#15.
リュエンと共にテーブルにつき、彼が用意してくれた食事を慎重に口に運んだ。見た目からして非常に美味しそうだった料理は、実際、驚くほど味が良かった。
この一週間、魔の森を通り抜けながら食用植物ばかりを口にしてきたせいか、余計に食欲がそそられた。
生きてきた中でこれほど美味しいものを食べたのは、終戦後に王城の晩餐会に招待されて以来のことかもしれない。
両頬いっぱいに食べ物を詰め込んで頬張るプリシラの姿は、貴族の令嬢らしからぬものだった。しかし、食べ物を口にするたびに「幸せ」というオーラが全身から溢れ出し、見ている者まで楽しくなってしまうほどだった。
リュエンは微かな微笑みを浮かべながら彼女が食べる姿を見守っていたが、肝心の自分自身は何も口にしていないではないか。
「リュエン。もしかして、どこか具合が悪いの?」
「大丈夫だ。」
「でも、どうして何も食べないの? 何か食べないと元気が出ないわよ。」
「……平気だ。」
食事を拒む彼の行動に、プリシラは理解できないといった様子で首をかしげた。せっかくの食事だ。それも、とびきり豪華な。
(どうして食べないの……あ。)
そういえば、リュエンはつい昨日まで両腕がなかった人だ。プリシラが再生させた腕は、最低限の神経を繋げただけなので、スプーンやフォークのような小さなものを握るのは難しいはずだ。
かといって、皿に顔を突っ込んで食べたいわけではないだろう。並べられた豪華な食事があまりに衝撃的だったせいで、昨日の彼の姿をすっかり失念していた。リュエンの向かい側に座っていたプリシラが席を立って近づくと、彼の瞳がわずかに見開かれた。
「プリシラ?」
「ごめんなさい。私の配慮が足りなかったわ。」
「何のことだ?」
「まだ食器を扱うのは難しいでしょう。私が食べさせてあげる。あなたは患者なんだから、消化にいいものから食べましょう。はい、あーん。」
プリシラがスプーンいっぱいにホワイトシチューを掬って口元へ持っていくと、リュエンは明らかに狼狽した顔で首を振った。
「私は本当に大丈夫だ。さっき味見をしただけで十分だ。だから、食べさせてもらわなくていい。」
「嫌よ。食べさせてあげる。味見程度じゃお腹は膨らまないでしょう。さあ、口を開けて。」
「本当に大丈夫だから……。」
「リュエン、私、腕が痛いわ。早く。」
成人男性よりも重い盾を手に戦場を駆け回っていたプリシラが、スプーン一本持ったくらいで腕が痛くなるはずがない。それでもリュエンは困り果てた表情を浮かべ、おずおずと尋ねた。
「本当にいい。貴殿に不便をかけるし……。」
「同じことを何度繰り返せば食べる気になるの? もう一度言ったら無理やり食べさせるわよ。駄々をこねるなら実力行使に出るからね。」
プリシラが空いている方の手を持ち上げ、彼の顔に近づけようとした直前、リュエンが彼女の手をそっと握って下ろし、慎重にスプーンへ口を寄せた。近くで見ると、やはり溜息が出るほど美しい顔だった。
「……これで満足か?」
「いいえ? まだ始まったばかりよ。ほら、これも食べてみて。美味しいわよ。」
リュエンが食べてくれたことが嬉しくなったプリシラは、すっかり上機嫌になって、親鳥が雛に餌を与えるように次々とリュエンの口元へ運んでいった。リュエンが美味しそうに食べるのを見てプリシラもさらに食欲が湧き、「これが美味しい」「あれが美味しい」と会話を弾ませながら食事は続いた。
そうして、どれほど食べ進めた頃だろうか。
いくら美味しい料理でも、人間の胃袋には限界があるものだ。
(うぅ……もう食べられない……。)
食事を残すということは、元軍人であり、領主を補佐していたプリシラにとってはあり得ないことだった。しかし、リュエンが用意した食事は、少なくとも十人は食べられるほどの量だった。
そもそもプリシラは、それほど食が太い方ではない。リュエンもまた、長年の奴隷生活のせいで多くの食べ物を受け付けない体になっていたため、あまりにも膨大な量が残ってしまった。
最初は勢いよく動いていた食器が徐々に遅くなり、ついには動けなくなるほど満腹になった時、プリシラが申し訳なさそうな声で言った。
「リュエン……どうしよう。せっかく作ってくれたのに、全部食べきれないわ。」
「……? 全部食べようとしていたのか?」
「あなたが苦労して用意してくれたものだもの。できるだけ食べようと努力はしたけれど……ちょっと手強いわね。」
「残しても構わない。」
リュエンは気にするなと言わんばかりに答えたが、プリシラは首を振った。
「それは駄目よ。」
「完食させるために作ったわけではない。貴族たちは皆、このように食べるだろう?」
「貴族の屋敷の場合は、残った料理を奉公人たちが食べるからそうしているだけで。ここは私たち二人しかいないじゃない。」
「食べられなかった分は、消せばいい。」
「駄目。」
「……なぜだ?」
「あなたが作ってくれたものだから。できることなら、私が全部食べたいの。」
「食事ならいつでも用意できる。無理をしてまで食べる必要はない。」
「その『いつでも』の中に、『今朝』は含まれないでしょう? 今朝はもう過ぎ去ってしまうものだもの。私はあなたがしてくれることなら、何だって大切にしたいの。だから、駄目よ。」
プリシラの答えに、リュエンは眩しいものを見るように、腕を組んで悩んでいる彼女を見つめた。
残った料理など捨ててしまえばいい。リュエンの魔法で創造した食べ物なのだから、命の尊厳を論じる必要さえない。
それなのにプリシラは、「リュエン」が作ったからこそ価値があると言う。そんな彼女の言葉を、どうして拒むことができようか。




