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めぐり逢ひて

煌々(こうこう)とした明りに包まれた夜の六本木を走る。


どこを見ているのか、ただ一点を見つめて歩く会社員と、楽しそうに歌いながら、飲み屋に吸い込まれていく若者たちがすれ違う。


(夢と現実が、混在した街だー)


いつもなら、ただそう思って、ため息をつきながら通過していた。

でも、今は違う。

迷子になった子供のように、すがる思いでひたすら走り続ける。

ヒールを履いていようが関係ない。


幅の広い道路の反対側を、華やかな服装の男女6人組が歩いているのが見えた。

その中のひとりと目が合い、横断歩道をめがけてスピードを加速させる。


「めぐり逢ひて (久しぶりに再会したのに) 」


目が合った美月が、一瞬で表情を凍らせて、立ち止まる。

大型トラックが通過し、信号が青に変わる。

ゆかりは周りの流れに身をまかせながら、荒れた息を整えて横断歩道を渡る。

しかし、狙いの男女の中に美月はいない。


「見しやそれともわかぬ()に (本当にあなただったのかわからないまま、消えてしまった) 」


人混みの中を見渡して探すが、夢だったかのように美月の姿はない。

夜空に輝く月が雲に隠れ、明るかった街が暗くなる。


「雲がくれにし 夜半(よは)の月かな (まるで夜の雲に隠れる月のように) 」


横断歩道を渡りきり、呆然と立ち尽くす。


* * * * *


美月は、薄暗い路地裏の壁にもたれかかっていた。


(……会えない)


崩れ落ちるように泣き出す。


(……会っちゃいけない)


手に持ったスマホには、共に店を出てきた同僚から「はぐれたー?」等、メッセージが届く。


* * * * *


数か月後。有明出版。

ゆかりは2作目となる小説『月に手を伸ばす』を発表。

デビュー作の『仮面家族』の映画化も控える期待の新人小説家の新作ということで、ありがたいことに各メディアからの取材が殺到し、忙しい日々を送っていた。


「今回の作品は、どのようなところからインスピレーションを受けて生まれたのですか?」


お気に入りのワインレッドのワンピースを着て、にこやかにゆかりが答える。


「高校生の頃から、百人一首に選ばれている紫式部の和歌が好きで、この歌は紫式部が幼馴染みの女友達に向けて詠んだものという説があるのですが、彼女の日記から詠まれた背景を想像するうちに、“友情”には様々な形があるのではないかと思うようになりました」


* * * * *


平日昼間に放送されている生放送のワイドショー。

サンドイッチを食べながら、涼が誇らしげにスマホの画面を眺める。


(さすが、篠宮)


「何見てんの?」


涼がワイドナショーを見ているなんて珍しいと、同僚たちが集まって来る。


「高校の時の同級生」


同僚たちは、「小説家?」「あ、知ってる。〇〇くんが今度出る映画の原作だ」などと口々に話す。


「せっかく再会できたのに、すぐに姿が見えなくなってしまって哀しい。あなたと話したい。昔のように」


画面の中のゆかりの眼差しは、明らかに誰かに訴えかけるように、力強い。


* * * * *


スマホに有線のイヤホンをつけ、駅のホームでワイドナショーを見る、あかね。

ゆかりの想いの先の人物を思い描き、ふふっと笑う。


「紫式部は『源氏物語』に、しなやかで強い女性をたくさん登場させています。境遇は決して良いとは言えなくても、自分を鼓舞するように明るく振る舞う、内に秘めた美しさがある女性達を。彼女達のモデルのひとりに、もしかしたら、その幼馴染みがなっているかもしれない。そう思うと、ますますあの歌がいとおしくて。一緒にするのはおこがましい話なんですが、紫式部の歌に力を借りて、私も私の美しい月の心に届くような物語を書きたいと思って執筆を開始しました」


インタビュアーが、質問を続ける。


「篠宮さんの、実際にいらっしゃるご友人?」


一瞬、ゆかりの瞳が揺れた。そして、優しく微笑む。


「はい。私のファン第1号です」


* * * * *


自然光のみで照らされた部屋の中で、美月もスマホでワイドナショーを見ている。

ゆかりの言葉を聞いて、少し微笑んだ矢先、『美月、金貸して?』『この前のことは悪かったと思ってるよ』と、男からのLINEの通知が視界に入る。


「……」


これだから嫌いだ。自分も、自分の人生も、全部。

唇をかみしめて、友達一覧に表示されたその男をブロックし、スマホを雑に投げる。


「……やっぱり言えない」


頭の中に、高校時代の美月とゆかりの笑顔と笑い声が浮かぶ。


(私みたいな人間が、篠宮ゆかりの友達だなんて思われちゃいけない。私達は、もう……)


一筋の涙が、頬をつたう。


(天と地ほど生きる世界が違う)


立ち上がって、派手な衣装を手に取る。


* * * * *


インタビューを終え、休憩に入る。

次の取材は、2時間後。六本木のカフェで行われる予定らしい。

青山は、その前に1件急用が入ったらしい。


「急なんですが、先に次の現場に向かっておいていただいても大丈夫でしょうか」

「はい。カフェの詳細共有いただいてますし、大丈夫です」

「すみません、お疲れなのに」

「いえ」


六本木……。


(夢と現実が、混在した街だー)


* * * * *

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