第十二話:目覚め
遅れて、大変申し訳ないです
「…はぁはぁ」
鳴り響く轟音と声、流れ、飛び散る血渋き。
そんな中に葵は一人佇んでいた。
「死ねぇ!」
「!…はっ!」
振り下ろされる剣を薙刀で左に受け流す葵。
「はぁ!!」
そして、薙刀の中心を回転させながら柄の部分を相手の顔面に叩き込んだ。
「がはっ!」
「まだぁ!」
倒れ込んだ相手の剣を足で踏み、柄の部分でおもいっきり顎を打ち抜いた。
「はぁはぁ」
「この女がぁ!!」
「…っ!」
背後からの気配に気付き避けた葵だったが、腕からは微かに血が流れ出た。
「くっ、この!」
武器を弾き飛ばそうと、薙刀の柄の部分を振り落とす葵だったが、敵はそれを軽々と避け、葵に切り掛かった。
「…!!」
「もらったぁ!!」
「甘ぇ!」
その瞬間、ラルラが敵の兵士を吹っ飛ばした。
「ぐ、このアマァ!!」
兵士は剣を拾うとラルラに向かって走って来た。
「…はぁぁ!」
すると、ラルラは右手に意識を集中させた。
「死ねぇ!」
「テメェがだぁ!!」
刹那、ラルラの右手が相手の腹部に入った。
「ぐっ!?」
その瞬間、空気の渦が集まり、兵士を数十メートル先まで吹き飛ばした。
「…ラルラ」
「…帰れ」
「え?」
「殺す度胸もねぇ奴が戦場にいても邪魔なだけだ」
「…っ」
核心を突かれのか、葵の表情が曇る。
「ここに来る前に言ったよな、殺す度胸がねぇんなら来るな、死ぬだけだってよ」
「で、でも!」
「でも、じゃねぇ!!今のテメェがそうだったろうが!……よく考えろ、ここで帰るか覚悟を決めるか」
そう言って、ラルラは戦場の渦の中へと消えた。
「……覚悟」
呆然とする葵。
その時、先程吹き飛ばした兵士が葵に迫った。
「そっちは、包帯巻いといて!」
「は、はい!」
腕を切られた兵士に包帯を巻く華音。
「アズさん!次が来ました!」
「状態は!?」
「胸から腰にかけて切られてます!」
「奥に運んで!ウチがやるわ!!」
「はい!」
「華音!アンタはここで、応急処置や!」
そう言うや否やアズは奥に入って行った。
「次入ります!」
「はい!」
その声に反応し、華音が振り向いた瞬間、絶句した。
入って来た患者は両足は有り得ない方向に曲がっており、腕や体には無数の切り裂かれた後があったからだ。
「アズさんは!」
「今、プシュケで治療中です!」
「…じゃあ、そこのあなた!」
「は、はい!」
「この人の応急処置をお願い!私達、他の人もしなきゃならないの!」
女性はそう言うと他の場所へと走った。
「…だ、大丈夫ですか!」 ゆっくりと薬を塗り、包帯を巻こうとする華音だが…。
「ぐぅ!」
突然、患者が苦しみだした。
「大丈夫ですか!!」
「はぁ…はぁ……くない」
「え?何?」
華音は口元へと耳を近づけた。
「…死に……たくない、死に…たくない」
「っ!大丈夫です!意識をしっかり保って下さい!」 必死に励ましながら処置を施す華音だっだが、男の声は次第に小さくなっていった。
「…妻と子…に…会…た…」
「駄目です!しっかり!アズさん!!アズさん!!」 必死に叫ぶものの、奥からアズの来る気配は無かった。
「……」
「駄目…駄目です。死んじゃ…駄目…です」
涙声ながらに言う華音だが、男は無言のまま眼を閉じた。
「いや、いや…」
『…ごめんな、一緒にいられなくて』
「―っ!!い、いやぁぁぁぁ!!」
瞬間、華音の両手が淡く光りだした。
「…死なせない。絶対に、死なせない!」
光は男を包むと、まるで生きているかの様にうごめき始めた。
「…はぁはぁ」
全身、血だらけの葵。
その傍らには腹部を切られ、死んでいる兵士がいた。
「…あたし…あたし…人を…殺したの?この手で?殺した?あたしが?あたしが…いや、いやぁぁぁ!!」 あまりの衝撃に葵は気を失った。
「お父さ〜ん!」
「ん〜?どうした?」
一人の男性が側にいる小さな女の子の方を向いた。
「あたしね、大きくなったらお父さんみたいな警察官になりたい!」
「おぉ!そうか、葵は大きくなったらお父さんみたいになりたいか!」
「うん!」
無邪気な笑顔で笑う葵に男は顔をほころばせた。
「じゃあ、今からいろいろと勉強しないとな」
「え〜、お勉強嫌〜い」
「はははは、好き嫌いは駄目だぞ!葵」
男は屈託のない笑顔で笑うと幼い葵を軽々と持ち上げた。
(…お…父さ…ん…。…そうだ…あたしは…お父さんの為にも……あんな事があった……お父さんの為にも)
「こん…な…所で倒れ…てる訳にはいかない…のよ!」
四肢に力を込めて葵は立ち上がった。
「お父さんの意志はあたしが…受け継ぐ為にも!」
瞬間、砂塵の中から一人の兵士が葵に切り掛かった。
「死ぬ訳にはっ!!」
刹那、葵の視界が一瞬途切れた。
そして、次に見た景色は先程いた兵士の真後ろだった。
「はぁぁ!」
葵は何の躊躇いも無く兵士の首を切った。
「はぁはぁ、今の…もしかして、プシュケ?」
葵は驚きの表情で自分を見つめた。
(あたしはさっき、背負う事を決めた…。人を殺す事の十字架を…。その覚悟がもしかしたら、あたしに力をくれたのかも…)
「だったら…あたしは…!」
葵は手に力を込めると、戦場の中へと走って行った。




