April fool.
「僕には子供がいたんです」
「……」
体のメンテナンスに訪れたマッドマンの家で僕が言った科白だった。
「……嘘か?」
「……はい、まだ午前中ですからね。四月馬鹿です」
マッドマンは静止したまま僕に訊いた。僕も普段通りに笑って返した。半分嘘で半分本当だからだ。
僕の子供は“いた”ではなく現在進行形で“いる”から。僕には子供がいる。随分前に分かれた、たいせつなひとが、僕の子供を産んだのだ。彼女は強い人だ。彼女の意志を引っ繰り返すことはたった一度だけ掛けた電話も叶わなかった。
「それは、止めることは出来ませんか?」
「無理ね。あなた以上に愛した人がいなかったのよ」
もっと他に、この言葉を欲しかった人がいたんじゃないだろうか。考えたら詰まるのに、決意した人の声にまた喉が詰まる。
「圭さん」
名前を呼ぶしかゆるされていない錯覚に陥る。
「ごめんね」
応答は、やさしくて、かなしかった。
やがて彼女が子を産んだ。僕は出産には立ち会わなかった。子供にも会えないまま。現在に至る。彼女に言われたんだ。
「まだ、途中なんでしょう?」
「僕はクローンでしたから。嫌われたんですよ」
ぺらっぺらの嘘を重ねてみた。圭さんは決してそんな人ではない。むしろ僕を心から慈しんでくれていた。昔から。出会ったときから。子を産んで命を落とすきっと最期まで。
僕のことを、考えてくれた人が、我が儘だから気にするなと、僕のために拒絶した。
確かに僕じゃ、頼り無い。一人の人間としても、ましてや誰かの親なんて。荷が重いだろう。バランスを欠くのも目に見えていた。
「それも嘘なんだろう?」
「はい」
「そんな人じゃないんだろ?」
「────」
「無駄にこの年まで生きて大勢見て来たからな。面見りゃわかる」
「……はい」
四月馬鹿。嘘を付いたら実現されないって言う。
叶うなら、そうだな。
「僕は自分の子供と、手を繋ぐことは出来ないかもしれませんね」
四月に生まれた僕の子。
いつか、『自分』を造れたら────会えたなら良いのに。
【Fin.】