#. 永遠の制約、甘美な束縛 (2)
言い終えたプリシラが彼の首から手を離すと、複雑に絡み合った紋様が鎖のように彼の首を縛り、やがてゆっくりと消えていった。プリシラは両手でリュエンの頬を包み込み、尋ねた。
「リュエン。どこか痛んだり、苦しいところはない?」
「全くない」
「制約に対して、拒否感はないの?」
「ない。むしろ嬉しい」
「嬉しい?」
リュエンの答えにプリシラが首をかしげると、彼はようやく微かな笑みを浮かべ、プリシラの腰を抱き寄せた。一瞬で密着した体からは嫌な気分など微塵も感じられず、むしろ安堵感だけが込み上げてきた。
「私はもう、永遠にそなたのものになったのだから。喜ぶべき状況ではないと分かっていても、どうしても喜びが込み上げてくるのだ」
「あなた、もう以前のようには力を使えないのよ。分かってる?」
「構わない。私の力はそなたのためのものだ。そなたの望むように使ってくれ」
「なによ、それ」
彼の答えに呆れたような笑みを浮かべながら、自分もまた、彼を永遠に誰にも奪われないという事実に満足している。やはり自分たちは似た者同士なのだろうか。
(さあね)
分からないし、重要なことでもない。リュエンがもう誰のものでもなくなったという事実。大事なのはそれだけなのだから。
やつれた彼の頬を愛おしげに撫でる。プリシラの指先の感触に、リュエンは静かに目を閉じた。
「家に帰ってきたら眠くなっちゃった。そうでしょ?」
「そうだな」
「もうすぐ朝だけど……一晩中大変だったもの。今日は何もせずにゆっくり休みましょうか? 皇城でもろくに休めなかったじゃない」
リュエンもそうだが、プリシラもまた昏睡状態から目覚めて以来、嵐のような一日を過ごした。塔の賢者から魔力を授かったとはいえ、魔力が体力を補強してくれるわけではない。今すぐ二十四時間は泥のように眠りたい気分だ。
プリシラの言葉に、一瞬リュエンの表情に不安がよぎった。目を開けた彼が彼女を見上げた。
「リュエン? どうしたの?」
「プリシラ。私は……まだ、そなたの傍にいたい」
「どのくらい?」
「できるだけ長く」
うーん。できるだけ長く、ね。一時間もあればいいかしら? 眠いけれど、そのくらいなら耐えられそうだ。ついでに掃除でもすればちょうどいいかもしれない。
「分かったわ。じゃあ一緒に片付けをしましょう。長く家を空けていたから、あちこち埃だらけだし」
「いや、そういう意味ではない。そんな雑事をそなたがする必要はない」
「えっ? ああ、まだお話をもっとしたいっていうこと?」
確かに、やるべきことが多い分、話すべきことも山ほどある。リュエンは疲れすぎて逆に目が冴えているのかもしれない。プリシラはいつでも寝られるのだから、ここは彼に合わせてあげるのが……。
「そうではない。私もそなたを休ませてあげたいのだ。ただ……もし良ければ、一緒にいてはくれないか?」
「ええっ?」
「そなたと一緒に眠りにつきたいのだ」
「えええっ?!」
(今、私の聞き間違いじゃないわよね?)
思いもよらない答えに、プリシラの目が丸くなった。
「ねえ、リュエン。それ、どういう意味?」
「どういう意味……とは?」
反射的に聞き返すと、今度は彼が不思議そうな顔で問い返してくるではないか。様子を見るに、特別な意味はないようだ。ただ……。
「一緒に寝るっていうのは、いろんな意味が含まれる言葉でしょう? 意味をはっきりさせてもらわないと困るというか」
プリシラはリュエンが好きだ。彼のためなら魔塔に乗り込んで救出するくらいは何でもない。だが、一緒に夜を過ごすのは……もちろん今は朝だが。とにかく少し抵抗があるというか、まだ心の準備ができていないというか。
少し赤くなりながら困ったように言葉を濁すプリシラの姿を、呆然と眺めていたリュエンはようやく言葉の意味を理解したようだ。真っ白な彼の顔が、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
赤くなる速さがあまりに早く、白いキャンバスに絵の具をぶちまけたかのようだ。リュエンは両手を振り回しながら、しどろもどろに言葉を続けた。
「そ、そんな、そんな意味ではない! 誓ってそんなことを考えたことはない。そうではなく……」
どれほど動転しているのか、言葉まで噛んでいる。声まで震えており、極度の狼狽ぶりが全身から伝わってきた。滅多に見られない、いや、初めて見る彼の姿に少しいたずら心が湧いた。
「そうでないなら?」
「私はただ、つまり。もう少し一緒にいたいという意味で……」
「ふーん?」
茶目っ気を出してプリシラがとぼけてみせると、リュエンは手を下ろし、項垂れてしまった。
「すまない。失言した。そなたを不快にさせるつもりは毛頭なかった。私にそんな資格がないことはよく分かっている。ただ……」
先ほどまで支離滅裂に言葉を継いでいたリュエンの声が、沈んでいった。そこでプリシラがリュエンの言葉を遮った。
「いいよ」
「私はそなたの傍に……えっ?」
「いいってば」
「プリシラ?」
リュエンの瞳が大きく開かれた。橙色の瞳いっぱいに自分の姿が映ると、プリシラはにっこりと笑って言葉を続けた。
「変な意味で言ったんじゃないんでしょう。私も、あなたがいる今の時間が現実かどうか確かめたいの。だから、一緒に寝ましょう」
「しかし……」
「先に言い出したのはあなたでしょう? 私、疲れてるの。もう寝るわよ」
言い終えたプリシラがリュエンの脇を通り過ぎ、部屋へと向かった。その場に立ち尽くし、プリシラがいた場所をぼんやりと見つめていたリュエンは、一拍遅れておずおずと席を立った。
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