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臆病なうさぎさん  作者: おきょう
続章

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2-12 嘘と本当①



 隣に兎の居ないベッドは、ずいぶん寒くて空虚に感じた。

 気づかない間に、マリエールにとってあの柔らかく暖かな存在があることが当たり前になっていたのだ。

 


「マリエール様? 今日はおはやいお目覚めなのですね。昨夜も遅かったのに―――まぁ、着替えも自分で出してしまって……気づかずに申し訳ありません」


 いつもの時間にヴィセが顔をだした時。

 マリエールはもう自分で身支度を済ませていた。

 

 ドレスを着て、髪をセットし、化粧も終えている。

 普段は全てヴィセか他の侍女が手伝うから、全てで来ている状況に驚かせてしまったようだ。

 でも今のマリエールは気が急いてしまって、ヴィセが来るのをゆっくりと待ってはいられなかったのだ。


 さっそくマリエールは立ち上がり、彼女を促す。

 

「ヴィセ。出かけるわ。馬車の用意をお願い」

「え? はい」



* * * *



 マリエールが朝一で向かった先。

 それは、薬を作った張本人である魔女ガーネットのところだった。


(ちょっと言ってやらないと気が済まないわ!)


 もちろん喧嘩しに来たわけでは無くて、どうして上手くいかなかったかを聞くためなのだが。

 小言の一つや二つは絶対に言ってやると決めていた。

 

 ……彼女が泊まっていると聞いていたのは城の東側にある大通りから三つ筋の外れた場所にある、二階建ての小さな宿。

 

 その店の前の道は狭くて入り組んでいて、馬車が入れないので、マリエールはその手前の道で降ろして貰った。


「お昼ごろに迎えにきてもらってもいいかしら」


 馬車から降りるなり、マリエールは御者の男を振り返りそう伝えた。

 部屋数自体が少ないだろうから、別室に控えてもらうことも出来ない。

 知られたくない話をするには家に留まって貰うわけにはいかなかった。

 その為に、外出時にはたいてい付き添っているヴィセも屋敷に留まってもらったのだ。

 

 特に治安のわるい地域でもないし時間も遅くないので、御者は頷き了承した。


「畏まりました。では馬車を少し止めおいて、薬屋の前までは私がお送りしますね。どれくらいで迎えに来ましょうか」

「ではお昼前にお願いしようかしら。昼食は屋敷でとる様にしたいわ。出来ればバロン様と一緒に」

「はい。バロン様にも言付けておきます」

「有り難う」


 ガーネットの泊る宿の扉の戸を叩き、馬車へと戻る御者を見送った後。

 

 マリエールはガーネットの泊る部屋に乗り込んだ。

 

「ガーネット!」


 案の定、不用意にも鍵をかけていない扉の鍵を勢いよく開ける。


「起きてちょうだい! というか、ここは人のいない森の中でないのだから鍵をかけなさい!」

「ね……む、い……」

「おーきーてー!」

 

 まだベッドの中で丸くなっている子相手に大きな声をかけるのは、ちょっとだけの腹いせだ。 

 シーツを捲ろうと引っ張ると、引っ張り返された。

 覗いた髪を結んでいない彼女の金色の髪は、さらに爆発している。

 ふわっふわのモッコモコになっているその髪の中心にある小さな顔が眠たそうに目を瞬き、あくびをする。


「ほらっ」


 眉を寄せて丸くなって、もう一度シーツに潜り込もうとするガーネット。

 しかしマリエールはそれを許さず、さらに力を込めてシーツを引っ張ってやる。

 寝起きでぼけぼけな彼女と、ちょっと怒りまかせなマリエールではマリエールの方に分があった。


「やぁ! さむいー!」


 シーツを失ったベッドの上、ガーネットはいやいやと首を振り騒ぐ。


「なんだか部屋中に薬草の匂いがするわよ。換気しないと」

「やー! シーツをとった上に窓まであけるなんてひどい!」

「匂いが壁にまで染みついたら、返す時に文句言われるし、追加料金取られるかもでしょう」

「そんなのどうでもいい! 安眠の方が大事! こんな早くに起こすなんてマリーのおにぃ! ばかばか!」


 ばたばたと両手両足を降り抗議する子に、マリエールは腰に手を当てて胸を張った。

 気分は癇癪持ちな子供をもつ姉か母だ。


「もうっ。別に友達を訪ねるのに非常識な時間でもないでしょう!」

「魔女は夜行性なんですぅー」

「嘘おっしゃい。ほら、話しがあるのよ、起きて」


 尚ぐずるガーネットの両手を引っ張って身を起こさせ、勝手に寝間着を脱がしてしまった。

 さらに掛けてあったワンピースを着せて、ボタンまで留めてやる。

 さらにさらにガーネットの目を覚ますために階下に降りて顔を洗うお湯を貰い、お茶まで用意してあげた。

 

「ふぅ」


 これで少し乱暴に起こした詫びには十分なっただろう。


 まだベッドに腰かけたままだが着替えも済ませて顔も洗い、お茶で一服したガーネットも、やっと目をぱちりと丸い開けてくれた。

 金色の髪は今だ爆発したままだけど、もういい。

 さっそく本題をと、マリエールは部屋の隅にあった文机から椅子を運んできて、ガーネットの前に座った。

 きょとんとした顔をしているガーネットに、眉をつりあげる。


「ガーネット。 どういうことなのっ」

「何が」

「薬、きかなかったわよ。おかげで大変だったし、バロン様も落ち込んで困ってるのよ」


 続けて昨夜あったことを順々に伝えると、ガーネットはマリエールが怒っている理由にも、どうして朝からここへ押しかけたかも理解したようで、「えへへ」と誤魔化すように笑った。

 笑いごとではないのに。

 とても傷ついた人がいるのに。 

 その反応はなんなのだと、マリエールは頬を膨らませて抗議する。


「もうっ! 劇場で兎になってしまって大変だったのよ?」

「ごめんごめん。でもやっぱり思ったようにはいかないものよねぇ」

「どういうこと?」

「呪いに対処するなんてあたしも初めてだもん。どれくらいの効果があるのかまったくわからなかったってこと」

「貴方、効果には自信があるって言ったわよね?」

「自信はあったわ! あたしは出来る子だから、初めてでもいける気がしてたの! 駄目だったけど!」

「っ、さいあく……」


 マリエールはがっくりと肩を落とした。

 ため息を吐きながら、眉間をおさえつつ、ふと目の前の魔女の様子に違和感を覚える。 


(うーん……こういう子じゃなかったと思うのだけど)


 ガーネットは、つかみどころがなくて色々と適当なところはあるけれど、人が悲しむようなことをする子ではなかった。



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