幼き日の思い出①
"ルルー!こっち、おいで"
お兄様の呼ぶ声がする
"あ、あっちにお姉様たち、いっちゃった。待って"
私は立ち上がって小径を歩き出した。
と、誰かが薔薇の陰から飛び出てきて、私の前に立ちはだかった
"え?この子だぁれ?"
「あの、こんにちは。」
私は、ひとまず笑顔で挨拶した
「…………」
何も返事がない
逆行ではっきり顔も見えない。頭のてっぺんでふわふわ揺れる銀色の髪が光を反射している
「あの、通してもらえますか?」
「………」
何も返ってこない
"困ったな、でも、向こうへ行きたいし"
私は動こうとしない男の子の脇をすりぬけようとした
すると…
「おい!」
「え?」
肩をつかまれた
「おまえの花、どれだ?」
「え?…ぁ、えーっと、これ…だったかな?」
「なに?おまえ、自分のも知らないの?」
「ち、ちがうよ!さっきまで見てたし。分かるよ」
「ふぅーん。これ?…なんか…」
「なに?」
「…ダッせーの!おまえのだけ、白いんじゃん!」
「ひどい!ダサくないもん!」
「どうだか…」
「っ!?白い薔薇は素敵だもん!」
「けっ」
"!!?"
「…っ…あ、あんたなんかにっ……大嫌いっ!」
うわぁ~~んっ
私は泣きながら男の子を突き飛ばした
一回り私より大きかったけれど、彼は不意を突かれたからか思ったより派手に転んだ
「痛ってぇーな!」
大声で怒鳴られて、男の子が足を擦りむいてしまっているのに気がついて、またさらに私は泣いた
「なに?なにがあったの?」
「あら、大丈夫?」
鳴き声と男の子の大声に、お母様ともう一人女性が駆けつけた
私はお母様に抱きついて、泣きながら、ことの経緯を説明した。
もう一人の女性は、男の子の土を払いながら私の話をきくと、彼を叱りつけた
「こら!ルイ!!なんてこと言うの!!」
彼はチラッ私を見ると、アッカンベーをして「知ーらね!」と走り去っていった
"ん?ルイ?ルイーズ?"
--------
-----
--
ハッ!?!
気がつくとベッドの上
カーテンの隙間から朝陽が差し込んでいた
"あー、夢か…久しぶりに見たなぁ…"
たぶん…あれは、私が4歳くらいのときのことだ。
名前も知らない子に自分の花を貶されて、悲しくて大声で泣いたな…初めて、誰かに怪我をさせてしまって動揺して、それも泣いた原因だったな…泣きつかれてそのまま寝ちゃったから、あの後、男の子に謝れなかったんだ…
ルイ…って夢の中で呼ばれてたけど…
ルイ、ルイーズ??昨日のっ?!
「ぅわぁー」
私は頭に浮かんだ昨夜の彼の顔を手で追い払った
コン、コン
「失礼しますね」
エヴァとメアリが入ってきた
「おはようございます。ルル様、なにか大きな声を出されておりましたが….」
「あー、大丈夫、大丈夫」
「左様ですか?では、朝の支度をいたしましょうか」
髪を梳かしてもらいながら、私はエヴァが今日の予定をきいた
「お昼前に大事なお客様がいらっしゃって、そのまま昼食をともにするようです。ルル様も同席するようにと。」
「分かった、ありがとう」