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テスト前

「うあぁ、どうしよう、明日数学のテストだよー」


 恵理は数学の教科書を睨みつけていたが、急に机に突っ伏す。

 現在放課後。恵理とその友人の大山可南子は教室にいた。


「恵理は数学すごい苦手だもんねー」

 恵理の机の前にいた可南子が苦笑いを浮かべていた。

「嫌いじゃないんだけどなー、何かわからないんだよね」

 恵理は起き上がり、また数学の教科書を睨みつけた。


「あんた、そんな睨んでたって頭になんか入らないよ」

「そんなこと言ったって……。そしたら可南子教えてよー」

「あたしだっていっぱいいっぱいよ………あ、柴山君だよ」

 可南子が恵理の目から逃れようと視線をさまよわせていると、廊下の向こうから来る人物に目 を留めた。

 恵理も可南子の目の先を追って、振り向く。

 あの金髪はどうあっても間違えようがない。


「ホントだ。柴山ー、柴山ー」

 柴山は聞こえてくる声に顔を向けた。

 途端に、嫌そうな顔をしてその場に立ち止まった。

「柴山、ちょうどよかった。こっち来てー」

 恵理は気にせず、手を大きく振って柴山を呼ぶ。


「…………」

 柴山は動かない。


「…………」

 恵理も柴山が動かないので、黙って柴山を見る。

 しばらく二人は見合ったまま。


 だが、恵理がじれて、椅子から立ち上がって教室を出ると、柴山の方に向かった。

 柴山はくるりと背を向けて立ち去ろうとするが、恵理は素早く柴山の腕を掴む。


「何逃げようとしてんのよ」

「何の用だよ。お前うざいぞ」


 柴山は口ではそう悪態をつくが、観念したように振り返る。

 そして、恵理の手を振りほどいて、恵理に向き直った。

 恵理は身長の高い柴山を見上げ、柴山を睨みつける。

 そうして向かい合うと、恵理は顔がかわいいだけに、柴山はかすかに罪悪感を感じていた。

「私がどうしようと私の勝手よ」

「じゃあ、俺にだって拒否権があるだろ」

「お互いの意見がぶつかり合う時、力の強い者が勝つ」

 恵理はそう言うと、柴山の手を引いて、教室に連れて行くのだった。

 要するに、柴山は恵理に逆らえなかったということだ。




「で、何だよ」


 柴山が恵理の隣の空席に腰をおろす。

「柴山、数学がわからん」

 恵理はすぐに用件を言う。

「俺もわからん」

 柴山も即答した。


「…………」

 教室にはしばしの沈黙がおりた。


「何でわからんのじゃー! お前理系クラスだろうがー!」

「うるさい! 理系クラスだからって数学が得意と誰が決めたー!」

 沈黙を破って、恵理がバシンと机を叩いて、立ち上がり、柴山を怒鳴りつける。

 柴山も負けじと立ち上がって、恵理に怒鳴り返した。

 可南子は、そんな二人をおもしろそうだという笑顔で眺めていた。


「数学できなかったら理系クラスやってけないじゃないのよ」

「数学なんかある程度できりゃやってけるっつーの」

「私はそのある程度もできないのよ。現に今も教科書見たってさっぱりなのよ。だから『それな り』を教えて、柴山」

「だから何で俺がそんな面倒なことをしなきゃなんねぇんだっつーの」

 何となく落ち着いてきたのか、二人はまた座り直して話し合いを続けていた。

 この二人のテンションはわからんなぁと、可南子は二人の様子を見ながら思っていた。

 落ち着いてきたのなら、明日の数学のテスト範囲の問題集でも解いておこうかな、とも考えて いた。


「ほら、こうしてる間にもどんどん貴重な時間が過ぎてるわ。あんたも明日テストあるでしょ。 勉強とかしないの」

「別にお前に心配されなくたって俺は俺でやるっつの」

「その勉強のついでにさ、私にも教えてよ。っつーか、やってるトコ見せてくれるだけでいいか ら。ほら、そこの黒板で」

「何でそんな公で問題解かなきゃならねぇんだよ。ふざけんな。だいたい問題集に基本的な解き 方とか例題とかあるだろ」

「だって例題ってだいたい簡単なものじゃない。簡単すぎて、テストでなんか絶対使えないじゃ ない」

「お前本当に高校生か? あれを応用して問題解くんだろうが」

「それができないのよ!」

「何偉そうに言ってんだよ。自分ができないからって八つ当たりすんじゃねぇよ!」

「じゃあ、あんたこれできんの? ほら、ここの問8よ。何でこれの面積求められるの?」

「あぁ? ちょっと貸してみろ。ほら、こうやって線ひけばわかるだろ。ここが直角で、ここと ここで三角形ができる。こことここも平行でこっちと角度同じだからこことここが長さが一緒。 それなら三角形の面積が求められて、あとはそれを足し合わせればいい。何でこんな簡単なのが わかんないんだ」


「なるほどー」

 恵理が柴山の言うことを、傍らのノートに書き込んでいた。

 柴山はここで、自分が見事に恵理にはめられたと悟った。


「お前………」

「いやぁ、助かった。次はさ、これなんだけど……」

 恵理がまた次の問題を柴山に指し示した。

 柴山は観念したように、ため息を吐いた。

「……どれ」

 柴山は結局恵理の勉強に付き合うことになった。




「大山、何にやついてんだよ」

「ん? そんなつもりはなかったんだけど?」

「いや、明らかに顔が笑ってるって」

「仮にそうだとしても、あんたにはどうでもいいことだから気にしないでいいよ」

「俺にはそうは思えないんだが」

「自意識過剰なんじゃない?」

「………そうかい」

「柴山、そんなことよりこっちの問題どうすんの?」

「どうすんの? 柴山君?」

「……………………あぁ、これはだな……」

 柴山は、たぶんこいつらには一生勝てない気がする、と思った。

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