一
どうにもならなくなったから、一先ず一冊分、書いてみる事にした。
書いてみたいものは山程ある。それは漠然として、何やら面白そうだ。如何にも小説らしい。それが気付けば書きたい事に埋め尽くされている。明白な思いは何やら小説らしからぬし、面白がって読むのは私だけなのだろうと漸く思う。だから一先ず、小説と評論の間の子――エッセイか或いはラノベ――今の私に取っては単なる、便利な言い訳だ――それで金や同情をせびるかは保留して、そういった類いのものに興じる事にした。事実私は楽しんでいる。
楽しんでしまえばそれが目的になるのか。愈々何もせびれなくなるな。いや然しこれもまた漠然なる想像があってこそか。つまり私は今夢に没している訳だ。飲酒に疲れ、素面に至る所を掻き毟ってしまう代わりに、この夢見心地を得た訳だ。――と、何時もこの調子だ。
こんな女々しさや乳臭さを密かに嫌い、人を見下し乍らかわいこぶってる。あれが許されるのだからこれも許されるだろうと、誰が許したか等も気にせずまた、見下しているその誰かを言い訳に使う。これを書いている私は笑っているのだけれど、矢張りその誰かは笑ってくれないだろうなと、こうしてあざとさを散りばめる。
何かに怯えた時に仲間を欲する。そんな夢を見る。今、そんな夢を見ている。
やめる言い訳を繕った後で、これに比べれば人頼りでも、続ける方がよっぽどましだなと、そんな事は、酒には頼れないが酔って忘れる事にした。
思いの外進まないな。かと言って溜まりに溜まったメモ書きを今更引っ張り出して来る気にもなれない。第一、これの目的は今の全てを一先ず残し、僅か乍らにでも楽になる事だ。と書くと想像遥かに、滑稽だな。
滑稽は生まれからか。笑える滑稽なら良しとしよう。
繰り返すようで申し訳ないが、私は笑っている。
これからどうしようか。と書いてしまう所迄行き詰まった。然しこれからどうしよう。
生きる事にするなら仕事を探さなければならない。それも楽しめそうな心地ではあるけど、あの子の職場を探してしまいそうで怖い上、やっぱり彼の仕事と比べてしまう。恋も夢も捨てられない。
まあ先ずは生きている理由と生きる目的とを整理しよう。何故か死にたい理由を考えてしまったが、それは楽に生きる為に否定したいから、否定して欲しいから、本の少しでも改めて欲しいから、だろうから、それは後で書くとして、先ずは生きる方を考えよう。
生まれた所から始まり、育てられた所へ進み、今に生きてる。金も運も人並みに持ち、人並み程度の度胸と才と人望しか持たず、執着心と体の丈夫さを持て余している為に、今こうしてこんなものを書いていられる程度に自由に健全に生きている。
目的と言えば矢張り恋と夢だが、恋は絶たれ夢は潰えた。恋はどうも人らしい信仰に近く、夢は人でなしの哲学に近かった様だが、今は何方もこの上無く個人的で腐り切った言い訳だ。強いて言えばそれは、生きていた理由だ。
とすると然し、生きる目的が見当たらない。執着を目的とは呼べないし、恥も何も死なない事の言い訳にしかならない。死んでしまえば関係無い筈だろうから。少なくともそう、思っているのだから。
煮詰まった。
ああ、これから、というのを小説への入り口にすれば良かった。例えば本当に夢に落つる……とか。
ならいっそそんな事より、怠惰を緩和する手段でも考えようか。怠惰が一番の天敵であるし。
それでやっぱりあれ等もこっちへ移そうか。丁度似た様な話だ。
睡魔に翻り苛立ちに凪いだ。そういえば、あの日はあれで眠ってしまったなと。
書いている私が主人公だとか、動物だとか、それで小説になるだろうか。――今日はまた、酒に頼った。書き始めたあの日を除く、何時もの様に。
少し変えよう。やっぱりあれもここで良い。何も別に、ははは、この為に飲んだ訳じゃない。大差はないがそう書かずにもいられない。それでは丸で、楽しめていないかの様だから。
歌声が話し声に聞こえる程度には飲んだ。だから何とは、楽しいからいい。どうせ……はは、あれも、ここに書くかな。冷めた気がするのも酒の所為なんだろう?やっぱり何かを重ねてるよ。
だけどやっぱりさ、ここ迄惚れられたのは、幸せな事だと思うんだよ。だって今、あはは、笑ってるんだよ。ちゃんと惚れた。はははそう、惚れる事が出来たって意味でさ。あの子には嫌われちゃったからね。だけどあの子はそんなには変わらなかったから、ちゃんとの範疇に、おさまってるよね。
多分只気持ち悪かっただけ。
それが最悪なんだけど。
あ、そういえば僕も、そんなには変わってないね。……その程度の、とは思いたくない。
趣味を真似たのは、影響を受けてると思いたかったからかな。結局、僕は僕の事が一番好きなんだね。
影響を受けたのは趣味だけだよ。そう思ったら、何も許されない中で、あの子に、痛みと快楽で殺して欲しいと思ったよ。酔いが覚めて来たら、多分あの子をおかずに、また――。
ああそうか、執着どころか、単に好きだから、生きてるのか。そう思うと、寧ろそれ以外に理由なんてないだろうとすら思えて来るね。
怠惰に関してはまあ、衝動を肯定し続ければ何とかなるだろうと思う。
だろうと思ってばかりなのは、それが思考だから仕方無い。