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第十四話:休息

 その日の夜、戦場から戻って来た葵はすぐさまシャワーを浴び、体中に付いた血を洗い流した。

「…ふぅ」

 頭をタオルで拭き、葵は支給された下着と衣服を身につけた。

「よう!」

「あ、ラルラ」

 すると、すぐ後ろには同じくシャワーを浴びたばかりのラルラが下着だけの姿で立っていた。

「状況ってどうなってるの?」

「ん?あぁ、あの後多少の小競り合いはあったが、今は双方とも仕掛ける意思は無いってよ。ただ、いつまた始まるか分からん状況だから準備だけはしとけよ」

「分かった」

 さっさと服と軽い装備をしたラルラは脱衣所を出ようとした。

「…ラルラ」

 だが、葵がそれを止めた。

「プシュケの事なんだけど」

「あぁ、後で部屋に来いよ。教えてやる」

「うん、分かった」

 ラルラはそう答えると脱衣所を出た。



 城の廊下を鷹紀が走っていた。

「はぁ…はぁ…」

 バンッと扉を開けると、そこにはラルラと葵、華音がいた。

「玖潟先輩?」

 葵が不思議そうに声をかけると、鷹紀は部屋に入って入って来た。

「ふ、二人が…プシュケに…はぁはぁ、目覚めたって聞いた…ら…じっと、していられなく…て…つい…」

「まぁ、茶でも飲めよ」

 息つく鷹紀にラルラは、お茶を出した。

「あ、ありがとう……ふぅ、落ち着いたよ」

 一息ついた鷹紀はさっそく二人に今日の事を聞いた。

 二人はそれぞれ話した。 今日、起こった事、プシュケに目覚めた事を…。



「…う〜ん」

 全てを聞いた鷹紀は悩んでいた。

「何故、異世界の僕らがプシュケを?」

「さぁな、アタシ達だって全部を知ってるわけじゃない。王達もアタシ達も驚いてるんだからな」

「そうか…。…じゃあ、なんで二人はここに?」

「わ、私達ですか?」

「うん」

「あ、それは、ラルラがプシュケについて詳しく教えるって言ったからですよ」 鷹紀がラルラの方を見る。

「僕もかまわないかな?」

「ん?あぁ、いいぜ」

 ラルラはお茶を一気に飲むと話し始めた。

「まず、プシュケって言葉の意味が魂や心を意味するのはカティアから聞いたな?」

「うん。あと、プシュケは無数にあるって事も聞いたわ」

 ラルラの問いに葵が答える。

「そうだ、プシュケは無数に存在する。数はそう多くないが、全て異なる能力だからだ。プシュケには大きく分けて三つある。戦闘用、治療用、その他だ」

 ラルラは葵を指差した。

「葵、お前のはその他だ。華音、お前のは治療用とアズから聞いた。ちなみに、アタシのは戦闘用、クラルトなんか、もろに戦闘向けの能力だ」

「ラルラさんとクラルトさんの能力って?」

 華音の質問にラルラが答えた。

「ん?あぁ、アタシのは飛ばす能力だ。これは、相手に当てた力が強ければ強い程、それに比例して相手を吹き飛ばす飛距離や衝撃も強くなる力だ。クラルトのは炎の能力。こいつは結構厄介でな、剣で切りつけた場合のみ炎が燃え上がるんだ」

 ラルラの言葉を聞いた葵が首を傾げた。

「もしかして、それがさっき言ってた条件の事?」

「そうだ。ほとんどのプシュケには条件が伴う、ないプシュケなんてのはほんの一握りだ。ちなみにアタシのは、右手で触れなければならないし、クラルトなんか剣じやなきゃいけねぇんだ」

「ふ〜ん、じゃあ、あたしのは?」

「知らん」

「へ?」

 ラルラの予想外の返答に葵は間抜けな声を出した。

「それを知る為には使うしかねぇんだ。使って使って使いまくって初めて、その能力の長短がわかるんだ」

「そっか、数をこなすしかないのか」

「この戦いに勝ったら、訓練所でみっちり教えてやるよ」

「うん、お願いね」

「華音!お前もだぞ」

「あ、はい!」

 ラルラに声をかけられた華音はビクリとした。

「ハハハ、そんなにびっくりするな。お前の場合は違う方法でやるから安心しろ」

「え?あ、そうなんだ…。よかったぁ…」

 ラルラの言葉に安心した華音は大きく息をはいた。

「なぁ、そういやぁ時雨はどうした?あいつには戦場で戦ってもらおうと思ってたんだがよ」

 ラルラのその発言に三人は黙り込んだ。

「…彼は…いないよ」

「は?」

 鷹紀の答えにラルラは間抜けな声をだした。

「だから、いないのよ!あいつ、バカらしいとか言ってどっか行ったの!!」

「いないって、城の中にもか!?」

「は、はい、私達も捜したんですけど…。城内にはどこにも」

「ーっ!!あの、バカッ!!今がどんな状況か分かってんだろうが!!」

 ラルラは怒りまかせに壁を殴った。


(時雨…あんた、今どこにいんのよ。早く帰ってきてよ)


 その頃、ある建物の中で時雨は眠っていた。

「………っ」

 時雨の眼がゆっくりと開いた。

「……どこだ、ここは」

 松明で照らされた部屋を見回すとそこはいくつもの簡易式のベットが並んでいた。

(見たところ、建物を借りて作った救護室か何かだろ)

「起きました?」

 時雨が考え事をしていと、奥から一人の女性が現れた。

「…誰だ」

「わたしはミレイ・マタニス。町で飲食店を経営している者です」

「…何故、俺はこんなところに?」

「……」

「…おい」

「…礼儀を知らないのですか?」

「…は?」

「普通、わたしが名乗ったならば、貴方も名乗るのが礼儀ですよ」

 ミレイの有無を言わせぬ威圧感に時雨は渋々名前を言った。

「弥蒼…時雨さんですか。では、よろしくお願いします」

「あ、あぁ」

(こいつといると、どうも調子が狂う…。さっさと出て行くか)

 壁に掛けてあった制服の上着を取ると時雨はベットから下りた。

「世話になった」

 そう言って出て行こうとした時雨の首をミレイは掴んだ。

「逃がしませんよ」

「…な、何がだ?」

「治療代です」

「は?」

 ミレイは無理矢理、時雨を椅子に座らせると目の前に紙をたたきつけた。

「薬代やベット代、人件費やらを入れて…3,000イェンです」

「…ぼったくりもいいところだ」

 時雨はボソリと言った。

「…何か」

「いや、何でもない。それより、俺は金が無い…だから、見逃…」

「なら、働きましょう」

「……」

 時雨は観念した。

 多分、悟ったのだろう、この女性は何を言っても自分の意見を曲げる事は無い事を…。

「明日の朝、また迎えにきます。今日はこちらでお休みになって下さい」

「…あぁ」

「では、また」

 ミレイは一礼すると部屋を出て行った。

「…疲れた」

 ため息と共にそう言って時雨は眠りについた。

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