第三話:遭遇
同時刻、とある城の謁見の間で会話は行われていた。
「先程、不思議な光が北の森に現れたという報告があったが、どうなった?」
高価そうな服に身を包んだ男が目の前にいる鎧に身を包んだ男に問い掛けた。
「は、三番隊を調査に向かわせましたので、あと数分もしないうちに報告が来ると思われます」
男は床に片膝を着き頭を下げて言った。
「そうか。……娘のカティと我が妻フィルナはどうした?」
「は、お二方共、お庭の方にいらっしゃいます。お呼び致しますか?」
「いや、よい。……なぁ、ローレグよ」
「はい、なんでしょうか王」
「…つまらん」
「は?」
ローレグと呼ばれた男はつい間抜けな声を出してしまった。
「最近、祭ごとも何もないからのぉ。なにか面白い事はないものか」
「はぁ、そう申されましても」
「まぁ、その三番隊の報告を待つとするかのぉ。何か面白い事だといのだが」
王は顎に生えている白い髭を摩りながらそう言った。
「駄目だ、この先は崖になってる」
「ほ、他の場所はまだまだ森が続いているようで、とてもじゃないですけど行けそうにありません」
探索に行ってきた鷹紀と華音の言葉に葵は落胆した。
「じゃあ、どうするんです?このまま、助けが来るのを待ちます?」
「うん、下手に動くよりはその方が良いのかもしれないね」
「あ、あの弥蒼さんは?」
「ん?あぁ、あいつならそこ」
葵が指す一本の木。
その影で、時雨は寄り掛かりながら何かを考えていた。
「時雨君!君もこっちに来なよ」
「……」
「や、弥蒼さん!ひ、一人は危険ですよ」
「……」
「早くこっちに来なさいよ!」
「…はぁ」
三人の呼びかけにため息混じりに起き上がると、三人の元へと歩こうとした。 その瞬間、四人の周りの木々の間から数人の兵士と二人組の男女が現れた。
「ちょっ!?何、この人達!?」
「これは!一体!?」
いきなりの事態に驚く葵と鷹紀、華音に至っては余りの事に声も出せないでいた。
「ラルラ隊長、ご指示を」 先程の二人組の男の方が女の方に言った。
「あぁ。一応、縄で拘束。後は城に連行して王の指示に従おう」
「了解しました。おい」
男が手で捕まえるよう指示をすると、兵達は時雨達をに迫った。
「くっ、こんな所で訳も解らない連中に捕まるもんかぁ!」
突如、葵が兵達に突っ込んだ。
『!!』
いきなりの事に怯んだ兵達。
葵はその隙を狙って一人の兵に掴み掛かった。
右手は胸倉へ、左手は右手首を掴み、右足で腹の部分を蹴り上げた。
「ぐぇ」
兵士はそのまま中を一回転すると地面に叩きつけられた。
「巴投げ!?」
「た、確か、葵ちゃんのお母さんって柔道の師範をやっているって」
鷹紀の驚きに華音は答えた。
「三人共!邪魔になるからどっかに隠れていて!!」
「で、でも、葵ちゃん一人じゃ!」
「華音君、今は葵君の言う通りにするんだ。ここにいても邪魔になるだけだ」
鷹紀はそう言いながら華音を連れて物影に隠れた。
「何をしている早く捕らえろ!」
男の声に反応し、兵達が葵に迫る。
しかし、それでも葵は怯まず、一人一人薙ぎ倒してゆく。
「…凄いな」
物影からその様子を見る鷹紀も驚きを隠せずにいた。
「あ、あの、玖潟先輩!」
「…なんだい?」
不意に華音が鷹紀を呼んだ。
「その、弥蒼さんが…いないんです。どこにも…」
「まさか、どこかに逃げたとか…」
その言葉を聞いた瞬間、鷹紀の脳裏に不安が過ぎった。
「がっ!」
その時、葵のくぐもった声が聞こえた。
「葵ちゃん!」
「しまった!!」
焦る二人。
その二人の前に、数人の兵士が現れた。
「おとなしくしろ!」
剣を喉元に突き付けられた二人は腕を後ろで縛られ、葵の所へと連れて行かれた。
「葵ちゃん、大丈夫!?」 華音の心配そうな声に、葵はうんと一言頷いた。
「よし、では、その三人を城へ連行する」
男はそう言い、兵達を引き連れ歩きだそうとした。 だが、女の方は動く事はなく、その場に立ち止まっていた。
「ラルラ隊長、どうかされましたか?」
兵士が数人、駆け寄った。
「…いや、確かもう一人いたような気がしたんだが…。気のせいか…」
そう言い、ラルラと呼ばれた女もその場を去ろうと後ろを向いた時だった。
「!!」
何者かの気配をラルラは感じ取り、後ろを振り向いた。
すると、ラルラのすぐ後ろに時雨が頭を摩りながら立っていた。
(このアタシが背後を取られた!?)
襲ってくる気配は無かった為、身構える事はしなかったラルラだが、その表情は驚きに満ちていた。
「時雨!今までどこにいたのよ!」
「…そこの兵隊みたいな奴らがいきなり現れた時に押し倒されたんだ。そしたら、そこにあった木に頭をぶつけて…悶えてた」
葵の声にあっけらかんとした態度で時雨は答えた。
「で…これは、どういう事態なんだ?」
コブが出来た場所を摩りながら時雨は辺りを見回した。
(あー、なるほど…)
捕まっている三人、囲まれている自分、それを見て理解したのか、時雨は両手をラルラに向けて差し出した。
「ん?何、捕まえていいって事?抵抗しないの?」
「…めんどくさい。それに、これだけの数を相手にして勝てるわけがない」
時雨の言葉にラルラは何故か唸り始めた。
「隊長?」
その様子を見て不思議に思ったのか、一人の兵士が近寄って来た。
「……よしっ!」
「うわっ!?」
すると突然、ラルラは頷き時雨を指差した。
横にいた兵は驚き、その場に尻餅をついた。
「お前、アタシと戦え」
「……は?」
いきなりの事に時雨や周りにいた兵達も呆気にとられた。
「ラルラ隊長!!」
しかしそんな中、葵達の近くにいた男が兵達を掻き分け、ラルラの元へと歩いて来た。
「何だよ、クラルト」
その姿を見るや否や、ラルラは迷惑そうな表情をした。
「何だではありません。一体、何を考えているのですか!!」
クラルトと呼ばれた男は声を張り上げてラルラを叱った。
「うっさいな。いいだろ隊長のアタシが決めた事なんだから」
「隊長なら隊長らしくもっと状況を見て判断してもらわないと。だいたい、ラルラ隊長は…」
「あー!もう!だから、うるさいっての!隊長のアタシが決めたんだから、副隊長のアンタにガミガミ言われる筋合いはないの!分かったら、おとなしくアタシの指示に従え!」
「……はぁ…分かりました」
クラルトはため息をつき、先程いた葵達の近くまで戻った。




