第一話:呼び声
皆様に楽しんでもらえたらと思います。
春の心地良い風が吹く午後、一人の少年が学校の裏でうたた寝をしていた。
校舎から聞こえる声を聞く所によると今は昼休みなのだろうか、男女の騒ぎ声があちらこちらから聞こえていた。
「ん…んん……」
だが、少年はそんな事にも気にせず熟睡していた。 この少年、弥蒼時雨は、この市立高校に通う二年生の学生である。
時雨はいつもの日課である昼寝を、天気の良い日はこうして外で過ごしているのだ。
「すぅ…すぅ…」
幸せそうな表情で眠る時雨……と、その時。
ガシャンというフェンス音が辺りに響いた。
「……ん?…」
突然の音に時雨は眼を擦りながらムクリと起き上がり辺りを見渡した。
すると、少し先の方のフェンスに数人の女子生徒が一人の女子生徒を囲んでいるのを発見した。
(…カツアゲか何かか?…関わると後々面倒な事になりそうだな…)
そう思い、その場を離れようと歩き出した時雨の横を一人の女子生徒が走り通った。
(…?…あいつは…)
時雨はその場に立ち止まると、女子生徒が走り去った方を見た。
その女子生徒は先程の女子生徒達の群の所へ行くと間に無理矢理、割って入った。
「んだよ、あんた!」
「邪魔なんだけど!」
途端にあちらこちらから罵声が飛び交う。
「うっさいわね!一人の子に寄ってたかって虐めてるあんたらにギャーギャー言われる筋合いなんか無いわよ!」
しかし、女子生徒はその声を上回る程の大きな声で叫び、女子生徒達を黙らせた。
「だいたいね!あんたらは…」
「はいはい、そこまで」
女子生徒が何かを言おうと口を開いた瞬間、一人の男子生徒が現れた。
「げ、あいつ生徒会の玖潟じゃん」
「…チッ、行くよ」
その言葉を合図に女子生徒達は校舎へと走った。
「もう、玖潟先輩!せっかくあたしが…」
「あー、はいはい。悪かったよ」
玖潟と呼ばれた生徒は両手を上げながらそう言った。
「で、そっちの彼女は大丈夫なの?」
「あ、そうだった」
女子生徒は慌てて後ろにいる女子生徒に声をかけた。
「あなた、大丈夫?」
「…あ、はい。…大丈夫、です」
「そう、良かった」
女子生徒は安心すると手を差し出し、女子生徒を立たせた。
「あの、その…あ、ありがとうございました。その、助けて頂いて」
「ん?いいって!困った時はお互い様よ」
女子生徒は笑顔でそう言った。
「…茶番だな」
端からそのやり取りを見ていた時雨はボソリと一言言うとその場を去ろうと、足を進めた時だった。
《…時…満ち…》
時雨の頭に誰かの声が響いた。
(…"またか"…今日は、はっきりと聞こえ…)
《…門…繋が…異界…れん》
(…クッ…何だ、目眩が)その瞬間、時雨の視界がグニャリと歪み、倒れ込んだ。
いつからだろう…あの声を聞いたのは…。
遠いようで近いように感じるあの声を…。
そして、どこか懐かしく感じる…あの声を…。
……いつからだろうか…。
「…きて…きてよ」
(…誰だ?)
「起きなさいっての!」
「…うるさい」
揺さ振られた事で起きたのか、時雨はゆっくりと眼を開け、上半身を起こした。
「うるさいとは何よ!まったく。でも、まぁ良かったわ、眼が覚めないかと思ったわよ」
(確か…また、あの声を聞いて…それで…)
「ねぇ、大丈夫なの?」
女子生徒の声に時雨はそちらに顔を向けた。
そこには、先程の二人の女子生徒と玖潟と呼ばれていた男子生徒がいた。
「大丈夫かい?顔色が余り良くないみたいだが」
「…あ、あぁ…大丈夫だ。すまない、迷惑をかけた」
「あ、ちょっと!」
時雨は立ち上がると女子生徒の制止も聞かずゆっくりとした足どりで校舎に戻って行った。
「ったく、もう」
次の日、校舎裏で寝ていた時雨の元に昨日の女子生徒が二人来た。
「…ん?」
その気配に気付いたのか時雨が起き上がった。
「あ、起きた?」
「…何の用だ」
「ん〜、まぁ、そんなにたいした事じゃないんだけど。昨日、倒れたからやっぱ心配になってさ」
「何だ…そんな事か。大丈夫だ、心配する程じゃない」
「そう、ならいいけど。…あ!そうだ、ねぇ、こうやって知り合ったのも何かの縁だと思うの!だから、互いに自己紹介しようよ」
「……」
女子生徒の唐突な言葉に時雨は呆気にとられた。
だが、そんな事は知ってか知らずか、女子生徒は話し始めた。
「わたしは二年の羽原葵。こっちが…」
葵はそう言って隣にいる女子生徒の方を見た。
「あ、あの、同じく二年の深嶋華音です。えっと、その…よろしく…お願いします」
それに気付いた華音は、おどおどしながらも自己紹介をした。
「それで、あなたは?」
「…俺は…弥蒼時雨だ」
時雨は葵の質問にため息混じりに答えた。




