されました。