みんな違って みんないい
「あれ、フランス革命って何年だっけ?」
私が何気なく世界史の教科書を眺めながら隣の友人に問うと、
「1789」
私の頭上からぼそりと聞きなれた声がした。
「柴山!」
私が机から立ち上がって、教室の廊下側の窓から顔を出した時には、アイツはもう教室から離れていた。
「今わかってたのにー!」
私は悔しげに机に座りこみ、拳で机を叩いた。
「本居宣長が『源氏物語玉の小櫛』で展開した論……」
何気なく国語便覧を眺めて、ふと口にしてみた。
「もののあはれ」
別にクイズを出したわけでもないのに、答えが返ってきた。
聞きなれた声に俺は廊下側の窓から教室の外を見た。
すぐそこには、佐藤がいい気味だと言いたげな笑みをこちらに向け、そして去っていった。
「…………」
俺は無言でその後ろ姿を見送った。
なんとなく、悔しかった。
「藤原四家があってさー」
「四って何あったっけ?」
私が話していると、友人がそう聞いてきた。
「あ……えーとね……」
「北家・房前、南家・武智麻呂、式家・宇合、京家・麻呂」
また聞こえてきた。
さらにスラスラときれいに答えてしまうのが腹が立つ。
「今言おうとしてたの!!」
私は机を両手で叩いて、柴山をきっと睨みつけた。
「あーそーかい」
そう言うと、柴山はあの憎たらしい笑みをうかべて、そのまま自分の教室に入っていった。
「~~~~~!!」
私は悔しまぎれに机を何回も叩いた。
「え、恵理、落ち着いて!」
友人は、私の手を慌てて私の手を抑えてくれた。
「夏の大三角形の星は何?」
佐藤が俺に偉そうにそう問題を出した。
たまに俺が屋上や階段にいると、こうやって話しかけてくることがあるのだ。
今日は屋上への非常階段に座っている所を話しかけられた。
そういえば、こいつの教室はこちらに近かった。
失敗したかも、と思いつつも、俺は佐藤の問題の答えを、頭の中の引き出しから一生懸命探していた。
「………こと座のベガ………わし座のアルタイル………はくちょう座の……………ジュネーブ……?」
「デネブ。どこの国の話よ」
馬鹿にしたように、佐藤はため息まじりにそう言った。
とんちんかんな答えをしてしまったことを知って、俺は恥ずかしくなった。
だが、佐藤の反応はいちいち癇に障る。
「あー! お前いちいちうるせぇんだよ!」
俺はついついそう言ってしまった。
そう言って、佐藤がどういう反応をするかわかっているのに。
それが不毛だとわかっているのに。
なぜか言葉を出さずにはいられない。
「何それ!? 自分が頭悪いからって八つ当たりしないでくれる?」
全く予想通りの反応だった。
そうして、俺と佐藤の応酬は授業開始のチャイムが鳴るまで続けられるのだ。
「……またやってるの?」
「うん、そうみたい」
「あいつらも懲りないねー」
「なんか急に仲良くなったよね、恵理と柴山君」
「どういうつながりなんだかね」
「まぁ、そこも気になるけど……それにしても、柴山君、恵理の前だとキャラ違うよねー」
「恵理が構いたくなるのもわかるっていうかね」
「うん、なんかかわいいよね」
「それにしてもさ、あいつら頭いいのか悪いのかはっきりしてほしいよね。どんだけ勉強大好きなの」
「違う。マニアなのよ。あいつらの問題偏りすぎだもの。明らかに文系科目ばっかよ」
「………確かに。あいつら、できない所を補ってるようで全然補ってないわよね」
「まぁ、それでもいいんじゃない。合ってるわよ、あいつら」
「なんだかんだ言ってね」
そんな会話を友人二人がしているなどと、当の本人達は気づいていないのだった。




