プロローグ:モテモテの星に生まれた不幸者の星くん
新連載です。
よろしくお願いします。
この体質に気づいたのは小学4年生の頃だった。周りの男子たちよりも女の子たちがやたら俺に近づいてくるのだ。
その時は単に好かれている、モテているとばかり思っていた。いや、確かにそれはそうなのだ。それまでは男女ともに分け隔てなく友達感覚で話していたのに、次第に俺だけと話す女の子の数が増えていった。
異性を見る目で俺を見て……。
当然周りの男子たちからは嫌われた。イジメもあった。
しかしモテていた俺は気にもしなかった。モテない者たちの僻みだ、負け犬の遠吠えだと俺は心の底からいきがっていたのだ。
しかし次第に女の子たちの様子がおかしくなっていった。いつものようにクラスの女子達が俺に集まるのだが、ギュウギュウになるから、近くの女の子の肩や手の甲、指に俺の体が触れる。
「きゃあ…!」
と、嫌がりの声が。見ると叫んだ女子の顔には眉間に皺を寄せた険しい表情が。
「え、私……どうしたのかな? 好きな徹くんが近くにいるのに……??」
「だ、大丈夫??」
俺は彼女の手を握った。そしたら、
「やだ! 触らないでよ!!!」
バチッと俺の手を払いのけたと思ったら、彼女は俺の体を思いっきり突き飛ばした。
囲んでいた女の子たちにも被害が及び、俺と一緒に何人かの生徒は転んでしまった。
「え……私??? なんで……」
と飛ばして呆然と自身の手を眺める当の本人。クラスでは唖然とした変な空気に包まれる。
それからだ。囲む女子達も増えたが、当たると反射的に俺を毛嫌いする女子たちが増えたのは。
囲む女子達が対数関数的に増えるのに対し、触ると毛嫌いする女子の数は指数関数的に増えていった。
だからといって嫌われるのは一瞬の出来事だ。接触する時のみ嫌われるが、それ以外はいたってメロメロ状態である。
当たらなければ良い。小学生の俺はそう思っていた。しかしそこまでだった。
中学校に入ると思春期まっただ中、相変わらず俺はモテてモテてだった。中学校では可愛くおしゃれをする女子が増え、体型もみんな第二次成長期、男子は少しずつ男らしく、女子も少しずつ女らしくなる。そんな時の女子たちにモテるのは嬉しい。
彼女も作るゾと、息巻いていた。しかしそこからが地獄の始まりだった。
確かに彼女はできた。嬉しかった。性格も容姿も好みの女子で、告白したら案の定即OKの返事。問題ないはずだった。
しかしダメだった。初めてのデート、彼女と映画を見にいった。彼女の好きなホラー映画。怯えながら楽しむ彼女を横目に、彼女の手を握ろうとした。
映画はゾンビから逃げて恋人同士でハグをするシーン。誰が見てもホッと胸をなで下ろすところだった。……が、
「きゃーーーーー!!!」
悲鳴を上げる一人の女子。俺は気づけば座ってた席から2mは飛んで床に横たわっていた。周りはなんだなんだとガヤガヤする。
正気に戻った彼女は周りに謝りながら、俺たちは映画館を後にした。
それから挑戦したがダメだった。みぞおちに、頬に、脚に、殴られ蹴られた。その後は「だ、大丈夫!?」といつも心配そうに俺を見る。
「大丈夫……」
と答えるがやっぱり大丈夫じゃなかった。嫌悪の表情を浮かべて怒りの目を向ける彼女の顔を俺は忘れられなかった。
彼女とは4ヶ月もたたずに別れた。隣でボロボロになる俺を見て、彼女も辛かったみたいだ。(後で知ったが他の女子からやっかみや、イジメもあったらしい)
そして中二の時だ。事件が起きたのは。
色んな運動部のエースたちから体育倉庫内でリンチを受けたのは。男子から冷たい目で見られるのは慣れていた。しかし今回は様相が違った。部活のエースでクラスの人気者たちが俺をイジメる。怒りと、どこか哀しげな表情を浮かべている。
そして彼らの言葉は同じだった。
──彼女がお前を見てから変わっちまったんだ!!──
そう、彼らの恋人たちは彼らをフって、目の色変えて俺を追っかけるようになったのだ。しかしこの体質だ。彼女たちが俺の彼女になれるはずがない。
しかし彼らはそんなこと知る由もなく、もう俺に寝こまれたとばかり思っていた。
もちろん俺が彼らに同情するつもりなんてこれっぽっちもなかった。しかしだからといって彼らを嫌うこともできなかった。俺はただ自身の─生まれながらの─この体質を怨むことしかできずにいたのだった。
その後教師たちへ女子からの密告が入り、彼らは10日間の自宅謹慎になり、俺は2週間の入院となった。
俺は先生に自身の体質について訊いてみた。
しかし、「そんな病名はないねえ」の一点張り。
異常な体質なのに、特に病気ではないらしい。何度訊いても同じ返答。俺は自分の体質が分からないまま、不安とイライラが募った。
退院後、しばらく自宅療養した。自分の体質の答えを見つけるため、図書館巡りをした。めぼしい答えはない。
俺はふらふらと河川敷を歩いていると、対向側から一人の僧侶が歩いていた。
身長は低めで杖を持ち、笠を被って顔は見えないが、千鳥足でふらりふらりと歩いてくる。腰には徳利を携えて、いかにも生臭坊主だった。
関わらないようにしよう。すっと坊主の横を横切ろうとする。
「待てい」
と低めで少ししわがれた声。さっきの千鳥坊主だった。しかしその時の彼は生臭坊主のそれはなく、むしろ眼光鋭く何かを見透かした目をしていた。
「な、なにか……?」
「お主、なんと奇異な相をしておるのだ」
俺はドキッとする。
「な、何を言ってるんだ? 今時そんな迷信めいたこと……」
「なら問おう。お主、己がさだめに不幸を感じたことはないか?」
「そんなの、誰だってあることでしょ?」
「女からモテておるのにも関わらず同時に、その子等から嫌われてはいないか?」
俺はギョッとして、笠から覗くぎらっと光る壮年の坊主の目を見る。
「お主は人類にもたぐいまれな幸運の星に生まれたのにも関わらずだ、地獄にも劣らぬ女難の相に侵されておるのだ」
反論する言葉も出なかった。脚には力が抜け、悲壮感になりながら、ガクッと俺はうなだれた。
その僧は優しく、しかししっかりした声で、
「そう、悲観するでない。たった一人だ。たった一人だけ、お主の人生の中で、その力を打ち消すほどの女性に出会うであろう」
俺は動揺して彼の全体を見る。
「ほ、本当ですか!?」
「うむ、本当だ」
初めて彼の本当の表情を見た気がする。優しく慈愛の満ちた、芯を持つ人間の顔だった。
「しかしその機会は一度だけじゃ。離れれば二度とこのような相手とは出会えぬぞ! 決してその女性を取り逃すでない!」
──それから二年。
校庭に桜の咲く頃。道路には淡いピンクの花びらが、パステルに描いた点描のように色をつけていた。
「入学おめでとうございますー!」
と校内で響く先輩たちの声。俺は人混みを避けながら、クラス分けのボードから自分の名前を見つける。
「俺の名前は~……。おっ、あった!」
──星徹──と親からもらった自分の名前を眺めながら、期待と受難に満ちた俺の高校生活が始まった。
第一話終わりました。どうでしたか??
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