言葉には気をつけましょう
「ねぇ、柴山。放置プレイって何だろう」
恵理がふと呟くように言った。
「何だ、いきなり」
柴山は、怪訝な顔をして、恵理を見た。
「ネットとかでたまに見るの。私、放置プレイっていうのは、Sの人がMの人に何もしないことで不安感を与え て、逆にMの人はそれに快感を感じて、Sの人はそれをにやにや見てるプレイだと思ってたの」
「……で?」
柴山は怪訝な表情のまま、先を促す。
「最近ネット上でよくこの言葉を目にするのよ。だから、そんなにプレイ好きが増えたのかと……」
「そんなわけねぇだろ」
柴山の容赦ないツッコミが入る。
「わかってるわ。それで、どれだけこの言葉の意味をわかって、使ってる人がいるのだろう、と思ったのよ」
「まぁ、みんなわかってるから、あえて使ってみてるんだろ」
「そうであると思うけれど……ちょっと安易に使いすぎな気がしてならないの。本来は敬遠されるべき言葉じゃ ない。それに、本来の意味から離れてきてる。最近、これだけじゃなくて、他にもそういう言葉があるように思 うわ」
「ことわざも、そういうのがあるよな」
「情けは人のためならず、とか? あれ私未だに品詞分解して意味考えないと、間違うわ」
「それどうなんだよ、お前」
「だって、河童の川流れを、気持ちよく川を流れていく様子、とかいう人がいるらしいじゃない」
「……待て、なんだか話がずれてるぞ」
「あぁ、そうだった。で、こんなんでいいのかなって話よ」
「そう、そして俺は、変化するのが言葉じゃないのかって言おうとしたんだった」
「でも、大事にすべきポイントもあると思うのだけど」
「まぁ、確かにな」
「放置プレイなんて、公衆の面前では言えない言葉でしょ」
「そりゃ、そうだ」
「でも、ネットでたくさん使ってたら、いつ普段の言葉でもその言葉を出すかわからないわよね。そしたら、恥 をかくことにならない?」
「一理あるな」
「だから、普段から言葉に気をつけるべきだと私は思うのよね」
「まぁ、それはいいだがな、佐藤」
柴山は呆れたように、重いため息をはいて言った。
「ん?」
恵理は何だ、とばかりに柴山を見る。
「早くこの問題解いてくれ。いつまでこうしてるつもりだ」
「嫌だー、めんどくさいー、何この公式を何回も使うヤツー」
恵理は、机の上にかぶさると、駄々をこねた。
「俺だって暇じゃないんだぞ! いい加減終わらせろ!」
柴山はイラついた表情をして、怒鳴る。
「はーい……」
さすがに恵理も悪いと思ったのか、また練習問題に向かうのであった。




