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人の気紛れに  作者: 御堂 三波 (みどう みうねり)
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 ちょっと雑に書き過ぎていた。

 大体は思った後に考えるのだから仕方が無いが、後悔は矢張り避け難い。


 何だか嫌気が差した。子供時分に抱いた精力的な嫌気とは逆の、年寄りの郷愁に似た嫌気だ。反って心地が好い。

 これは逃避にも似るだろうか、行動的逃避は子供の頃に済ませる事が出来、今になって言葉を真に道具として頼り始めたか、然し上手く浮かばず、矢張り頭を掻き毟り、酸欠気味に、結局これも精力的だなと苦笑いの溜め息を零している。


 ある夢を頼りに続きを認める事にした。反抗心は未だ強いと見えて、こんな小説を書かずにはいられない。



宵に漂う波の音に、亦私を誘う懐かしい人影が在り、霧だろうか何処か白みがかった闇に揺れ、誰も居ない公園へ行き着いた。

無知を受け入れるには、認められる事、伝える事、――只書くという事、を諦めなければならない。敢えて書こうとするのならば、その程度の苦労は請け合わなければ進まない。夢は現の為にある。つまりはそういった反作用的な働きなのだ。

ふと振り返り、其処に古い友人の住まいを見た。 誰の家だか思い出せない。考えてみれば見覚えすら無い。


扉を潜ると何時もの様に、見覚えの無い彼女が私を迎えてくれた。彼女は私を慕い尽くしてくれる。人らしからぬ女だ。ある日には迚も美しく輝いていたが――。

幾日か彼女と過ごし、過ごし、今日は送られて初恋の女に会った。その日の晩、彼女は珍しく、私に寄り添う様に、抱かれる様に、背を私の腹へ押し付ける様にして寝ていた。今朝の顔を極限の朧に思い出し、――彼女の顔を見るのが怖くて、そんな状況に興奮を覚えて、見るには見るで亦、ある種の破滅的か、それも好いかなと、罪をか貪る様にきっと目を瞑って接吻した。埋まりそうな気がしたんだ。


目が覚めたかと思った。誰も居ないと確信出来るこの布団の中へ安堵した。毒の効力も失せただろうと思った。私は静かに目を閉じた。


相変わらず追われる様に家を後にした。相変わらず暗く細い上下左右に捻れた道を選んで歩いた。それでいて部分的にはずっと平坦だ。山を横へ据えて、古い道を何処からか持ち来て、海辺に落っことした様な、そんな乾いた道だ。

横には庭の様に小さく、荒れて、見様に依ては整った、雑多な畑が何処迄も連なっている。赤土の土には、粘土細工の様な、亦雑多な、鳥々の死骸が混ぜ込まれていた。中には別の鳥を飲み込もうとする静止の鳥もある。今のは珍しかったなと、旅の心地を喜んだ。

暫く歩くと、前を歩く二人の老人へ俯瞰した。


あの旅館で惨殺が起こった、あの旅館、――そんな記憶が生じた。

〽︎あんな事は許せない。あの旅館はもう駄目だね。

〽︎まあそう言うもんじゃない。直接何か粗相があった訳でも無し、古い旅館だし続けてもらいたい。そして長く続けば何かは起こるものだよ。

〽︎庇うのかい。

〽︎そういう訳じゃあねぇけど……何時も気の毒だろう……――今度は其処の女が記憶として生じた。これも亦古いな。

弔いはとそんな拍子で脇道に、送り火点る霧隠れ、死体の溜まり場に逸れようとする。

〽︎行くのかい。

受け身の側が一人で向かうがつまり、責めるのは事柄か、或いはだからきっかけさえあればそういう類いのものか然し、――向かった者が戦き、――確かに札に包まれた空間は古の様に異様だった――そう戻った彼には穏やかだった。

〽︎それは確かに怖いだろうな。

彼は只知っているのだろう。

そう終われば締まったかも分からないが、此処で私は漠然と、誇示する様な素振りに恐れを成したかと納得したのだ。それは自らの。


向かう先は学校だった。どうしてか警察に追われた事もあり、もう既に皆集まっている。――その時にはやくざ者が壁となって、私や逃げ惑う町人達を救ってくれた。そう私も逃げる側――惑っていたつもりは無いし、逃げるのも楽しいからそれも悪くはないが、人の温かみに触れると、惨めになる。――同じく、壁になる、のも亦逃げるのとそう変わらない気がするが、それでも、だからこそか楽しめる気もしたから、包丁を一つ拾ったが其処からの記憶が無い。


窓から出て肘を置き、格好付けて煙草を吸って、好い心地で居た。

広場では布の出来を競っていた。私のは二十位だった。

喧嘩もした。突き落とし復逃げる事にもなった。近代的な川の横を行き、橋の下の階段を行き、隠れ家の様な場所を見付け、子供の様に眠った。似た様な若い男女が数組居たが反って落ち着いた。楽しむ気すらした。更に上には芝生もあった。――そろそろ限界だから落っこちよう。――



 夢が金になると思えば――と、はは、前にもそんな事を書いたかな。

 眠りを憚るのも子供返かな。朝の支度をしておけば眠れるだろうか。或いはしようというその億劫が睡魔を引き連れて――然し持て成すのは達成感だろうから、矢張り未だ眠るには足りない。

 気付けば復そんな朝が来る。

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