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神隠しのサイカイは。  作者: 八戸之部花信
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その子の名前は

さて、私の癖についてだ。


とは言ってもそんなに大した事ではないけれど。

1人足りない気がする。

それが知らぬ間に身についてしまった私の癖。


メールの友達のリストを見る時、


電話帳に登録されている名前を見る時。


あるいは友達の名簿やリストを見る時に、私の中での

違和感としてそれは表面化する。

だから何という訳でも無い。

むしろ無意識の中で通り過ぎてもいいような、些細で

繊細で微々たるものなのに。


そんな違和感と、神隠しに遭ったという既成事実。


加えて私はそれ程人に話し掛けることが得意な性格では無い。それらが組み合わさった結果、

私は小学校時代はそれなりに孤立していた。


それでも、中学校に入ってからは少なくはない数の友達が出来た。素直に嬉しかった。

高校生となった今でも交流は続けているし、高校でも

友達が出来た。

私にはもったいない程の幸運だと思う。


さて、長々と話した湿っぽい話は終わり。今私は

そんな幸運のひとつ、中学校からの友達の那結と一緒に

家への道のりを歩いている。


聞けば今度空手の大会があるそうで、近くの神社に

一緒に参拝して欲しいとの事。

そのくらいならお易い御用だ、陰ながら応援の意味を

込めて一緒に優勝を願ってあげよう。


那結は神隠しの事を知っている。私から八つ当たりの

ように話したからだ。

先程話した通り、小学校では1人だった。ひとりぼっちの下校道は寒々しくて寂しかった。


それが6年間続けば誰でも慣れよう。


それでも心のどこかで期待していたのだと思う。


中学校に入れば何か変わるんじゃないか、独りでは

なくなるのでは無いか...そんな、自分ではなく周りが変わることを期待するような者に変化が訪れる訳もなく。

暫くは独りのままだった。


そんな当たり前のことを分かっていなかった私は...


...いや。本当は分かっていた。


けれど虚勢を張って独りなんか気にしないフリをしていた。

本当はずっと寂しかった癖に。そんななけなしの虚勢を剝ごうとするかのように那結が鬱陶しく構ってきたものだから、

思わずプッツンとなってしまったのだ。


どうせあの事を話せば離れていく。


故に話した。

薄っぺらい慰めの言葉を口にしながら、

うわべだけの笑みを浮かべて、

コイツも離れていくのだろう、そう思って。

なのに友達になってくれた。


感謝してもし足りない、勿体ない友達である。

「本当に大丈夫?」

「だから大丈夫だって。トラウマのトの字も無いし」

「警戒心は?」

「けの字も無い!」

「逆に問題だよ??」

「なんなら初詣には神社行ってるし」

「えぇー!?」


まぁそんな非科学的な事を那結が心配していると判明しただけでも成果はあった。

「無いから。」

さて、せいぜい那結が相手全員をぼっこぼこにして

無双してスーパーミラクル高校生として凄い有名になるように願っておこう!

私は多くは望まない。

僅かなことしか頼まないでおく。

「どの口が言うか」

そろそろ帰らないといけないなぁ。と、馬鹿なことをやりながらも那結が帰路につき、私も帰ろうと

何気なく振り返った時だった。


息が止まった。


関係もトラウマも無いなどとんでもない。

私がまさに見つかった神社。来るのは、初めてだった。

息を、ゆっくり吸う。


試したいことがあった。


境内に至るまでには、それなりに道が整備されている。

1段、また1段と登る度に息が詰まりそうだった。


あの木も、あの岩も、全てに見覚えがあって。


行こうなんて思ってもいなかった癖に、

怖くないなんて嘘な癖に、

それでも親に詳しく尋ねる事を辞めなかったのは

何故だろう。


鳥居に着いた。

相変わらず静謐としていて、荘厳な空気。さっきは気づかなかったその空気。踏み入る前に、足元にメモを落とした。

異国の御伽噺のように、もしもの時の道しるべになる事を願って。


もっともその相手は私では無い。


まず一礼。


中央から入るような無礼はしない。


左の方に身を寄せてくぐり抜け、


右足をそっと出す。


歩くという動作にこれ程集中した事は未だかつて無い。


刃の上か、雲の上かは分からないが、そんな心地で

歩を進めた。

廟に到達した。ここから失敗は許されない。


そつま一礼。

みたび一礼。


拍手をふたつ重ねてから、

4度目になる礼をする。


左手を挙げて、天から降りてくる縄を掴む。

弱く1回、強く2回。

そういえば、神社を訪れて鈴を鳴らす時の私の鳴らし方のくせはこうだったと思い出す。


じゃらじゃらと鳴る鈴の音。


神を呼ぶその音に被せて、私は


「う゛、あ゛あ゛あ゛あっ」


頽れていた。


脳裏に響き、沁み渡り。

五臓六腑に訴えかけてもまだ足りない。


縋るように縄を掴みながら、地に膝を着く。

涙で視界が曖昧になる。


どうして忘れていた。


どうして分からなかった。


あぁ、そうだった。


私はここで、ペタリと座り込んでいる所を近所に住む

若い夫婦に見つけられたのだった。


いや、違う。


その、夫婦は。


行方不明になったもう1人の子供、


自分達の子供を探しに来ていたのに。


助ける為のその手は、間違った方の手を引いた。


守る為の両手は、宙に浮いた。


わたしが、夫婦から子供を奪ったのだ。


...勿論わたしがとった訳では無い。決して無い。

そうだった。

わたしの他にも行方不明になったもう1人の子供がいた。

わたしが、忘れていただけの事。


「結依......」


名前は結依。

今となってはもう居ない。

存在の全ては消え失せた。

わたしの心友である。

投稿遅れてごめんなさい...!

色々立て込んでおりました。

詳しいことは投稿報告にて書いておきます。


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