『葦原と海』『地獄の扉』
『葦原と海』
草々の、穂先に宿る、
愛、風にのり、頬撫でる。
小路を隠し、その奥に、
守りて許す、葦原の国。
岬を抱いた、遠浅の海、
潮の香はこび、鼻をくすぐる。
白波に、青空が笑み、
戯れて憂うは、龍宮の夢。
この世界、彩る色は、
幾千あって、飽きもなく。
眺めるだけで、幸せよ。
でもそれでもと、緑か青か、
問う声に、耳傾けて、
口を噤つぐんで、微笑んだ。
『地獄の扉』
地獄の扉、見たのかい?
腐乱して、蛆が蠢き、
赤、銀、黒で、刺繍され、
体液垂らし、震える臓腑。
耳を聾する、軋轢の咳こみ
肺を蝕む、瘡蓋固み、
爛れた創傷、血膿吹き出す。
不協和音を 聞いたのかい?
悪魔ども、死霊、生霊、
死神たちが、残らず群れては、
愛してくれた、父母さえも、
悪霊ともども、お前のことを、
嘲笑っては、睨んでる。
「死んでしまえ」と、脅すのさ。
腐臭鼻つく、地獄を見たか。
そしてお前も、自らを、
嗤笑して、鞭を打ち、
苦痛の飴を、舐め尽くしたのか。
鉤虫どもに、喰い破られた、
痛む鼓膜は、もはやなく。
それでもお前は、自らに、
死を望む声、まだあるか。
白州にて、首刎ねられて、
三方を前に、屠腹して、
謗り、罵り、耳朶打つか。
まだあるならば、心の奥へ。
地獄の扉、見えたかい?
それは耽美な、耽溺よ。