白々しい
「私、ホワイトデーは特に気にしないの」
恵理はいきなりそう言った。
「あ、そう」
隣にいた柴山は、「で?」と言いたげに相槌を打った。
「だって、お返しなら、バレンタインにチョコもらった時にでも、お返しに何か買いにいこうかとか、飯でもおごるぜ、とか言えば済むじゃん。それができないような仲の人には、元々お返しなんか期待しないし」
「なるほど。でも、そう割り切れるもんでもないだろうさ。だいたい、イベントごとを多くした方が、色々都合がいいしな」
「わかってる。言ってみただけ」
「で、なんで急にそんなこと言い出したんだよ」
「いやぁ、ホワイトデーとかうぜぇって思ってさ~」
そう言うと恵理は、目の前で弁当を食べている可南子をじっとりとした目で見た。
「何」
可南子は一旦食べる手を止めて、そんな目で見られるなんて心外だ、という顔をした。
「私は知ってるんだぞ~。菊池君が密かに持ってるものを~」
恵理の言葉に、可南子の隣で弁当を食べていた菊池も手を止めて、苦笑いを浮かべた。
「佐藤、なんか誤解してないかい?」
「何を誤解してるって言うのさ! 菊池君の机の横に特別な感じで一つだけ袋に入ったものがあったって、噂されてるの聞いたんだから! その袋がホワイトデーのお返しなんでしょ! バレンタインデーに可南子が菊池君に何かあげてるの見たんだから! 可南子の嘘つき! 菊池君とは付き合ってないって言ってたのに!」
「いや、それが大いに誤解だし」
「だって私には何もくれないのに、菊池君には何かあげてるなんて、特別な意味がないってんなら何だっていうのさ~!」
「まるで旦那の浮気が発覚して怒ってる妻みたいだな」
柴山は横で冷めた目で見ていた。
「実はね、恵理……」
と、可南子が急に真剣な面持ちで話しだした。
雰囲気の変わった可南子に対して、その場にいた皆が姿勢が変わった。
「としには亡くなってしまった妹がいたの」
「え……」
「妹さんは病弱で、としはほとんど毎日お見舞いに行ってたの。そして毎年バレンタインデーとホワイトデーには、プレゼントを交換する約束していたの。妹さんにとって、バレンタインデーとホワイトデーは憧れだったから。本当は恋人と過ごしたいと思っていたの。でも、なかなか出歩けなかったから、相手も見つけられなかった。だから大好きなお兄ちゃんにプレゼントを贈ることにしたの。もう、自分は病院の外に出ることはできないとわかってたから。実は私も何回か妹さんのお見舞いに行ったことがあってね。それを知ってたの。そして、妹さんは結局亡くなってしまった。だけど、としはホワイトデーに贈り物を送る習慣だけが残ったの。まぁ、それも何だから、私があげることしたのよ」
「そうだったんだ……」
「……だったら、すごいよね~」
「は?」
「なーんつって。嘘だよ~ん」
「可南子~!!」
「なぁ、さっきの話、嘘だよな?」
恵理と可南子が騒いでる横で、柴山は小さな声で菊池に問うた。
「なんで聞くの?」
「いや、何となく確かめたい」
「うーん……一部脚色ありって感じかな」
「え」
「まぁ、俺らにも色々あるんだよ」
「……お前らって謎だよな……」
柴山は、ひきつった笑みを浮かべて、菊池を見た。
「俺にしたら、柴山も十分謎だらけだけどね」
菊池は、相変わらずの笑顔で何事もないように答えた。
「…………」
菊池の笑顔に、柴山は何も言えなくなった。




