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1.菊

私は舞う。遠くにいる貴方に向けて舞う。遠くへ行ってしまった貴方に――。

漏れる吐息に合わせて、手足が動く。慈しみ育てたこの想い、悪いけど、私は笑顔で貴方を地に落とす。

だから、せめて祈らせて。どうか貴方が無事でありますように――。

赤く染まった衣を翻し、私は笑いながら踊り狂う。

どうして? どうして?

貴方の痕跡を探しても、どこにも見つからない。

それでも、貴方がいると信じたい。


最悪の笑顔で、私は舞う。

踊り狂う舞が

心を揺さぶる

そのリズムに身を委ね

夢中で響く

舞い踊る姿が

時を忘れさせる

その魅力に誘われ

心を奪われる


舞う瞬間に

愛情を囁く

その情熱に包まれて

私は幸せを知る


舞う姿が伝える

愛と喜び

その輝きに触れて

魂が躍る


舞い続けよう

永遠に響く

その美しさに魅せられて

心、躍らせる



1760年、空が裂けた。

それはただの天変地異ではなかった。

天から降り注いだのは光、そして異世界の生き物たち。

彼らの存在は人類の常識を覆し、産業と魔導が交わる新時代を告げるものだった。

産業革命と共に蒸気機関が発達し、同時に異世界からもたらされた技術や知識が流れ込み、世界は急速に変貌した。

――そして、20年後の1780年。

「日国帝」はその変化をいち早く吸収し、新たな秩序を築いていた。

異世界の技術は軍事に応用され、蒸気と魔導が融合した兵器が都市を守り、人々の生活にも溶け込んでいる。

だが、その陰には新たな犯罪と謎もまた生まれていた。


赤玉 菊――それが今の私の名前だ。

灰赤色の髪に、青い瞳。

記憶はない。でも、今は探偵として生きている。

……が、今まさに面倒なことが起こっていて、正直逃げたい。

わかってる、これ以上逃げ癖がついたらダメなのも。でも、私は面倒くさいことが大嫌いなのだ。

そう思ってその場から離れようとした、その時――

喧嘩していた男が、子どもに手をあげようとしていた。

瞬間、私はその子を抱きかかえて庇った。


「クソアマ! そこをどけ!」


怒鳴った男に、私は思わず怒鳴り返す。


「誰がクソアマよ!ぶち殺すぞコラ!」


怒気を込めた視線に男がたじろぐのを見届け、私はその隙に子供を抱えたまま走り出した。

後ろから怒鳴り声が聞こえてきたが、無視して探偵事務所『赤玉』に駆け込む。


「……死ぬかと思った……」


床に崩れ込むと、奥からかあ様が怪訝な顔で出てきた。

子どもをおろした私に向かって、かあ様が言う。


「どうしたの〜? そんなに焦って帰ってきて〜」

「男から逃げてきた」

「あら〜!痴情のもつれ〜?」

「違う」

「……え〜、面白くなると思ったのに〜」


ぶつぶつ言いながら、かあ様は気を取り直して事情を聞いてくる。

私は先ほどの出来事を包み隠さず話すと、かあ様は半目になって呆れ顔。


「バカね〜。そこは男に向かって『何言ってんの、図体デカいだけの短小が!』って言わなきゃ〜」


そう言いながら、子どもに「ね〜?」と話しかけている。

このおっとりした口調で暴言を吐くのがかあ様の特徴。だから私は、かあ様を敵に回すのが何より怖い。

私は子どもの方に向き直って聞く。


「大丈夫?」

「大丈夫です!ありがとうございました!」


お辞儀をしてくれた子どもに、私は少し口角を上げて見送った。

階段を上がり、ソファに腰を下ろす。

すると、かあ様が微笑みながら一枚の便箋を差し出してきた。


「依頼よ〜」


それは、日国帝軍からの依頼――いや、命令書だった。


『拝啓

春暖の候、赤玉 菊様におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。


さて、このたび解決していただきたい事件が発生いたしました。

つきましては、日国帝軍特別捜査本部にて詳細をご説明いたします。

何卒、ご助力賜りたくお願い申し上げます。


まずは略儀ながら、書中をもちましてご挨拶申し上げます。


敬具


天明元年 四月十五日

日国帝軍 陸軍元帥 飯島 広信』


はぁ……あの爺さんたち、私が“広信ちゃん”に弱いのをわかってて、わざとこの人に書かせたな。

でも、仕方ない。広信ちゃんのお願いなら叶えないわけにはいかない。

私は顔を上げて、かあ様に言う。


「行ってくるわ」

「アハ〜言うと思った〜。だって差出人、飯島さんだものねぇ〜」


私はトランクに道具を詰め込み、かあ様に見送られながら事務所を出た。

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