研究室の主(前編)
これから、前編、中編、後編の3部構成になります。
そこは巨大な空間だった。
屍龍がいたことから、その巨大さはわかっていたが、地下にこれだけの空間を作り出す古代王国の魔法の力に驚いていた。
「さっきの屍龍は番犬かなにかか?」
遠くに見える館を目にして、マルスはそう尋ねていた。
「そうかもしれん。いずれにせよ、放し飼いはよくないの。一言注意してやろう。」
わしはマルスの言葉を受けてそう返していた。
「はは。放し飼いか。そうだな。ちゃんと首輪つけてなかったから飼い主の責任だな。」
マルスは屍龍を倒した理由にしていた。
「で、正体に心当たりはあるんだろ?」
わしの横で前を見ながら、真顔になって聞いていた。
「ああ、ここの研究室の主は古代王国の死霊魔術師だ。それが死んでいるとは思えん。おそらくは不滅の隠者になっているだろう。」
わしの答えを待っていたわけでもなく、マルスの剣が空間を切り裂いていた。
割れた空間に引き寄せられるようにもう一体の屍龍が哀れな姿で横たわっていた。
「おぬしも容赦がないのう・・・・。」
割れたあとひしゃげたようにつながったそのなれの果てを見てわしは思わず同情した。
「焼き尽くしたお前に言われたくはない。俺の方はこの世にちゃんと一部だけ残してやったぞ?」
得意顔のマルスだった。
「では、わしもそうしよう。今度は完成形で行くぞい」
「白鳥の羽衣」
光り輝く幾千の羽が屍龍を包み込み、それは光の幕となっていた。
瞬間的に光の爆発を引き起こし、屍龍は跡形もなく消えていた。
「どこに、どう残ったのか聞きたいものだ。」
マルスはあきれ顔で尋ねてきた。
「マルスよ、お前の目は節穴かの?ほれ、ほれ、あそこに、爪が残っておろう。あれで十分じゃ。素材にもなるでの。」
わしはマルスが割った屍龍のなれの果てから、牙と爪を回収しながら答えていた。
「ひどくないか?それ。」
マルスの言い分はもっともじゃが、加減というのは難しい。わしも屍龍がどの程度で活動停止するのかわからん。
しかし、検証するには十分な数がやってきた。
「そこまで言うのなら、わしも引けんの。マルス。まだまだわしの番じゃぞ。」
これは検証じゃ。わしの魔力はまだ大丈夫。いざとなったら補充の魔道具ももっておる。
ここは悪いが、わしのために使わせてもらうとするか。
「雷神の槍」
無数の雷が焼き尽くしてしまった。
「戦神の羂索」
無数の光の縄で捕縛したが、あとには何も残らなかった。
「獲得の剣」
数千の剣がちょうどいい具合に屍龍を切り刻んだ。
「まあ、これでいいじゃろう。」
得意顔でマルスに告げていた。
「おいおい、いったいどれだけ失敗するんだよ。」
マルスはあきれ顔だった。
「ほほ。「失敗の炉に投げかけろ、さすれば成功への鍵とならん」というんじゃぞ?」
大人の知識を入れてやろう。
「いあ、それを言うなら、失敗は成功の母だろ。」
マルスが投げやりに答えていた。
「なるほど、それはいい言葉じゃ。さっそくわしも使わせてもらおう。しかし、おぬしのその知恵はどこから湧いてくるのか、興味がつきんの。」
わしの言葉に、一瞬歩みを止めたマルスは、しばらく考えているようだった。
「うん、それは、ロマンだからな。ロマンを追い求める者に、それは突如やってくるんだ。うん。そうだ。」
胡散臭い言い回しだった。
そもそも、そのロマンというのが分からんのだが・・・・・。
まあ、何となくだが、この男とはこれからもつながりがあるような気がし来た。
ならば詳しくは聞くまい。
そのうち話してくれるじゃろう。
その後10体の屍龍とその素材を回収したあと、屋敷の前に一人の男が立っているのが見えていた。
「おい、あれがそうか?」
マルスが同意を求めていた。
「わしに聞かれても困る。わしの知るところでは、あんな態度はとりはせん・・・・。」
研究室の主と思しき人物は、わしたちに手を振って挨拶していた・・・・・。
素材が集まり、ホクホク顔のデルバー先生です。




