#13.
どうしてこうなってしまったのか。
アリシア・ペインには理解できなかった。
一体、どこから掛け違えてしまったのだろう。
(プリシラ・ライデン。あの女。あの忌々しい女さえいなければ。)
アリシアは遠い昔、ペイン子爵邸に初めて足を踏み入れたその瞬間から、義理の兄であるアイザックを愛していた。
アリシアのくすんで地味な髪色とは正反対の、燦然と輝く金髪。青い瞳は宝石のように澄み渡り、平民とは根本から異なる高貴さは、まるで物語の中の王子様のようだった。
最初は、その外見に目を奪われた。しかし、アイザックという人物を知るにつれ、ますます彼にのめり込んでいった。
アイザックは血の一滴も繋がっていない、継母が連れてきた子であるにもかかわらず、アリシアを差別することなく優しく接し、貴族としての作法を教えてくれた。
平民出身で体も弱かったアリシアだったが、アイザックは気に留めることもなく、彼女を実の家族のように、いや、おそらくは実の家族以上に慈しんでくれた。
両親が事故で亡くなり二人きりになった時も、アイザックはアリシアを見捨てず、傍にいてくれた。十余年、互いに寄り添って生きてきた。
戦争が終われば、また二人だけの幸せが続くのだと信じていた。だからこそ、アイザックが帰ってくる日だけを待ちわびた。仮面を被った強欲なヒキガエルや老いぼれた狐がうごめく社交界も、アイザックのことを思えば耐えることができた。
英雄となって帰還する兄のためならば、どんな権謀術数も笑って受け流すことができた。
アリシアは、アイザックもまた自分を愛していると信じて疑わなかった。
だからこそ、初めてプリシラ・ライデンが屋敷に来た時、アリシアは目の前の現実が信じられなかった。
「アリシア。彼女はシラだ。私の妻になる人だよ。」
「初めまして。アリシア・ペイン子爵令嬢。私はプリシラ・ライデンです。アイザックからあなたの話をたくさん聞いていました。」
夜空を解き放ったような黒髪、タンザナイト色の瞳は吸い込まれるほど透明な輝きを放っていた。線は細いが、か弱さは感じさせない。軍人特有の強靭さに混じり合う女の香りが、酷く艶やかだった。
狂おしいほどの美しさを持つ女が、目の前にいた。
勝てない。どれほどアリシアが抗おうとも、目の前の美しい女には到底及ばないことを、本能が告げていた。
アイザックはプリシラを「戦場の盾」と紹介した。戦場から遠い社交界でさえ、その名は有名だった。決して折れることのない戦場の盾。王国軍の四人の英雄の一人。
プリシラを見つめるアイザックの視線は、アリシアが一度も見たことがないほど優しく、甘いものだった。恋に落ちた男の視線そのものだった。
嫉妬に狂いそうだった。同時に、あまりにもあんまりだという思いが込み上げた。
(プリシラ。あなたはすべて持っているじゃない。どうして私のものを奪おうとするの?)
アリシアにはアイザックしかいないのに。彼がいなければ、何もできないというのに。
ひどい。ひどすぎるわ。
アリシアがプリシラを恨むのは、当然の成り行きだった。幸いなことに、十数年共に過ごしてきた屋敷の使用人たちはアリシアの味方だった。
プリシラを孤立させるのは、息をするのと同じくらい簡単なことだった。病で倒れるふりをするなど造作もない。アイザックの介抱のおかげで、成長するにつれ健康になっていたし、今は倒れることなど滅多になかったが、病弱で儚げに見せるために食事制限を続けていたからだ。数食抜くだけで、アイザックが心配してやまない「アリシア」が誕生する。
二人が結婚式を挙げる日、アリシアは自ら弱い毒を煽って倒れた。当然、アイザックは彼女の傍に駆けつけ、プリシラは長い夜を独りで過ごすことになった。
三年にわたってプリシラを孤立させた。プリシラはアリシアが病ではないことに気づいていたが、何も言わなかった。いや、言ったとしてもアイザックが信じなかったのかもしれない。
アイザックにとってアリシアは、生涯守り抜かなければならない病弱で可憐な妹だったから。
あの女からアイザックを取り戻し、縋り付いて関係を持った。アイザックは依然としてプリシラに心があるようだったが、アリシアの誘惑を拒むことはできなかった。このまま子供さえできれば、アリシアの勝利だ。
肌を合わせているところを見つかったのは、予想外の出来事だった。そこにベルク辺境伯が同席していたことも、飛び上がるほど驚くべきことだった。
そう、あの日。
あの日さえなければ……。
――パァン!
頬に走る衝撃に、頭が揺れた。あまりに強く打たれたため、均衡を保てず体がよろめき、倒れ込んだ。
へたり込んだアリシアは、状況が飲み込めず呆然としていた。
「アリシア・ペイン。汚らわしい娼婦の娘の分際で、とんだことを仕かしてくれたわね。」
頭上から降り注ぐ屈辱的な言葉に反射的に顔を上げると、再び頬に鋭い痛みが走った。
「ベルク伯爵夫人の前で、どこを向いて不遜に頭を上げているのかしら? 私はあなたに、顔を上げても良いと許した覚えなどないわ。」
頬を伝って血が流れるのを感じた。屈辱的だ。けれど、顔を上げることができなかった。アリシアが沈黙を貫くと、彼女の視界に高級な生地で織られたドレスの裾が入り込んできた。
「アリシア・ペイン。今日の魔物討伐で、何人死んだか知っているの?」
「……。」
「ええ、知らないでしょうね。知らないから、こんな愚かな真似をしでかしたのでしょう。ペイン。今日の魔物討伐では、精鋭の軍人が二十人も死んだわ。どう? 気分はいいかしら?」
「……。」
「私が聞いているのよ。答えなさい!!!」




