プロローグ
デルバー先生と孤高の英雄マルスの出会いの物語です。
この物語だけでも一つのお話ですが、この物語のあとのことは本編およびマルスの外伝でご確認ください。
年齢はデルバー先生30歳。孤高の英雄マルス13歳。冒険者になってしばらくたってからの物語です。
では、よろしくお願いします。
あたりは熱気に包まれていた。
逃げ惑う人々は、そのゆく手を遮る炎の壁に押し戻され、次なる道をさまよっていた。
しかし、この街は道が複雑に入り組んでいた。
焦る人々は、それでも慣れ親しんだはずの道を、迷いに迷っていた。
何がいったいどうなったのか。
理由を聞いても分かるものはなく、ただ己の命を守るために、人々は逃げまどっていた。
生きること。
ただそれだけが願いだった。
しかし、その願いは、無情にも切り裂かれ、この場で無残な姿をさらしていた。
燃え盛る炎は、まるで楽しむかのように、急いで、その舞台を次々と変えていた。
まるで取り囲むかのように、ゆっくりとその輪を閉じていた。
行く先々で、火の壁が立ちふさがる。
そして人々は理解した。
街の外壁が燃えている。
これでは逃げようがない。
逃げること自体が無駄とわかると、その場で泣き崩れていた。
そして、村の中央にある礼拝堂に一組の男女が、互いの無事を確かめるように、しっかりと抱きしめあっていた。
「ねえ、アドルフ。私何も悪いことしてない。何もしてないよ。何もしてないのに、どうしてこんなことになるの?」
少女の目には大粒の涙があふれていた。
「カレンは悪くない。悪くないとも。悪いのはアイツだ。アイツが全部悪いんだ。」
少年の目には怒りと憎悪が渦巻いていた。
ついに二人の隠れている、礼拝堂に煙が静かにその姿を現していた。
ゆっくりと、確実にそれは彼らの死を告げにやってきていた。
「アドルフ。こわい・・・・。私たちもう駄目・・・・なの・・・?せっかく・・・逃・・げ・・て・・こられ・・・たのに。せっかく・・これから幸せに・・・・なるはず・・・だった・・・のに・・・・。」
煙で、うまく話せない少女を、少しでも楽にできるようにと少年は少女の礼拝堂の神の像までつれていく。
そして、その神の像をゆっくりと押し倒し、床にあいていた隙間を広げて、少女を押し込んだ。
その手は血まみれになっていたが、少年は、決してあきらめなかった。
「カレン。君だけでも・・・・。」
決意を込めた少年の言葉は、最後まで語られることはなかった。
轟音があたりを支配していた。破壊という暴力が少年の目の前で引き起こされていた。
何が起こったのかも把握できないほど、それは一瞬の出来事だった。
突如として屋根が崩壊し、その柱が床下に避難した少女の顔を直撃していた。
幼さは残すものの、村一番と評判になり、街の祭りで春娘とまで謳われた少女は、見るも無残な姿となっていた。
「カレ・・ン?」
少年は何が起きたかわからなかった。
自らの手がなくなっている事すら気づかないほど、少年はつぶれた少女を見ていた。
「カレ・・ン?」
少女に手を伸ばそうと少年はこころみていた。
突如として激痛が少年を襲っていた。
その痛みを吹き飛ばそうとするように少年は叫びをあげていた。
そして、その痛みは少年の理性を引き戻していた。
「まだ礼拝堂はそれほど燃えていなかった。なんで屋根が崩壊するんだ?僕のせいか?神の像を壊したせいなのか?カレン。君だけは助けたかったのに・・・。僕がこの手で君を殺してしまったのか?」
少年のつぶやきは、さながら懺悔のようであった。
「カレン・・・・・。僕は・・・・。」
息苦しさと喪失感で意識がもうろうとするなか、少年はおもむろに屋根を見上げていた。
自分の胸に突然あいた穴のように、天井には大きな穴が開いていた。
そして、少年は見た。その特徴的な姿を。
「ゲルマン!ヴィンター公爵め、ここまでするか!」
少年はすべてを理解した。
この街の惨劇を引き起こしたのは誰かを。
カレンを無残に殺したのは誰かを。
「おのれ!ヴィンター。おのれ!ゲルマン!!お前たちに災いをくれてやる。カレンが受けた悲しみと怒りを俺の憎しみにのせて、お前たちに災いをもたらしてやる!!」
崩れ落ちる天井の中、少年の叫びは、この地に深く、深く刻み込まれていた。
ついに、デルバー先生の話を書くようになりました。次は1時に予約します。