妙に古臭い恰好をした見物客
轟音を立てて世界初の宇宙旅行船が空の彼方へと飛び立っていった。やがてそれが小さな点へと変わる頃になると打ち上げを見ていた見物人たちは少しずつその数を減らしていき、先ほどまでまるで満員電車の中のような、身をよじるのも難しいほどの人込みであったのが嘘のように人が減っていく。
見物客の整理のために雇われた私は、ようやく少しは一息つけると胸を撫でおろす。しかし見物客の中には、なかなかその場を離れようとしない人も、多くはないが存在していた。
私は体を休めながら、その残った人たちが変なことをしでかさないかと目を光らせる。
そうしている内に、ある人物が目に留まった。着流しとでもいうのだろうか、薄汚れた和装を身に着けた、なにやら場違いで怪しげな風体をした男だ。その男は難しい顔をしながら、もはや雲しか見えなくなってしまった空を睨むようにして見ていた。
いくらかの好奇心が沸き上がった私は、人がほとんどいなくなったこともあって、その男に話しかけることにした。
「あのう、なにかありましたか?」
その男は話しかけられるとは思っていなかったのか、それこそ飛び上がらんばかりに驚くと私の方へと視線を向け、そして大慌てでこう叫んだ。
「うらめしや!」
そして私がその言葉に目を白黒させていると、その男は空に溶けるようにして姿を消してしまった。
男はどこに行ったのだと私が急いで辺りに視線を向かわせると、地面になにやら妙な石が落ちていることに気が付く。
屈みこんでそれを手にしてみると、どうやら古い古い墓石のようだった。
私は、宇宙船の見物をしたがるなど随分と物見高い幽霊もいたものだな、と妙なことを考えながらその石に向かって手を合わせていた。
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