自慢の友
美月は、むすっと口を尖らせて、ゆかりの対面に座った。
「大通りのサイゼにいるからいつでも来てなんて勝手に決めてさ。今日たまたまお店暇で早上がりしてきたけど、普通だったら来れないよ?」
その声色は、昨日よりも明るい。なんだか嬉しくなって、ゆかりは思わずふふっと笑う。
「奇跡、また起きたね」
「それ嫌い」
また、すねるように美月が言う。子供っぽくて、愛らしい、あの頃の美月と変わらない顔だ。
「あー、お腹空いた」
そう言ってメニューを開くと即座に呼び出しボタンを押す。
「マルゲリータピザで」
「かしこまりました」
(変わらないな)
「なに?」
微笑ましく美月の顔を眺めているのが、バレた。
「ううん。あの、そのマルゲリータ、ドリンクバー付にしてください」
「かしこまりました」
ごまかすようにドリンクバーを追加する。美月はご不満な様子で「勝手」とつぶやく。
「私が奢るから」
「まぁ今日は……奢られておくか」
呼び出したのはゆかりなのだから、来てくれたならば、はなから奢るつもりでいた。
「来てくれてありがとう。今、すごく嬉しい」
精一杯の笑顔をつくって見せる。一瞬目が合って、美月が照れるようにそらした。
「……私も、こんなに気にかけてくれてたんだと思って嬉しかった」
「昨日も言ったけど、美月のお陰で小説家やれているようなもんだから」
「重いんだよなぁ」
「本心だよ」
その言葉を聞いて、美月が少し微笑んだように見える。
席を立つとドリンクバーに向かい、メロンソーダを手に戻って来る。
「私、ゆかりの小説、全部買って読んでるんだ。相変わらず、すごく読みやすい」
「……そっか。ありがとう」
「……うん」
少しの沈黙。でも、苦ではない沈黙。
美月が続けて発言をする。
「でも、新作の『月に手を伸ばす』だけはちょっと、うちのお店の客が狙ってる子の名前文字って匂わせトークしてる時くらいのゾワッと感があってまだ全部読めてないけど」
あまりに美月らしい例えで、ジンジャーエールを吹き出しそうになる。
「それと一緒にされるのはつらいわ」
そうこうしているうちにマルゲリータピザが到着。
美月が「おいしそ~」とつぶやく。
「ああいうのは、バレないギリギリを狙うのが一番燃えるのよね」
「バレてないと思ってるのは、本人達だけなんだけどね」
「アハハハ! キビシー!」と、美月が笑う。懐かしい、弾けるような笑い声だ。
ゆかりも、笑う美月を見て微笑む。
「いただきます」
と、美月が手を合わせる。
「あ、ちょっと待って。写真撮ろう」
「写真? ここで?」
「再会記念に」
「私、めっちゃ顔疲れてるけど」
「いいから」
マルゲリータピザを挟んで、インカメラを構える。
* * * * *
ゆかりの家。夜ご飯を終え、あかねが歯磨きをしていると、LINEに姉からの着信。
そこには、マルゲリータピザを挟んで笑う、ゆかりと美月の写真が添付されていた。
「良かった」
満足そうに微笑む。
* * * * *
涼の家。お風呂上りでリラックスモードの涼がテレビを見ている。
あかねと同じく、LINEにゆかりからの着信。
ゆかりと美月の2ショットを見ると、嬉しそうに飲み物を飲む。
* * * * *
マルゲリータピザを分け合って食べる、ゆかりと美月。
ゆかりのスマホに着信。
「涼だ。もしもし?」
「何、キミ達より戻したの?」
「言い方」
ケラケラと涼が笑う。
「良かったな、また会えて」
「うん。ありがとう」
軽い物言いだが、涼の声は優しい。
「ちなみにさ、そこ、どこのサイゼ?」
「六本木大通りだけど」
「うわ、奇跡起こってるわ」
何のことだろうか。まったくわからず、ゆかりは目を丸くする。
対面の美月と目が合って、首をかしげる。
「そこのサイゼ、たぶん柏木が副店長やってると思うんだよね」
柏木……どこかで聞いたような。
「ほら、同窓会で美月のこと見たって言ってた」
「……あぁ!」
「もし今日いたら挨拶しとけば。あと、俺が貸した二千円返せって言っといて」
「それは自分で言おうか」
柏木という人のことは知らないけれど、有益情報をくれた方ではあるので、確かにご挨拶くらいはしておきたい。
「また今度、3人で会おう」と伝えて、電話を切る。
「涼って、明石涼?」
もぐもぐと口を動かしながら、美月が問う。
「そうそう。覚えてる?」
「覚えてるよー。ゆかりの夢、ふわっとしてるって言ったこと、一生忘れないから」
さすが、美月だ。誰よりもあたたかい、一番の理解者。
「ちなみにさ、柏木って名前の男子、知ってる?」
「隣のクラスでサッカー部の柏木でしょ。知ってるよ」
なんで?と美月が平然とした顔で尋ねる。どうやら知らないのは、ゆかりだけだったようだ。
「美月の目撃情報を涼に教えてくれた人なんだけど、私、知らなくて」
「私も、家が近所だったから、なんとなく顔見知りくらいの感覚だけどね」
「……そうなんだ」
「あはは。何、その顔」
美月が笑う。どんな顔をしていたのか、無意識すぎてわからないが、落ち込んだ顔をしたのかもしれない。
「いや、あんなに毎日のように一緒にいたのに、知らないことたくさんあるなと思って」
飲んでいたドリンクを机に置いて、美月がゆかりの顔をまっすぐに見つめる。
「友達って、案外そんなもんだと思うよ」
「?」
「一緒にいるだけで楽しいし、居心地がいいから、案外お互いのプライベートはほとんど知らなかったりもする。でも、それがいいの。人生相談が出来たりする仲なのも素敵なことだけど、一緒にいるときだけはお互い嫌なことも忘れて、くだらないことで笑い合える。そういう友達って、つくろうと思ってつくれるものではないと思うから」
優しい風が、2人の間を通ったような気がした。
「私は、恵まれてるほうなのかもしれない」
柔らかい声で美月が言ったその言葉は、ゆかりの心に深く響いて、油断したら涙が溢れそうだった。
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