第十話:笑顔
遅くなってすみませんm(__)
陽が昇った朝方、華音の部屋を誰かがノックした。
「は〜い」
城の方で支給された寝巻を着たまま華音はドアを開けた。
「おはよっ!」
「あ、おはよ、葵ちゃん」 そこに立っていたのは、制服に着替えた葵だった。
「どうしたの?」
「いや、朝早く眼が覚めちゃってさ、迷惑かな?」
「ううん、大丈夫だよ。入って」
「ん、ありがと」
葵は部屋に入ると、華音と向かい合うよう椅子に座った。
「でも、どうしたの?いきなり」
沸かしてあったお湯をポットに入れ、華音は紅茶を二つテーブルの上に置いた。
「…夢…見たんだ」
「夢?」
「うん、昨日の事が全部嘘で、本当は学校にいたっていう都合のいい夢…」
葵は紅茶を一口飲み、気持ちを落ち着かせた。
「でもさ、やっぱり眼が覚めたら違っててさ……あたし、泣きそうになっちゃった」
「葵ちゃん…」
黙り込む葵に華音は声をかけた。
「…私もだよ」
「え?」
「私も、朝起きて全部が嘘だったらて思ったし、やっぱり嘘なんかじゃないって分かったら…不安になった。もう、帰れないんじゃないかって…でも、葵ちゃんが来てくれて嬉しかった…。だから、ありがとう」
「…うん、あたしも…ありがとう」
その後、少しの沈黙があったが二人にとっては心地の良い沈黙だった。
「でもさ、華音って、温度差激しいよね」
「え?何が?」
「だって、あたしとかと一緒だと普通なのに、大好きな玖潟先輩の前だといっつも…」
「わー!待って待って!!」
真っ赤な顔になりながら華音は叫んだ。
「い、いつから気付いてたの?」
「こっちの世界に来るほんの少し前かな」
くすくすと笑いながら葵は答えた。
「う〜、内緒だよ」
「ははは、分かってるよ」 二人は紅茶を飲みながらまた、会話をし始めた。
食堂の大きなテーブルに数種類のパンとスープ、サラダが並べられた。
「…凄い量だね」
「そ、そうですね」
かなりの量に驚く鷹紀と華音。
今、テーブルには時雨達四人にヴァロン達三人が座っていた。
「ふむ、ではいただこうかのぉ」
「そうですね、あなた」
「では、全ての食材に感謝をし…いただこう」
ヴァロンのその言葉が合図となり全員が食べ始めた。
「ところで、鷹紀殿」
「はい?なんでしょう、ヴァロン王」
「いつ頃、ぬしらの世界の話をしてくれるのかのぉ」
「そうですね、王の都合がよければいつでもいいですが」
食べかけのパンを皿に置き、鷹紀は答えた。
「そうか、ならば食事の後に昨日と同じ場所に四人で来てくれるかのぉ」
「あ、はい。分かりました」
「うむ、宜しく頼む。ところで、話は変わるが時雨と言ったかのぉ、君は?」
ヴァロンは時雨の方を向いた。
「…あぁ」
『!!』
時雨の返事に部屋の周りにいた兵達やメイド達は驚いた。
「し、時雨!あんた!!」 途端に向かいの席にいた葵も身を乗り出した。
「…なんだ?」
「な、なんだってあんた!王様よ!王様!」
「だから何だ。王だろうが何だろうが、一人の人間には変わりはないだろうが」
「そ、それはそうだけど」 言葉に詰まる葵。
「ホッホッホッ!よいよい」
そんな葵や兵達を尻目にヴァロンは笑い出した。
「確かに、時雨の言う通り、わしも一人の人間には変わりはない」
「そ、そうですか」
呆気にとられた葵は椅子に座った。
「で、何の用なんだ」
「いや、昨日、倒れたと聞いていたからの。気分の方はどうかと思ったんじゃ」
「…大丈夫だ」
「そうか、なら良い」
ヴァロンはニッコリと笑うとパンを食べだした。
「ねぇ、あたし町に行ってみたい!」
朝食を食べた後、時雨の部屋のドアを開けた葵がいきなり言った。
「は?」
本を読んでいた時雨は間の抜けた声で答えた。
「だから、町に行きたいって言ってんの!」
「…何故俺なんだ?他にも…」
「玖潟先輩はヴァロン王と、華音は城内をもっと見たいって。で、残ってるのはあんただけ」
「…断る」
「拒否権は無しよ」
「おい、俺の人権は?」
「無し!ほら、行くわよ!」
「ちょっ!?おいっ!」
葵は時雨の腕を掴むと町へと駆り出した。
ガヤガヤと騒がしい町並みに葵と時雨はいた。
「はぁ〜、凄いわねぇ」
「…はぁ」
眼を輝かせる葵、それとは対照的に落胆の時雨。
「もう、いつまでため息ついてるのよ!」
「…誰のせいだ」
「まぁまぁ、気にしない気にしない」
「…気にしないって、お前が…」
「あ、何あれ!?」
「おい」
何かを見つけた葵は駆け出した。
「わぁ!美味しそう!」
葵の目の前にはいくつもの饅頭が置かれていた。
「おじさん!これいくら?」
「ん?一個40イェンだよ」
「じゃあ…五つ頂戴」
「あいよ。じゃあ、200イェンだ」
「ん、分かった」
ポケットをごそごそと漁る葵だったが、お金が無い事に気がついた。
(そうだ、あたしこの世界のお金無いんだった)
焦る葵に店の店主は不思議な顔をした。
「どしたい?嬢ちゃん」
「いや、えと…」
戸惑う葵。
その横を時雨が通った。
「これと交換でどうだ?」 時雨が差し出したのは、一本のボールペンだった。
「何だいこりゃ?」
「ここを押すと、字が書ける代物だ」
さらさらと紙に字を書く時雨。
「ほう、こりゃ凄い。いいだろ、成立だ」
「悪いな」
そう言いボールペンを渡すと、饅頭の入った袋と葵の腕を掴み、時雨は立ち去った。
「……」
「…ありがと」
無言で渡された袋を掴み、葵は笑った。
「…今度は金を持ってからにしろ」
「うん、ごめん」
「…何で五つなんだ?」
「ん?えっとね、あたしと華音、カティア、玖潟先輩と時雨」
「……なら、奢ったかいがあったのかもな」
「そう?なら、今度は皆でこよ」
「…好きにしろ」
「了〜解〜」
時雨の言葉に葵は笑顔で答えると、手を出した
「帰ろっか」
「…あぁ」
時雨は葵の手を握ると城へと歩きだした。




