あの人はスナイパー
おじさんはスナイパー。僕とのトークに付き合ってよ。
電車から降りて駅を出ると信号は赤だった。仕事がうまくいかない、そんな悩みならだれもが抱えるものだろう。この時代に多くの人が自殺という道を選び、日本では1日100も自分から死を選んでしまうらしい。だが、悪人はのうのうと生きている。まじめな奴ほど死に、不真面目な奴ほど生き残る。「憎まれっ子世に憚る」、なるほどうまいことをいうやつもいたもんだな。そんなことを考えながら、信号を待つ。右肩には大きなカバンを背負い、黒いコートに黒い靴、全身黒ずくめ。4月に入ったばかりの少し寒さが残る春先に私は信号が変わるのを待っている。
信号が青になった。ついでに空も青い、今日は絶好の仕事日和だ。指定されたビルにむかい、屋上まで登る。階段を上ると先客がいた、とりあえず声をかけてみることにする。
「あー、もしもし。そこのお嬢さん、通りすがりのイケメンだがちょっといいかな?」
お嬢さんに話しかける。彼女の目はう潤んで涙が零れ落ちそうだった。顔色はあまり良くはない、一度医者に見せに行ったほうがいい。
「なんですか?私はこれから死ぬんです。止めないでください」
「いや、止める気はないんだ。私は借金取りでもないし、坊主のように説教たれに来たわけでもないしね。ただどうせ死ぬなら………これからホテルに行かないか?」
「嫌ですよ!生きてるのがつらいから死ぬのに何で最後にそんな気持ち悪いことやらなきゃいけないんですか?」
「気持ち悪いんじゃなくて気持ちいいことなんだけどな。いや、嫌ならあきらめよう」
「何処かに行ってください、早く。もう死にたいんです」
「OK、OK。分かった。話は変わるんだけどさ…」
「今度は何ですか!」
「財布の中にいくら入ってる?どうせ死ぬならいらないでしょう?」
「………。何だか死ぬのが馬鹿らしくなってきました」
彼女はそういって膝を抱えた。おじさんとのトークがお気に召さなかった様だ。
「そう?ま、死ぬなんていつでもできるからね。気に乗らないならまた別の日に改めたほうがいいよ」
「ほんとにもう、あなたは何なんですか?」
「そうだな…、いうなれば死神の友達かな。今日は休日だから魂とかは刈り取ったりしないんだけどね」
「嘘何だか何だか、名前くらいは名乗っておきましょうか…」
「ああ、やめたほうがいいな。死神に名前を教えちゃいけない」
「友達なだけで死神じゃないんでしょう…。分かりました、また死にたくなったら今度は友達を紹介してください」
「うん、その時はまた。おじさんのさえないトークに付き合ってよ」
そういうと彼女は会釈して階段を下りて行った。
「赤の他人とはいえ、美少女が目の前で死ぬのはさすがにいたたまれないよね」
彼女の足音が消えるとカバンからスナイパーライフルを取り出しセッティングを始める。風を図り、角度を測り、距離を測り、PCに打ち込んで計算していく。
「そうだな、どうせ死ぬならもっと」
ターゲットの顔をスコープの中に映す。薄汚れた豚の顔だ。薬物、恐喝、エトセトラ、犯罪の数え役満の出来上がりなヤ○ザの親玉に標準を合わせる。
「クズがいい」
最後に引き金を絞る。小さな発射音がして、スコープの中の豚が糸が切れたように倒れる。今日はうまい酒が飲めそうだ。




