第二十話:宴
ガヤガヤと大広間に人が集まってゆく。
「はへ〜、すごい人の量」
「うん、そうだね」
ドレスに身を包んだ二人にタキシード姿の鷹紀が近づいて来た。
「やぁ!二人共、綺麗だね」
「ありがとう、先輩。カティアに借りたやつだけどね」
「ううん、よく似合ってるよ。葵君も華音君も」
「は、はい。ありがとうございます」
顔を真っ赤にし、もじもじと華音は答えた。
「先輩のその服はどうしたんですか?」
「ん?あぁ、これはクラルトさんが持って来てくれたやつなんだ」
「へぇ〜、よく似合…」
「よく似合ってます!!先輩!!」
葵の言葉を遮り、華音が言った。
「はは、ありがとう」
少し驚いた様子の鷹紀だったが、すぐに笑顔になりお礼をいった。
「あれ?そういえば、時雨は?」
鷹紀が一人だった事に葵は不思議に思った。
「え?えっと、彼は…」
「まさか、来ないとか?」
「はは、最初はね、そう言ってたんだ。けど…」
「けど?」
「なんだか知り合いみたいな人が来たんだ。そうしたら、いきなり行くって言いだして」
鷹紀の言葉に二人は驚いた。
「まさか、あいつを動かせる人がいたなんて」
「だよね、ちょっと凄いかも」
すると、三人の所へ二人の人影が近づいて来た。
「あ、弥蒼…さん?」
「……」
「あんた…本当に時雨?」
「…あぁ」
三人は驚いた。
確かに時雨自身は、それほど格好悪くはない、むしろ格好良い部類に入る程だ。
眼にかかる程度の前髪に全体的に少し長めの髪、眼も大きめで、どこかハーフの様な印象を受けるの顔立ちは、素材としては申し分なかった。
とは言え、今の時雨変わり様は凄かった。
タキシードに身を包んだその雰囲気はいつもと違い、どこか大人の雰囲気があったのだ。
「はぁ〜、あんたも変わるもんねぇ」
「…どこかのババァかお前は」
まじまじと見る葵に時雨がツッコンだ。
「はは、ねぇ時雨君、そちらの人は?」
鷹紀の視線の先にはドレスを着た女性がいた。
「…あぁ、こいつは…」
「初めまして、ミレイ・マタニスと申します」
そう言ってミレイは頭を下げた。
「あ、玖潟鷹紀といます」
「あたしは、羽原葵よ」
「え、と、深嶋華音です」 三人は順々に頭を下げ、自己紹介をした。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます」
ミレイはもう一度、礼をした。
「…こいつには前に助けてもらったんだ。…まさか、ここにいるとは思わなかったがな…」
「えぇ、私もです。私の場合、父がここの厨房の元料理長だったからなんですが。皆さんは?」
「えっと、そうだなぁ…。まぁ、カティアさんの知り合いと言った所ですかね」 ミレイの質問に鷹紀が答えた。
「まぁ、カティア様の…。そうでしたの…」
ミレイの表情は少し驚いていた。
「ねぇ、ミレイ」
「はい?何でしょうか、葵さん」
「お父さんが元料理長って事は…」
「はい、私も街中で飲食店を経営しております」
「あ、やっぱり!ねぇ、今度食べに行っていい?」
「えぇ、構いません。皆さんで来て下さい」
その言葉に三人は笑った。
「じゃあ、近々四人で伺わせてもらいます」
「はい、お待ちしてます」 四人は意気投合したのか、その後も話し始めた。
ただ、そんな中でも時雨は一人輪から外れ、壁際に立っていた。
そして数分後、盛大な音楽と共にヴァロンとフィルナ、カティアが現れた。
三人は広間の中央を歩き、少し高めにある奥の席に着いた。
「皆の者、静かに!!」
ローレグが声を張り上げた。
「ヴァロン王、どうぞこちらえ」
「うむ」
席を立ち、少し歩いた場所で立ち止まった。
「皆の者!まずは、生き残れた事を喜ぼうぞ。そして、死んでいった者達に供養と生きる誓い、感謝の意を込めて祈ろう…。」
シンッと会場が静まり返り、皆が眼をつむった。
二、三分経っただろうか、ヴァロンがスッと手を挙げた。
「さぁ、祈りと供養は終わった。あの者達もしんみりしたのは嫌じゃろう!天に届く程、大いに楽しもうではないかっ!!」
その言葉に、会場は沸き上がり、活気が溢れた。
「いよっしゃあ!!食うぞぉ!」
皿を持ち、意気込むラルラにクラルトが近づいた。
「隊長、明日から通常の訓練があるんですから。あまり食べ過ぎないよう…」
「わぁってる!わぁってる!まぁ、ほらお前も飲め飲め」
「あ、ちょっと!」
グラスに並々とワインが注がれた。
「隊長命令だ。飲めやぁ!」
「いや、しかしですね…」
「あんだぁ〜。アタシの命令が聞けねぇのか?」
「…隊長、酔ってますね」
「酔ってねぇよ。ほらほら、周りの皆さんもお待ちだぁ〜。飲めぇ!!」
「…ちょっ!んぐっ!?」 ラルラのグラスのワインが無理矢理、クラルトの口の中に流し込まれた。
「アハハハハ、いい飲みっぷりだぁ」
高笑いするラルラとは対称にクラルトはフラフラになった。
「おいしー!何これ、凄くおいしー」
「うん、確かに美味しい」 ほっぺを押さえ感激する葵に鷹紀はにこやかに言った。
「この飲み物も、果汁のうま味がよく出ております」
「うん、本当だ」
ミレイと華音もご機嫌な様子で食事を楽しんでいた。
「あれ?また時雨がいない」
すると、ふと葵が思い出した様に言った。
「え?弥蒼さんなら…あれ?」
二人の視線の先には先程まで壁際にいたはずの時雨がいなかった。
「あ、あそこ」
驚いた様子の鷹紀の指差す先には、黒服の男の後を付いて行く時雨がいた。




