ラトヒ
ついにたどり着きました。
そこは、廃墟だった。廃墟のはずだった。
しかし、今は動くものがいた。
生活をしているわけではないが、整然と並んで行動していた。
どう見ても廃墟ではなくなっていた。
しかし、この街はなぜか不自然だ。
道がまるで迷路のように入り組んでいる。
これでは生活に支障が出ていたに違いない。
なぜこんな区画に人が住んでいたのか、歩くうちに疑問が次々を湧いていた。
街はまず、珍しい円形の外壁を採用していた。これでは中の居住区が狭まる。発展する意志がない証拠だった。
そして、街の中心部に至るのに、まっすぐにいけないことだった。
まず、ぐるっと回らなければならなかった。
「邪魔くさい。俺はそのまま進むからな。」
マルスは、不死者を破壊しながら、廃墟の家をまたいで中心部分に進んでいた。
ラトヒ。
ペルレー山地の麓に位置するこの街は、記録上、疫病により一夜にして壊滅した。
当時拡散を恐れたヴィンター公爵が街全体を燃やし尽くしたと記録されている街。
老師の言葉によると、それは嘘だということだった。
あれから記録をあたってみたが、疫病がウソだということしかわからなかった。
教会にあった疫病年鑑には、ラトヒではない街が記されていた。
何らかの理由で焼かれた街。
その理由まではわからなかった。
そして、その地下には古代王国期の遺跡が眠っており、そこの入り口はどの書物にも明らかにされていなかった。
しかし、カレンの村で見た書物。そこに遺跡への道が記されていた。
かつて冒険者だったカレンの村の初代村長。
その記載は正確だった。
家が壊れているので、中心点はすぐにわかった。
周囲を見回しながら、かなりの違和感がわしの頭に生じていた。
ようやくマルスに追いつくと、マルスはただその作業を繰り返すように剣を振るっていた。
「あれか?あれが中央にある礼拝堂跡というとこか?」
累々たる元屍の上で、わしを見つけたマルスは大声でそう尋ねていた。
「おぬしは潜入ということができんようじゃの・・・。」
わしのつぶやきはわしにしか聞こえないだろう。
もはや掃除に近かった。
ただ無造作に剣を左右に振るう。
ただそれだけで、不死者の群れをなぎ倒していった。
次々と湧いて出る、不死者の群れも、わしがそばに来るころには、きれいにいなくなっていた。
「よう、おそかったな。道に迷ったのかと思ったぞ?」
マルスは礼拝堂あとに腰かけながら、手を振っていた。
「いや、気になったことがあっての。ここはきれい壊されすぎている。普通疫病で滅んだ時には、もっとこう乱暴に壊しているはずだ。しかし、ここはその痕跡をなくすかのように壊されている。まるでこう壊すように意図した・・・・」
わしは自分の見てきたものと、頭の中でわいた意見が、一致したことに気が付いた。
「飛翔」
おもむろに、わしは空に舞い上がった。
そして見てしまった。ラトヒの真の姿を。
これは、そういうことだったのか。壊したのではない。
もとからこういう風に作られていた。
なんのために?
そして、それを壊したということは・・・・・。
今の形の街をじっと見て考えた。
「いや、まて、この魔法陣・・・どこかで・・・」
建物が根こそぎなくなっていたり、道ががれきで埋め尽くされている場所があった。それはすなわち、人為的に魔法陣を変えた痕跡だった。そしてその魔法陣には見覚えがあった。
「これは、集積の魔法陣。あたりの怨念を片っ端から集めているのか・・・・。」
地上に降りマルスのそばでつぶやいた。
「ん?そんなことしてなんになる?より強い不死者でも作るつもりか?」
マルスが疑問を口にしていた。
「そうか。それだ。そうか・・・。あ奴め、それでこんなことを。」
兄弟子の仕業だ。
この古代王国の遺跡に何かがある。
不死者がわき出ることと、この怨念集積の魔法陣、それを作った人物。
その目的はマルスの推測の通りだった。
「おぬしの頭は時折すさまじい閃きを見せよるわい。」
わしは素直に感心していた。
「ん?まあ、当然だな。」
得意満面だった。
「この下には何かがある。その何かをわしは見届けねばならん。」
確固たる意志でわしは宣言していた。
「まあ、それが依頼だしな。」
マルスは相変わらずだった。
「よし、行こう。」
そう言った割に動かないマルスは、あたりを警戒しているようだった。
「そこだ!」
マルスの居合がさく裂した。
住居跡を粉砕し、立ち込める煙の向こう側から声が聞こえてきた。
「おお、お見事。デルバーですら気づかないこの俺をよく見破った。ほめて遣わす。」
手をたたいて喜ぶその姿は、煙でよくは見えないが、その声を、わしは確かに知っていた。
居合の目標は?




