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朝読書

 私は誰もいない学校が好きだ。

 正確に言うと、誰もいない朝の学校が好きだ。

 静かだが、冷たい印象はなく、朝日に眩しい教室は温かかった。

 その温もりに包まれる時間が私は好きだった。

 だからいつも朝早くに学校に行き、誰もいない教室にいる。

 そこで何をしているかと言えば、静かなのを利用して、たまっている本を読んでいる。

 これがとても効果があり、本が進む進む。


 しかしそんな穏やかな朝を壊す声が今日も聞こえてきた。

「つれづれなるままに、日ぐらしすずりにむかひて……」

 声はよかった。少年らしい高くも低くもない声だった。

 まるで国語の授業で作文を読む小学生のような読み方だ。

 しかも字面のまま読んでいる。

 むか「ひ」て、じゃなくて、そこは「い」と読め。

 私が学校に入学してからずっとそいつはそうやって色々な有名作品の有名な部分を大声で読んでいた。

 しかも、廊下を歩きながら読んでいるのだ。

 よく恥ずかしくないなと思う。誰か聞いているとは思わないのだろうか。

 というか、聞かされる方もたまったものじゃない。

 聞かされ続けてもう二ヶ月は経っていた。

 よく自分もここまで我慢したものだ。

 しかし、もう我慢の限界だ。

 ちょうど、そいつは私の教室の横を通り過ぎようとしていた。

 今日こそ物申す!


「あんた! いい加減にしなさいよ!! この学校にいるのはあんただけじゃないんだから、あんまりうるさくしないでよね……!」

「………」


 私がそう声をかけて振り向いたのは、学年では有名な不良だった。

 黒い学ランとではかなりギャップが激しい短めの金髪とピアスがトレードマークだった。

 彼は驚いたように目をまん丸にして私を見ていた。

 相手が相手なだけに、私もさすがに今になって腰がひけてきた。


「……悪かった」

 と、彼は私から目線をそらして、小さな声でそう言った。

 そして、踵を返し、また歩き出していった。


「……あ」


 私はなんとなくそのまま行かせるのはもったいない気がして、なんとか声をかけようと言葉を探した。

「あと! 『むかひて』、じゃなくて、『むかいて』、だよ!」

 彼はまたびっくりしたように体を大きく震わせて、こちらを恐る恐る振り返った。

 今気がついたが、彼の顔は真っ赤だった。

 聞かれて恥ずかしかったのか……?


「あ、ありがとな」


 彼はまた私とは目線を合わさないまま、そう言って今度は走ってその場を去った。

 やっぱり恥ずかしかったようだ。

 ということは、人がいたのに気づいていなかったのか。

 意外な彼の一面が見てしまった。なんだかちょっと得した気分になった。

 また、彼が来たら声をかけてみようか。

 それとも、もう懲りて別な場所で読んでしまうかな。

 まぁ、縁があればまた話しかける機会はあるよ、きっと。


 やっぱり朝の学校は素敵だと思った、そんなある日。

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