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第十六話:紅

 地面に横たわる時雨を男達が囲む。

「この野郎、ただじゃおかねぇぞ」

「…ぐっ…貴様ら」

「寝てろ!!」

 男が時雨の脇腹を蹴った。

「かっ…は…」

「オラッ!」

「死ねっ!」

 男達は次々に時雨を蹴ったり殴ったりした。

「や、止めて下さい!!」 堪らず、ミレイは男達と時雨の間に立った。

「もういいでしよ!止めて下さい!!」

「うるせえっ!!」

 男の平手がミレイに当たった。

「…っ」

「お前はお前で後でたっぷり可愛がってやるからそこで大人しくしてろ!!」

 男達は倒れたミレイにそう言うと時雨の首を掴んだ。

「お願い!止めて!!時雨さん!!」

 男の手に力が入る。

「…が…あ…」


(俺は…死ぬのか?……この世界で………まぁ、それでもいいか…こんな人生…)

《本当…いい…か?》

(…はは、お前か…)

《本当にいいのか?》

(…あぁ、いいね。もう、疲れたんだ)

《真実を知らずにか?》

(…真実?何の真実があると言うんだ)

《この世界に来た真実…》(…どうでもいい事だ)

《そして、汝の親の死の真実》

(…!!どういう事だ!)《知りたいか?》

(あぁ、知りたいね。こんな世界の事なんてどうでもいいが、それだけは知りたいね)

《ならば、戦え。この世界で…真実を知りたくば戦い続け、そして生きろ。その先に真実がある》

(だったら、生きてやるさ。何の力もない俺だが、やってやるさ)

《…その覚悟…いいだろう。我が力…汝に貸そう…。我が血の力を…》

(血の?)

《…真の支配を…た…呼べ…名を……は…ン…》

(お、おい!まだ、聞きたい事が!!)

《……ル…志……げ》



「…っ…はぁ」

(も、戻って…来た…のか?)

「ほらほら、死ねよ早く」 男の力が更に強まってゆく。

「…誰…が…死ぬ…かぁ!」

 力を振り絞り時雨の手が男の腕を掴んだ瞬間、男の手首が落ちた。

「へ?…あ、ああ…あああああ!!」

「お、おい大丈夫か!?」

「手がぁ!!手がぁぁ!!」

 右腕を押さえ男はうずくまった。

「テメェ!!」

 途端にもう一人の男が殴りかかるが、時雨は避けると脇に回し蹴りを放った。

「うごっ!」

「…貴様は後だ」

「このっ!!」

 更にもう一人迫るが、時雨の手が首を掴み後方へ投げ飛ばした。

「さて、貴様からだ」

「ひっ!」

 時雨は手首を無くした男の胸倉を左手で掴むと右手に力を集中させた。

(力の使い方が頭の中に流れこむ)

 時雨の体中に流れ出ている血が右腕を伝っていき一つの塊になった。

「……」

 そして、その塊はナイフへと形を変えた。

「おまっ!まさか、プシュ…」

「…黙れ」

 時雨の持つ真紅のナイフが男の喉を裂いた。

「嫌っ!」

 あまりの光景にミレイは眼を逸らした。

「っ!プシュケ使いかよ、テメェ」

「関係ねえ、殺してやらぁ!!」

 男二人は落ちていた木の棒を掴んで叫んだ。

「…やってみろ」

 ナイフは液体化し時雨の体の中へと入っていった。

「へっ、観念したか?」

「…ほざけ」

 時雨は右手を先程死んだ男に向けた。

「貴様らに見せてやる血の力を…」

「んだとっ!!」

「…主無き血どもよ、汝らが新なる主は我なり。我が命に従い、舞い踊れ!」

 瞬間、先程死んだ男の体中から血が噴き出し時雨の右手に集まった。

「ひ、ひいぃぃぃ!」

「ば、化け物が!」

「…なんとでも言え」

 その血は形を変え、真っ赤な剣へと姿を変えた。

「く、このぉ!!」

 男が一人、時雨へと迫った。

 それを見た時雨は男に剣を向けた。

 刹那、剣の刀身が伸び男の胸元を貫いた。

「か…は…」

「…終わりだ」

 時雨は剣を上に振り上げ男の胸元から上を切り裂いた。

「…来い」

 その言葉と共に時雨の左手に男の血が集まった。

「さぁ、後はお前だけだ」

「く…来るなぁ!!」

 突如、男は駆け出しミレイを人質に取った。

「き、来たら!この女を殺すぞ!!」

「し、時雨さん…」

「…やってみろ」

 ゆっくりと時雨は男との距離を縮めた。

「来るんじゃねぇ!!」

 男の両手がミレイの首を掴む。

「…ぁ…か…」

「……」

 それでも時雨は足を止めなかった。

 そして、その距離五メートル…。

「…貫け」

 時雨がボソリと言った瞬間、左手にあった血の塊から一つの針が高速で伸びた。

「…!!」

 その速さは男の反応を鈍らせ、頭に突き刺さった。 男はその場に崩れ落ち、死んだ。

「大丈夫か?」

 時雨の力が消えたのか、両手にあった血は地面へと流れた。

「は、はい。ありがとございました」

「……」

 時雨は無言で手を差し出した。

「あ、どうも」

 ミレイは手を握ると立ち上がった。

「…お前、平気なのか?」

「何がですか?」

「いや、いい」

 時雨はミレイから手を離すと、両手にまた血を集めた。

「ここでの事は忘れろ。それと、もう店には戻らない…分かったな」

「……分かりました。時雨さん、死なないで下さいね」

「…あぁ」

「それと、今度はお客様として来て下さいね。私、待ってますから」

 屈託のない笑顔でミレイは言った。

「…お前」

「恐くなんかないですよ。だって、時雨さんは私を助けてくれた人ですから」

「…今度、店に客として行かせてもらう」

「はい!」

 時雨はそう言うと両手に意識を集中させた。

「…たぎれ血よ」

 血はまるで蛇のように時雨の周りをうごめき、背中に大きな羽を作った。

「時雨さん、また今度」

「…あぁ」

 羽を羽ばたかせ、時雨は戦場の方へと飛んで行った。



「立てよ」

 ラルラは地面に倒れている男に言った。

「…野蛮な人だ」

 土埃を払いながら男は立ち上がった。

「…!!そのローブに…さっきは、いきなりだったから気付かなかったが。テメェ…セビュルか」

「へぇ、俺の事知ってるんだ」

 セビュルと呼ばれた男は驚いた様子だった。

「あぁ、この大陸でテメェの名前を知らねぇ奴はいねぇ……なんたって、プシュケで人体実験をしてる腐れ野郎だからな!!」

「おいおい、何を勘違いしてるんだ?人体実験なんかしてないさ。ただ、無能な民達を俺なりに活用してあげているだけさ」

 セビュルの言葉にラルラの怒りが高まる。

「テメェみてぇな奴がいるから!!」

 瞬間、ラルラは獣人化しセビュルに襲い掛かった。

「何年も経った今でもプシュケを恐がる奴らがいるんだよ!」

 ラルラの右腕がセビュルに迫る。

 しかし、セビュルは後ろへと避けると、両手で何かを弾いた。

「がはっ!」

 腹部に直撃し、ラルラはよろけた。

「そ、そういやぁ、テメェのプシュケは空気を弾く力だったな。忘れてたぜ」

「当たり〜、まぁ、でも知ってもどうにかなるもんじゃないしっ!!」

 瞬間、セビュルは両手から無数の空気を弾いた。

「ざけんなっ!!」

 ラルラは右に跳ぶとセビュルに向かって駆け出した。

「甘いよ」

 それを見たセビュルはすぐに方向を変え空気を弾いた。

「どこがだぁ!!」

 ラルラのスピードが加速する。

 セビュルが気付いた時には、もうすでに懐に入っていた。

「ぶっ飛びやがれぇ!!」 ラルラの右手がセビュルに触れる瞬間、セビュルは空気をラルラの右手に弾いた。

 ぶつかり合う衝撃。

 力の差はほんの少しラルラが勝った。

「ぐぅ!」

 吹き飛ばされたセビュルは何とか転ばずに立った。

「このっ」

「遅ぇ」

 顔を上に上げた途端、ラルラの蹴りがセビュルの顔面に入った。

「がはっ!」

 地面に転がるセビュルにラルラが追い撃ちをかけようとした時だった。

 地面から人が出て来たのだ。

「…っ!!」

 足を止めるラルラの視線の先には先程までいなかったはずの男がいた。

「だらしがないですね、セビュルくん」

「何だ、シャムか」

 シャムと呼ばれた男は他の人とは違い軽装な格好をしていた。

「私が手伝いましょう」

「余計なお世話だといいたいけれど、そうも言ってられないな」

 その言葉にシャムはニヤリと笑うと両手をラルラに突き出した。

「さぁ、来なさい」

 シャムの声に反応するかのようにボコボコと音をたて、地面から何体もの土で創られた人形が出て来た。

「ハッ!上等だ!」

 かまえるラルラに人形達が襲い掛かった。

 獣人のスピードで人形達の攻撃を避けつつ、爪で切り裂くラルラだったが。

 切り裂こうが、殴ろうが土には関係がなかった。

 人形の拳がラルラの腹部に直撃する。

「がっ!」

「こっちもいるからね」

 セビュルの弾いた空気がラルラに追い撃ちをかける。

「…くそっ!!」

 すぐに体制を立て直そうとするが、人形達がラルラを次々に殴り、蹴った。

「…か…は…」

「ほらほら、次だ」

 ラルラの顎に弾かれた空気が当たる。

「…ぐはっ!」

 吹き飛んだラルラは地面に俯せになったままピクリともしなかった。

(…カティア……ヤベェ、意識…が)

 薄れゆく意識の中、ラルラが見たのは真っ赤な何かだった。

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