幽霊が見えて良かったことなんて一度もなかった
「おっはよ~す!!」
クラスメイトのお調子者、宮野(みやの)くんがいつものように元気に挨拶をして教室に入ってくる。
でもね、宮野くん。あなたはもう死んでるの。
私は小さな頃から幽霊が見えていた。その能力があって良かったことなんて一度もなかったけれど。目が合えば襲われ、同情すれば取り憑かれ。
幸い私は無事に生きてるが、高校生までそんな人生を歩めば『幽霊には関わらないが吉』と思うようになるのが自然の摂理というやつだ。
「皆さんに悲しいお知らせがあります。宮野くんが交通事故で亡くなりました」
「ちょちょちょ! 森先、何言ってんの! なんかのドッキリ!?」
宮野くんは森先生にツッコミを入れる。きっと自分が死んだことに気づいていないのだろう。よくあることだ。
最初は元気にみんなに話しかけていた宮野くんだが、もちろんみんなは宮野くんのことなんて見えていないし、話し声も聞こえないだろうから無視される。
そんなことが続けば彼もだんだん何かに気づいたようで、花瓶が置かれた自分の席でうなだれるだけになった。
可哀相? そうかもね。でもね、私は幽霊と関わる気なんてない。自力で成仏してほしい。
そもそも生前にそんなに接点があった訳でもないし。
「宮野くん」
でも……夕暮れの誰もいない教室で、私は彼に話しかけてしまった。
「薙野(なぎの)……?」
宮野くんは憔悴しきった顔を上げてこちらを見た。
そんな顔をしているものだから……つい……助けたくなってしまった。
次の日、放課後になった私は宮野くんの家のインターホンを鳴らした。マイクから女性の声が聞こえる。
『はい……』
「あの、宮野……涼平(りょうへい)くんの同級生なのですが、お線香をあげさせていただけないでしょうか?」
『あら……』
通話が切れて少し経つと、玄関の扉が開いた。
「どうも……涼平の母です」
やつれた中年の女性を私を出迎えた。
私は宮野くんに成仏する気があるなら手伝ってあげると提案した。最初は自分が見える私に驚いていた宮野くんだったが、そんなものかと納得して成仏について考えだした。
「成仏ってどうすりゃいいんだ……?」
宮野くんは腕を組んで頭を捻る。
「最期に何か伝えたい人とかいないの?」
私が助け船を出すと宮野くんは、はっとした。
「母さん……」
「お母さん?」
宮野くんはうなずいた。
「女手一つで育ててくれた母さんにお礼が言いたい。母さんより先に死んじまった親不孝者にできるのはそれくらいだから……」
「わかったわ。作戦を立てましょう」
「作戦?」
私は宮野くんの遺影に手を合わせた後、お母さんに向き直る。
「わざわざありがとうございます……。きっと息子も喜んでます……。あの子、寂しがり屋だから……」
息子さん、隣にいるんですけどね。それはそうと、目的を達成しなければ。
「涼平くんのお母さん。私、お母さんに言いたいことがあるんです」
「言いたいこと?」
それは、宮野くんの気持ちを代弁すること。
「涼平くん、お母さんのことをよく喋ってました。苦労をして育ててくれた。迷惑もかけた。時には喧嘩だってした。けど全部が自分の大切な宝物だって。自慢の、お母さんだと言っていました。それを伝えに来ました」
お母さんは目を丸くした後、口元を手で押さえて涙を流し始めた。嗚咽交じりに彼女は告げる。
「私もっ……涼平は自慢の息子ですっ……!」
「母さん……」
宮野くんをちらりと横目で見ると、笑いながら泣いて、言った。
「ありがとう」
その言葉は彼の母親に言ったのか、私に言ったのか、光の粒となって天に上っていった後となっては知るよしもなかった。
私は宮野くんの家を後にし、帰路についた。
幽霊が見えて良かったことなんて一度もなかった。けど、今日だけは少しこの能力があって良かったなんて思った。
「将来は幽霊を助ける仕事にでも就こうかな」
私はそう呟いて夕焼け空を見上げた。




