第一話 政略結婚でも選ぶ権利はある
全八話です。
ぶっちゃけ——顔と性格が好みではなかった。
「聞いていますこと? ハルフィリア・ソルフェリノ。私、レナート様からこのようなものをいただきましたのよ!」
そう言ってナタリアは豊かな金髪を揺らしつつ、私へ胸元に光るブローチを見せた。
この国の紋章を豪奢に象った、王位継承者の配偶者に贈られるその品を見て、舞踏会の会場である広間にいる周囲の女性陣が感嘆の声を漏らす。それに気を良くしたナタリアが、ふふん、と鼻を鳴らして私へ見せびらかした。もう年頃のご令嬢なのだから、その子供っぽさはどうかと私は思う。
「どうかしら? 私、レナート様と将来を誓い合いましたの。婚約者であるあなたはこれをいただけなかったのでしょう?」
「ええ、まあ、いらないけど」
「いらない……?」
ナタリアが怪訝そうに、苛立ちを隠した顔で私を睨む。
私はそのレナートの婚約者、どうもそう見られていた。このウィスタリア王国の第三王子、この国においては年齢や序列は関係なく、王位継承者となれればそれだけで小国の王以上の待遇を約束される。その王子たちが必ず王位継承権を争ってウィスタリア国王を目指し、さらに正妃の子であるレナートは第三王子という立場ながら兄たちよりも王位に近いところにいる。
まあ、それはいいとして。
「ナタリア」
「呼び捨てにしないでくださる?」
「では、ナタリア・ヴァーミリオン」
「だから、名前につけるべき言葉あるでしょう? 敬称が」
「ミセスとオールドレディのどちらがいい?」
「失礼な!? だからレナート様に振られるのよ!」
「いえ、多分まだ話が広がっていないだけで」
私はちゃんと説明しようとした。
そのときだった。
舞踏会に参加する人々の視線が、入り口へと向かう。
入ってきたのは第二王子ユーグと第三王子レナートだ。この二人は熾烈に王位継承権を争っているが、公の場では仲良くやっている。自分たちの顔のよさを知っている、だから争う醜態は見せない、と徹底していた。
いや、そんなところが私は嫌いなんだけど。
ナタリアが私を押しのけ、レナートへ目配せする。するとレナートは上機嫌にやってきて——私の顔を見て、凍りついていた。幸いにして、それが分かるのは私だけだ。
「さあ、レナート様! ハルフィリアにちゃんと引導を渡してあげてくださいな! ハルフィリアったらまだあなたの婚約者だと思っていましてよ!」
「あ、ああ、そうだな」
レナートは必死に隠しているものの、挙動不審でボロを出すのは時間の問題だ。
なので、私は気を遣った。
「レナート様、おめでとうございます。それでは私はこれで」
「ちょっと、ハルフィリア!」
「まあまあナタリア、もういい。じゃあ、ハル」
「ええ、それでは」
私はレナートと目も合わさず、舞踏会の会場を後にした。
そのことが人々にどう伝わったか。
『第三王子レナート殿下、ヴァーミリオン公爵家令嬢ナタリアと正式に婚約。かねてから婚約者と見られていたソルフェリノ王国王女ハルフィリアとの関係は解消され——その経緯はどうやら円満に終わったようである』
それはそれで、間違ってはいないからいいや。
前に書いてたやつが出てきたので(以下略、パート2)です。
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あと画面の向こうではゴリラが喜んで踊ってると思ってください。