ごっこ遊び
「柴山」
「ん?」
恵理に声をかけられ、柴山は顔を上げた。
「おぉ、ロミオ、ロミオ! どうしてあなたはロミオなの?」
「…………」
いきなり何を言い出すんだ、という顔で、柴山は恵理を見た。
恵理は一瞬柴山を見るが、構わず続ける。
「…………私の敵といっても、それはあなたのお名前だけ、モンタギューの名を捨ててもあなたはあなた。ロミオ、その名をお捨てになって、あなたと関わりのないその名を捨てた代わりに、この私を受け取って」
「…………受け取ります、お言葉どおり。恋人と呼んでください。それがぼくの新たな洗礼、これからはもう決してロミオではありません」
柴山は、渋々と続く台詞を口にした。本当に嫌そうに、抑揚のない声で。
恵理は嬉しそうな笑顔を浮かべ、さらに台詞を続けた。
「どなた、夜の暗さに潜み、この胸の秘めた思いをお聞きになったのは?」
「ぼくが何者か。名前を聞かれてもどうお答えして良いのやら。ぼくの名前は、聖者よ、我ながら憎らしい、というのもそれがあなたの敵だからです。書いてあればその文字を引き裂いてしまいたい」
「そのお口からの言葉を私の耳は百とは飲み込んでいません、でもお声でわかります。あなたはロミオ? モンタギュー家の」
「いいえ、聖者、どちらの名前もお気に召さぬ以上」
恵理の台詞が、少し途切れる。訝しげに柴山を見た。
柴山は、その視線を感じて、こちらも何だ、とばかりに眉をひそめて恵理を見る。
だが、恵理はその後すぐに台詞を続けた。
だが、声の調子に、少し訝しく思っている調子が表れていた。
「………どのようにしてここに? なんのために? 庭の塀は高くて乗り越えるのは難しいはず、それにここは、あなたのお身を考えると、この家の者に見つかれば死の入り口となりましょう」
「恋の軽い翼でこの塀は飛び越えました、石垣などでどうして恋をしめ出せましょう。恋がなしうることならどんな危険も恋はおかすもの、この家の者がどうしてぼくを妨げられましょう」
「…………………気持ちわる! 何でそんなスラスラ台詞出てくるのよ!」
ついに恵理は耐えられない、と言うように大声を出して遮った。
「はぁ?! お前が最初に振ってきたんだろうが! 言って悪いか!」
柴山も恵理の言葉に怒鳴って返す。
「いや、まさかノってくれるとは思わなかった」
ここで、恵理は急に声を落とした。
柴山も、急に勢いを落とす。
「……いや、まぁ、何となくな……」
口の中で、何やら言葉を濁した。
恵理は気にせずに、嬉しそうに話し始める。
「ねぇ、今度は何がいい? 甘い台詞吐かせたいから、メルヘンでもいってみる?」
「やめろ! もうやらねぇよ!」
柴山は力いっぱい拒絶した。
「何やってんの、彼らは」
偶然通りかかった菊池が、教室にいる可南子に声をかける。
お馴染みの、非常口にいる恵理と柴山を指差して。
「ロミオとジュリエットらしい」
可南子は、柴山と恵理の様子を楽しそうに見ながら答えた。
「うん、そりゃわかるんだけどさ」
「いつものことよ」
可南子のあっさりとした答えに、菊池は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「あぁ……そうなの」
しかし、菊池が恵理と柴山を見続けているのが気になり、可南子は声をかけた。
「なに?」
「いや、今度の学校祭、あいつらが演劇やればいいのにな~って」
菊池の呟きに、可南子は数瞬黙った。
「…………いいね」
※参考は白水社シェイクスピア全集『ロミオとジュリエット』(白水uブックス)より。




