第八:覇王
「昔、この世界は覇王と呼ばれる者に支配されていたんです」
カティアは時雨達に語り始めた。
「名はカルマ。カルマは、その優れた剣術と戦略の才によって数年でこの世界の覇王として君臨しました。王となったカルマは独裁政治でこの世を支配し、人々を苦しめたと聞いています。そんな日々が数年続いたある日、四人の…後に賢者と呼ばれる人達が現れました。彼らは人には無い力、プシュケを持っていたんです。そして、その力とその人望で多くの人々を集め、ついに覇王カルマを倒したんです。覇王を倒した四人は、その後別々の道を行き、結婚し、子供を産みました。その子供にも力は受け継がれ、またその子供にも。その後、世界は何事も無く年月を重ね、プシュケも広まって行き、今にいたります。これが、この世界の歴史です」
一通り話し終えたカティアは一息ついた。
「…と言う事は、その四人の賢者がプシュケの始まりと言う訳ですか?」
「はい、そうなります」
そこで、鷹紀は一つの疑問を抱いた。
「だとすると、プシュケを持つ者は全員、その賢者の末裔と言う事になり、下手をすればその中の数組は兄弟と言う事ですか?」
「……」
カティアは言葉を詰まらせた。
「カティアさん?」
「…実の所、私達もプシュケの全てが分かっている訳ではありません。なぜなら、賢者の末裔でない者がプシュケを持っていたり、末裔の者が持っていなかったりするからです」
「え?じゃあ、プシュケって本当の所、何なの?」
「分かりません…。プシュケは無数に存在するんです」
カティアは席に座り、時雨達も又座った。
「その辺りにプシュケと呼ばれる結えんがあるんですか?」
「はい、プシュケとは人の心、魂を意味します。そして、今まで発見された力も全て異なるものでした。その為、もしかしたら人の心や気持ち、魂と言った根本から違ったものに存在する力なのかという仮説が起てられました」
「だから、プシュケなのか…。でも何故、賢者の末裔でもない人々がプシュケに目覚めたんです?」
カティアへ鷹紀が問いかけた。
「そこはまだ分かっていません。ある者は戦いの中、またある者は日常の中で目覚めたと聞いています。その発生条件も何故その者がするのかも詳しくは分かっていないのが現状です。…すみません」
頭を下げるカティアに一同は慌てた。
「や、止めて下さい!カティアさん」
「そうよ、一国の姫があたし達みたいな奴らに頭を下げるだなんて!」
「いえ、しかし…」
「だ、大丈夫ですよ。カティアちゃんの話は凄くためになりましたから」
「そうですか。それなら、良いのですが」
そう言ってカティアは頭を上げた。
「では、次はどこに…」
「おーい!カティアー!」 カティアが次の場所を聞こうとした時、下の方から誰かの声がした。
「ラルラ!これから訓練?」
「あぁ!今日、屈辱的な事があったからな!その為の訓練なん…」
そこで、ラルラの言葉は止まり、ある一点を見た。
「ラルラ?どうし…」
「弥蒼時雨!!」
突如、ラルラが叫んだ。
「…ん?」
すると、先程まで暇そうに窓の外を眺めていた時雨が振り向いた。
「…何か用か?」
「何かじゃない!アタシともう一度勝負しろ!!」
「断る」
「即答するなー!!」
怒るラルラにカティアが声をかけた。
「ちょっとラルラ、何を言っているの!隊長のあなたが勝負をしろだなんて、もし怪我でもしたら…」
「しねぇよ、コイツは…なんせ、アタシの攻撃が一度も当たらなかったんだから」
「え!?じゃあ、ラルラがプシュケを使った相手って」
「彼ですよ。カティア様」 驚くカティアに、どこからか現れたクラルトが話した。
「あなたは?」
「はい。私は第三番隊副隊長、クラルト・ジランと申し上げます」
クラルトは右膝を床に着き、頭を下げた。
「ジラン副隊長。何故、そう思うのですか?私にはそうは思えません」
「確かに、そう思われるのは当然の事です。しかし、一度見て頂ければ分かるかと…」
「……時雨さん、戦って頂けますか?」
クラルトの言葉に何かを感じたのか、カティアは時雨に聞いた。
「…何故だ?」
「少し、見てみたいと思ったからです」
「……」
その時、時雨はベットから落ちそうになった時、カティアに助けられた事を思い出した。
「…確か、あんたに貸しが一つあったな…」
そう言うと時雨は、階段を下りラルラの所へと行った。
「来たな」
「…疲れるから、すぐに終わらせてくれ」
身構えるラルラとは対象的に時雨はやる気の無い返答をした。
「玖潟先輩…」
「と、止めなくていいんですか…」
「……」
鷹紀は、二人の心配そうな声に…何も答えれなかった。
彼も見てみたかったのだろう、時雨の…強さを。
だが、この時は誰も知らなかった…この戦いが、時雨を…。
そして、他の三人をも巻き込んでしまう事態へと発展してゆくなどと…。
世界は徐々に…逃れられぬ渦に取り込まれて逝く…。




