表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

第四話:力

 辺りの木々が揺れ、鳥達が騒ぎだした。

「逃げんな!」

 ラルラの拳が時雨の頬をかすった。

「このっ!」

 続けてボディーへのアッパーが繰り出されるも、時雨はバックステップで避けた。

「…なぁ、もういいだろ?」

 ため息混じりに時雨はラルラに聞いた。

「言い訳が、ないだろっ!!」

 ラルラの怒り狂った叫びと共に幾つもの拳と蹴りが飛び交った。

「お前のその腐った根性、叩き治してやらぁ!!」

「…頼んだ覚えがない」

 全ての打撃をかわしながら時雨はボソリと呟いた。


 戦いが起こる数分前。

「さてと、邪魔者もいなくなったし…やろうぜ」

 ラルラは指の関節を鳴らしながら時雨の方を向いた。

「……ふぁ」

 しかし、当の本人は全くやる気がないのか、欠伸をし始めた。

「おいっ!」

 時雨の余りのやる気のなさに、ラルラは叫んだ。

「…?」

「なんだ、そのやる気が一切感じられない欠伸はっ!!男ならもっとしゃきっとしろ!!」

「……で?」

 時雨のその一言にラルラがキレた…。

「お前なぁ…その、やる気のねぇ根性を叩き治してやる!!」

 ラルラが時雨に殴りかかった。


 そして、その戦いが始まって数十分が経っていた。 さすがに、周りにいた兵達も驚きを隠せなかった。 今、あの少年が相手をしているのは、自分達の隊の隊長のはず…。

 なのに、何故あの少年に一度も当たらないのか…何故あの少年はあんなにもかわし続けられるのか、と。


 そしてそれは、クラルトも同じだったのだろう、たまらず葵達に問いただした。

「あの少年は一体なんなんだ?」

「何っていわれても…」

「僕らが知りたいくらいですよ」

 葵達の表情も又、驚きに満ちていた。

「だが、キミらと彼は知り合いだろ?だったら知らない訳がないだろう?」

「し、知り合いと言われましても…」

「あたし達が時雨と知り合ったのは、つい最近だし…ねぇ」

 同意を求めるかのように、葵は鷹紀の方を向いた。

「えぇ、そうです。それに、僕達だって驚いているんですよ。いろいろ事にね…」


 一方、その頃…時雨達二人はと言うと…。

「なぁ、なんであんた俺に戦えなんて言ったんだよ」 今だに戦いが続いていた。

「はぁ!?お前の根性を叩き治す為!だろ!う、が!」

「それ、は、今、の理由だろ?最初の理由だ、よ」

 殴るラルラ、避ける時雨。

 それは、次第にラルラのイラつきを高めていった。

「最初の理由だぁ?んなもん、忘れたわっ!!」

 ラルラの渾身の一撃が放たれた。

「…無責任だろ」

 しかし、時雨はそれを軽く避けるとラルラとの距離をとった。

「…だいたい、あんたと戦って何のメリットがある…」

 そう言いながら時雨がラルラの方を見た瞬間だった。

 時雨のすぐ目の前にラルラが右腕を振りかぶっていた。

「いけない!!避けるんだ!!」

 その時、クラルトが時雨に叫んだ。

「…っ!!」

 時雨自身も危険だと感じ取ったのか、今までより遥かに速い反応速度でそれを避けた。

 そして、ラルラの右手の平が時雨の後ろの木に当たった。

 瞬間、その木は吹き飛んだ。

 森の奥の奥へと、周りの木々を薙ぎ倒しながら。

「隊長!!」

 瞬間、クラルトが叫びながら焦った様子でラルラの元へと駆け寄った。

「一体、何を考えているんですか!ただの少年に向かってプシュケを使うだなんて!!」

「いや〜、つい」

 詫びれた様子も無いラルラにクラルトは怒りをあらわにした。

「つい、じゃありません!一歩間違えば、あの少年を大怪我させていたのかもしれないんですよ!!分かってるんですか!!」

「わ、分かったって。…悪かったよ」

 クラルトの怒鳴り声に焦った様子でラルラは謝った。

「だいたい貴女はいつも…」

 だが、それでも許す様子の無いクラルトはラルラを説教し始めた。


「ねぇ、あのクラルトって人が言ってたプシュケって…あれ?」

 端からそのやり取りを見ていた葵は、先程ラルラが吹き飛ばした木の方を指した。

「多分…そうだと思うけど…。プシュケって…いったい…」

 考え込む鷹紀に華音がこっそりと話しかけた。

「あ、あの…皆があの二人に気を取られている隙に…に、逃げませんか?」

 華音のその提案に葵は大きく頷いた。

「そうだよ、今がチャンスだよ!行こっ!」

「は、はい」

 こっそりと逃げ出そうとする二人だったが、その腕を鷹紀が掴んだ。

「玖潟先輩?」

 不思議そうな眼で葵は鷹紀を見た。

「今、ここから離れるのは止そう」

「な、何でですか?」

 鷹紀の言葉に華音は問いただした。

「今、僕らは何も分かっていない。ここがどこなのか、日本なのか日本以外のどこかなのか。その為にも、情報が必要なんだ」

「その為に、あんな得体の知れない連中について行くっての!」

「…他に方法があるか?」

「時雨!?何で、あんたがここに?」

 時雨のいきなりの登場に葵達は驚いた。

「…あれだけ口論していれば、見つからずに来れる。それに、兵達もあの二人を抑えるのに必死で、こっちに気付いていなかったからな」

 時雨は淡々とした口調で喋った。

「でも、だからって…あんな連中に…」

「葵君、今、僕らが欲しいのは情報だ。情報が無ければ何も分からないし、行動も出来ない。なら、少し危険な賭けかも知れないが、彼らについて行くしかないんだ」

 鷹紀の説得に葵は渋々頷いた。

「華音君もいいかな?」

「あ、はい。大丈夫です」

「悪いね、せっかく提案してくれたのに」

「い、いえ、いいんです」 少し悲しそうな表情をしなから華音は答えた。

「さて、じゃあ…まずは、あの二人を止めて…」

 そう言い、鷹紀は先程二人がいた方を向くと、目の前にラルラとクラルトの二人がいた。

「うわっ!」

 驚く鷹紀。

「何だよ、化け物を見たような反応しやがって」

「まぁまぁ、隊長。君達の会話は少しだが聞かせてもらったよ。ついて来てくれるなら話は早い、君達を案内するよ。我らが王の住む城、ファヌエル城へ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ