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第十五話:幻影

「時雨さん!次は三番のテーブルです!!」

「…分かった」

「…時雨さん?」

「分かった!」

 ミレイの威圧に負けた時雨は大声でそう言った。

 時刻は朝方、時雨は町の避難所の一角にある店でウェイターとして働かせられていた。

 治療代の代わりに…。

「兄ちゃん、こっちも頼むよ」

「…はい」

 時雨は笑顔ひとつない表情で返事をし、ミレイの所へ行った。

「あそこの客もだ」

「……」

「…あちらの…お客様もです」

「はい、分かりました」

(…地獄…だ)

 表情には出さないが時雨は苦痛の時間を味わっていた。



「この資料も持ってけ!!」

「あ、はい!」

 兵士に渡された資料を持って鷹紀は書庫室へと急いだ。

 戦う力や治療等が出来ない鷹紀は戦いの記録や作戦等をまとめる書記の手伝いをしていた。

「よっと……ふぅ」

 棚の上の方へと資料はを置いた鷹紀は一息ついた。(皆が戦っているのに僕はこんな事をしていていいんだろうか…)

 鷹紀は今の自分に疑問を感じた。

 自分は本当に役にたっているのだろうか、こんな事がしたかったのだろうか…。

 そんな事を考えている時だった。

 ふと、入口に誰かがいる気がした鷹紀は振り向いた。

 だが、そこには誰もおらず、ただ扉があるだけだった。

「…疲れてるのだろうか」 そう自分に言い聞かせ出て行こうとした時、通路の奥に誰かを見かけた。

「…いや、まさか…そんなはずは…」

 鷹紀の表情が驚きに変わる。

「あいつが…あいつがいるはずは…」

 途端に鷹紀は勢いよく走りだし、追い掛けた。

「はぁはぁ…」

 城内を駆け巡り、鷹紀は城の外に出た。

(何であいつが…雅斗がいるんだ…)

「くっ…」

 人影を見つけた鷹紀は又、走りだした。



 そして、いつの間にか戦場近くまでやってきたのだった。

「ま、雅斗!何で、何でお前がここに!!」

 目の前にいる人物に、そう問い掛ける鷹紀。

 だが、そこには誰もいなかった。

 いや、正しくは鷹紀以外には見えなかったのだ…そこにいる人物が…。

「お前は…お前は死んだはずだろ!!」

 その言葉に反応した影は振り向き笑った。

「…っ!」

 途端に鷹紀の顔が歪む。『お前はそれでいいのか?鷹紀』

「なっ!?」

 驚く鷹紀。

 だが、確かに影はの口はそう動いたのだ。

 声は発せずとも。

『疑問を感じても。ただ、言いなりに動いて、考えて、尽くして、お前は満足か?』

「僕だって、皆の力になりたいさ!悔しいさ!けど、無いんだよ!力が!能力が!!プシュケが!!」

 叫ぶ鷹紀だったが、それでも影は優しく笑った。

『俺は知ってる。お前の強さを心を想いを…』

「僕は…お前が思っている程強くない…。僕はお前を…」

『囚われるな…俺に。お前の凄さは俺が一番知っている。本当のお前はそんなんじゃない』

「僕は…」

『俺は…お前を信じる。今のお前が昔のお前に戻る事を…だから…頑張れよ、鷹紀』

「雅斗!!」

 影は歪み、そして消えた。

「う、うわあああああああ!!」

 鷹紀はその場に崩れ落ち、叫んだ。

『信じてるぞ…鷹紀』

 その時、聞こえるはずのない声が鷹紀の耳に届いた。

「……僕は…」

 鷹紀は起き上がり、そして走りだした。



「うおおお!!」

 一人の兵士がローブを纏った男に切り掛かる。

「邪魔なんだよ」

 剣が男に届く前に兵士は吹き飛ばされた。

「君ら邪魔、俺は早くファヌエル城に行って、王様達を殺したいんだから」

「ならば、我らを倒してからにしろ!!」

「ヴァロン王達には指一本触れさせん!!」

 前方から兵達が迫るが、男は手の平で何かを弾き、兵達を吹き飛ばした。

「弱っ!もういいから…死ね」

 男は両手をおもいっきり空気中に叩きつけ、何かを弾いた。

「くっ」

「あ、あぁ」

 兵達の顔が恐怖に支配された瞬間だった。

 鷹紀が目の前に現れ、それを防いだ。

「…!」

 ローブの男の表情が少し変わった。

「はぁはぁ…。間に合って良かった」

 酸欠で倒れそうになる鷹紀を兵達が支えた。

「君!大丈夫か!!」

「え、えぇ、なんとか」

 荒い息遣いで鷹紀が言う。

「ふ〜ん、何君?どうやって俺のプシュケを防いだわけ?」

「え?」

 俺の声に鷹紀は余り反応出来なかった。

「だから…どうやったのか見せてみろっての!!」

 瞬間、俺は何かを弾いた。

「くっ!」

 その途端、鷹紀は両手を突き出し、それを防いだ。

「…へぇ、君もプシュケ使うんだ。でも、まだ成り立てみたいだね!」

 男が迫り、回し蹴りを繰り出す。

 だが、鷹紀はその方向に手を持って行き防いだ。

 俺は距離を取って鷹紀を見た。

「ほうほう、手と足の間に何かの層が出来た。それで防いでいるみたいだね」

 男は右手に力を込めた。

「じゃあ、どこまで防げるのか試してみるか!!」

 刹那、男の右手から巨大な何かが弾かれた。

「…っ!!」

 それを両手の前に出来た層で防ぐ鷹紀。

 するとそこには、巨大で透明な盾のような物がうっすらと見えた。

「それが、君のプシュケか!面白い!もっと、もっと見せてくれ!!」

 立て続けに男は攻撃をした。

「う、うおおおお!!」

 叫ぶ鷹紀。

 その想いに応えるかのように盾は、より厚く、より巨大になった。

(雅斗!力を貸してくれ!)

「うわああああああ!!」


 砂煙が舞い、辺りは見えなくなった。

「死んだかな?」

 男は眼を凝らし先程まで鷹紀がいた所を見た。

 するとそこには、無傷で立っている鷹紀がいた。

「ほぅ、あれだけくらって立っているのか…。いいね、じゃあ次だ」

 そう言って男はかまえた。

 だが、先程の攻撃を防いだ事で力尽きたのか、鷹紀は倒れた。

「あらら、もう終わりか。つまんないの、じゃ死ね」 鷹紀に近づこうとする男の前に兵達が立ちはだかるが、男は関係無しに吹き飛ばした。

「バイバイ、ちょっとは楽しかったよ」

 男の足が鷹紀の頭に落とされた瞬間、男は誰かに蹴り飛ばされた。

「ぐぼぉ!」

 地面に転がる男をラルラが見下ろした。

「バイバイじゃねぇよ。こいつはアタシのダチだからな、そう簡単に殺させはしねぇ」

 その声は怒りに震えていた。

「玖潟先輩!」

「…葵…君?」

「大丈夫ですか!?」

「はは…何とかね…」

 懸命に笑おうとする鷹紀だったが、その様子はどう見ても限界だった。

「葵!鷹紀達を連れて避難しろ!こいつはアタシがやる」

「分かった、気をつけてね」

「あぁ」

 静かに、だがはっきりとした殺意でラルラかまえた。


 一方、その頃時雨は…。

「弥蒼くん?だったっけ?」

「…何だ?」

 昼の休憩に入った時雨に店員が話しかけた。

「えっと、ミレイさん知らないかい?買い出しに行ったきり見かけなくて」

「…知らん」

「う〜ん、まだ買い出しに行ってるのかな?ねぇ、悪いんだけど捜して来てくれないかい?」

「断る」

「頼むよ、今仕込みの最中だから手が離せないんだ」

「……分かったよ」

 渋々、立ち上がると時雨は店を出て行った。


「……」

 キョロキョロと周りを見渡しながらミレイを捜していると、裏路地の奥で三人の男達がミレイを囲んでいるのを見かけた。

「ちょっ、離して下さい!」

「いいじゃねぇか。ちょっと来てくれればいいんだよ」

「嫌です!」

「たくっ、おとなしくしろ!」

 ミレイの腕を掴んでいた男が腕を振り上げた。

「…っ!」

 ミレイは覚悟をして眼をつむったが、いっこうに腕が降ろされる事はなかった。

「…?」

 恐る恐る、眼を開けると男の腕を掴んでいる時雨がそこにいた。

「女一人に男三人は見苦しいぞ」

 時雨は腕を捻った

「いでででで」

「…離れろ」

 男の首を掴み後ろに引き、ミレイから離した。

「時雨…さん」

「帰るぞ」

「あ、はい」

 ミレイを先に行かせ、路地から出て行こうとした時だった。

 一人の男が木の棒を時雨に振り下ろした。

 だが、時雨は最小限の動きで回避すると男の顔面に拳を叩き込んだ。

「ごおっ!」

 鼻の折れる音と共に男は地面に転がった。

 その瞬間、背後にいた三人目の男が時雨の頭に大きな石を振り下ろした。

「…がっ!」

 ゴンッと鈍い音がすると時雨は頭から血を流し倒れた。

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